半導体ウォッチ

半導体ウォッチ(13)

ニッポン太陽電池産業が地球を救う?(後編)

豊崎 禎久 ジェイスター株式会社 代表取締役 2008/7/10

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太陽電池市場に参入しない日本半導体企業

 2008年6月に東京応化と米IBMが非シリコン系のCIGS(銅(Cu)・インジウム(In)・ガリウム(Ga)・セレン(Se))太陽電池モジュールの製造プロセス技術、材料および装置の共同開発を行うことを発表した。米Intelも社内の新規事業部門を分社化し、太陽電池開発ベンチャーの設立を発表し、この分野への事業拡大を狙っている。

 独Qimondaは独Centresolarと合弁企業を設立。多結晶シリコンの太陽電池事業へ乗り出した。米CypressはSunPowerを子会社化、米National SemiconductorはSolar Magic技術で太陽電池市場に参入する。

 また、米Nanosolarが太陽電池モジュールを年間1GWの規模で製造する装置を開発したと明らかにするなど、米国の環境市場の拡大と技術開発は急速に進んでいる。それだけではない。アジアでも動きが見られる。NexPower Technologyは台湾United Micro-electronics Corp社(UMC)ファンドリー企業の子会社である。20億台湾ドルを投じて、薄膜シリコン型太陽電池の製造ラインを台湾の新竹市に構築した。

表1 太陽電池の種類と変換効率(出典:ジェイスター)
主材料
製法
種類
シェア
変換効率
シリコン系 バルクモジュール 単結晶Si 83% 13〜15%
多結晶Si
HIT 単結晶Si/アモルファスSi 4% 16〜18%
薄膜モジュール アモルファスSi 10% a-si
6〜8%

タンデム型
9〜12%
化合物系 CI(G)S 9〜12%
CdTe(カドミウムテルル) 9〜11%
有機色素 色素増感型 3% 9〜11%

 多くの企業が、太陽電池産業に参入しているが、日本の半導体メーカーは残念のことに1社も参入をしていない。ソニーが製造コストの安い色素増感太陽電池を開発したと発表している程度である。ソニーは、いまのところは太陽電池の事業化は未定である。

 太陽電池には、いま非常に強い需要があり、なおかつ高い利益が確保できる。このリセッションの無い市場に参入しない。これが日本の常識論なのであろう。課題となっている多結晶シリコンなど材料メーカー各社が増産計画を打ち出している。チッソ、新日鉱ホールディングス、東邦チタニウムの3社が設立した合弁会社は、2010年度から太陽光パネルの主要原料の1つである多結晶シリコンを年間400トン製造することを発表した。2012年度には3000トン体制、将来は1万トン体制を目指す。

 シリコンウェハメーカーのSUMCOも佐賀に新工場を設立し、太陽電池向けウェハの大幅増産を行う。エム・セテックやJFEスチールも増産する。半導体向けで世界最大手の信越半導体は、太陽電池向けを手掛けていないが、将来の有望市場として調査・研究しているとしており、参入してくる可能性もある。

表2 各社のシリコン増産などの取り組み(出典:ジェイスター)
社名
既存・新規
(新技術)
取り組み
米Hemlock 既存メーカー ・2009年に1.9万トン、2011年に3.6万トンへ増強(うち太陽電池向け約4割)。出資比率:ダウコーニンング 63.25%、信越化学工業 24.5%、三菱マテリアル 12.25%
・太陽電池用顆粒状シリコンの開発中
独Wacker 既存メーカー ・2010年に2.15万トンへ増強
・2008年末太陽電池用Si製造ブラント新設 (年間650トン)
ノルウェー REC 既存メーカー ・2010年に2万トン、2014年に4万トンへ増強
・2005年コマツから米国子会社ASiMI工場を買収
・太陽電池用専業で急成長
トクヤマ 既存メーカー
(VLD法)
・2009年春に、8,200トンへ増強(うち太陽電池向け1,040トン)
・太陽電池向けの溶融析出法(VLD)を開発中
三菱マテリアル 既存メーカー ・2010年までに日本と米国の工場を増強し、4,300トンへ
・2007年4月に三菱マテリアルポリシリコンを吸収合併
中LDK Solar 新規参入 ・太陽電池用多結晶シリコンプラント建設中
・2005年設立
・2007年にニューヨーク証券取引所(NYME)に上場
・Qimondaとのシリコン供給契約を締結
米Hoku Materials 新規参入 ・2008年後半までに生産を開始予定(アイダホ州・多結晶Si)
・燃料電池メーカーHokuScientific社の子会社
JFEスチール 新規参入
(治金法)
・2006年10月太陽電池向け多結晶Siの生産を開始(2008年計画生産400トン)
・精錬技術等を活用した製法
NSソーラーシステム 新規参入
(治金法)
・2006年10月参入(2008年計画生産401トン)
・精錬技術等を活用した製法
・新日鉄マテリアルズの子会社
日本ソーラーシリコン 新規参入
(CSS法)
・2008年6月をめどに、量産化技術の確立を目指す
・2007年1月多結晶Si生産へ参入
・CSS(亜鉛還元法)技術を共同開発(初期年産能力100トン)
・出資比率:窒素50%、新日鉱ホールディングス30%、東邦チタニウム20%
シャープ 新規参入
(治金法)
・2007年12月本格稼動(年産1,000トン)
・太陽電池パネルを作る際のシリコン片等を再利用
・RECとのシリコン長期供給契約を締結

 表2は、各社シリコン増産発表をまとめたものである。ジェイスターの最新多結晶シリコンの予測では、多結晶シリコンの世界は、各社増産体制により供給と需給のバランスは取れるものと見ている。ジェイスターの最新の調査では、2010年の多結晶シリコンの市場勢力図は、下記のようになると予測する。

米国 4万2900トン/年
欧州 3万6000トン/年
中国 12万5800トン/年
韓国 5万8000トン/年
日本 1万9100トン/年
出典:ジェイスター(2008年3月)

 2006年生産実績は3万3300トンで、2010年以降の稼働中・工場着工済みの生産量は15万4700トン、計画中ものを含むと28万1800トンとなる。半導体用途は2010年以降の需要も30000トン/年である。日本のトクヤマなど有力企業も2010年以降には、トップ10外となり、結果的に、日本の予測シェアは、5.8%程度となるだろう。

 この供給量に対して、安易に薄膜系太陽電池に技術をシフトさせることは日本太陽電池メーカーが世界と差別化ができなくなることになる。経営陣には、慎重に判断し欲しい。

関連情報
SUMCO、太陽電池ウェハ4倍に増産――佐賀に新工場(NIKKEI NETより)
http://eco.nikkei.co.jp/news/nikkei/article.aspx?id=MMECn1039910092007
“イケイケ”の太陽電池業界、洞爺湖サミットが追い風となるか(diamond.co.jpより)
http://diamond.jp/series/inside/06_14_005/
キマンダとCentroSolar Group、太陽電池の製造で合弁会社設立(キマンダWebサイトより)
http://www.qimonda.jp/about/press/releases/CentroSolar_J.html
サイプレスCEO:「エネルギー問題の解決には戦略の転換が必要」(CNET Japanより)
http://japan.cnet.com/interview/biz/story/0,2000055955,20200328,00.htm
ナショナル セミコンダクター 太陽光発電の性能を最大限に高める新技術により 太陽光発電システム市場に参入(ナショナル セミコンダクターWebサイトより)
http://www.national.com/JPN/news/item/0,4140,719,00.html
コマツ、多結晶Si事業の米国子会社ASiMIを売却へ(Semiconductor Internationalより)
http://www.sijapan.com/breaking/0506/30bu_komatsuseisakusho050629.html

日本の行くべき道とは

 今後、日本にとって、戦略上重要なのは、資源外交である。シリコン系・化合物系太陽電池(半導体、液晶、自動車など全産業で必要となる)の原材料となるレアアースやレアメタルは海外からほぼすべてを輸入に依存しており、特に多結晶シリコンの原材料のケイ石は中国から約80%輸入している。中国はすでに戦略物資であるレアアースなどの輸出制限を始めており、自国産業育成の名のもとに、日本のエレクトロニクス産業を一掃することも可能であるということは十分理解しておく必要がある。

 よって、日本の取るべき道は、中国をアジア圏経済産業戦略パートナーとポジショニングし、中国国家元首(胡錦濤国家主席)が来日した際のメッセージである日中「戦略的互恵関係」を早期に拡大をすべきである。中国は、資源大国であり、資源調達の大国でもある。隣国との無益な争いは極力避け、アジアの発展とともに日本の成長を見い出す必要があるだろう。

ハイテク王国ニッポン復権のシナリオ

 日本は、2008年7月に開催された主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)の議長国である。世界の温室効果ガスの排出量を2050年までに半減させるには、先進国は60〜80%の大幅削減が求められている。

 最新の国際エネルギー機関(IEA)のエネルギー技術予測の報告書によれば、世界各国の政府が現行の経済・産業政策を維持した場合、2050年までに世界のCO2排出量は130%、原油需要は70%増加する可能性があるという驚くべき見通しを示した。この報告書には2050年までに、CO2排出量を半減させるためには総額45兆米ドルの投資が必要とある。

 CO2排出量を減らすため各国政府は、地球温暖化に対する取り組みの協調と地球規模のエネルギー技術革命を実現しなければならない。地球温暖化という地球規模のピンチは、環境ハイテクの先進国である日本には、大きなビジネスチャンスとなろう。

 日本が世界に貢献できる事は何か? これは、日本のハイテク産業界にも問われている命題でもある。地球温暖化を改善するためには、当然ながら、太陽電池を採用した次世代自動車、次世代統合型ポータブルデバイス(iPhoneを超えるような)、環境半導体(SiC・GaNパワーデバイス)など環境テクノロジーに期待が高まることになる。

 北海道洞爺湖サミットは、地球環境サミットと銘打っている。サミット開催に合わせ、前もって噂されていた税制や電力買い取りといった、太陽光発電への優遇策「福田ビジョン」が打ち出された。これは日本国、産業界には必ずプラスに働くことになる。しかし、われわれは肝に銘じなければならないことがある。

 過去の歴史が物語るように巨大文明は必ず滅んだということである。テクノロジーが万能でなく、テクノロジーにおぼれるものはテクノロジーに滅ぼされるということである。 自然への崇拝や恐れの喪失、自然を軽視すると、必ずしっぺ返しを受けることになる。これがいま、地球規模で現れている気候変動なのかもしれない。エネルギーや食糧の消費もある。

 ジェイスターが予測する「未来は暗い」。これが冷徹な現状分析なのである。しかし、多くの困難を乗り越えてきた日本国(人)は、自国の経験した公害や環境問題、省エネなど技術により、世界に尊敬され貢献できるだろう。日本の環境テクノロジーを世界に配信しつつも、企業としてきちんと収益を上げるモデルを日本企業は確立しなければならい。そのためには、日本政府に対する産業界の正しきロビー活動も必要となる。


関連情報
世界のCO2排出量、現行政策継続なら2050年までに倍増=IEA(ロイターより)
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-32138920080606

 
筆者紹介
ジェイスター株式会社 代表取締役
豊崎 禎久(とよさき よしひさ)


米フェアチャイルド社、ソニー セミコンダクター社、米シグネティックス社、蘭フィリップス・セミコンダクタ社などを経て、米LSIロジック社では開発戦略を立案するストラテジック・マーケティングとして活躍。米ガートナー社の日本半導体市場およびロジック、マイクロコンポーネント、IP市場とマルチメディア機器の主席アナリストに着任。

米調査会社で日本法人代表を務め、2006年4月エレクトロニクス・半導体・エネルギー分野における調査・研究・戦略コンサルティング事業を行うジェイスター株式会社を設立し、代表取締役就任。現在、産業アナリスト、エコノミストとしてブルームバーグTVや日経CNBCなどに定期的に出演、講演多数。

元NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)技術委員、元東京工業大学精密工学研究所パテント評価委員、福岡先端ハイテクLSI開発クラスター外部評価委員会委員、神奈川県知事のプライベート・アドバイザー、自由民主党本部にて参議院議員 岸信夫氏と共に「これからの日本産業を考える会」を発足。座長を務める。
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