電脳猫突撃レポート −ET2008−

電脳猫突撃レポート −ET2008−

わたしたちは何によって生き延びられるのか?

みわよしこ  2008/12/15

2008年11月19〜21日、「100年に1度」といわれる経済危機の真っただ中で、組み込みシステム業界最大のイベントの1つ「ET2008」が、例年と同様に開催された。出展社数は450社、来場者数は2万8892人。いずれも過去最大規模である。今回は、ET2008の会場の様子から、組み込みシステム業界にとっての“生存のヒント”を探ってみたい。

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「いかに作るか」を競う時代ではない?

 ニッポンの製造業は、地盤沈下が問題となって久しい。

 日本の技術開発の重心は長らく、「何を作るか」ではなく「いかに作るか」に置かれており、ビジネスモデルは「いかに作るか」で勝てる状況を前提として成立していた。

 しかし、「何を作るか」「いかに売るか」「売れる仕掛けを作るには」が勝負どころになった現在となっては、「いかに作るか」における強みを生かすことは難しい。製造業では原材料や生産設備に対して多額の先行投資が必要なので、人件費を安く抑えなくてはならず、若者にとって魅力的な産業であるとはいい難い……というのが現在の日本における定説だ。

 これらの1つずつが事実である。現在の製造業は、安定や繁栄を意味する産業ではなくなっている。もっといえば、この世界的な経済危機の中、どこにも安定や繁栄はない。営業力も販売力も必要であるし、もちろん企業には経営力が必要だ。しかし、他者が作った何かをうまく売る、高く売ることだけが評価される社会では、いずれは作り手が消滅してしまう。

 しばしば、

「技術はカネを生まない」

といわれるけれども、営業・販売・経営が重要であるからといって、技術そのものが不要になるわけではない。

 一方で、技術者が育ち続けて技術開発が持続される土壌は、経済の生態系と呼ぶべきものによって支えられている。技術や技術者を海外から安価に購入できるのは、販売して外貨に交換することが可能な何かを保有している、あるいは生産し続けられる間に限って可能なことである。

 本稿では、ET2008会場で筆者が注目した5社の実例を通して、技術開発を持続させるための「強み」について考察したい。

関連リンク:
ET2008特集ページ−@IT MONOist
http://monoist.atmarkit.co.jp/tokusyu/et2008/
インテル、「Atom」を武器にアミューズメント市場へ−@IT MONOist「組み込み開発」
http://monoist.atmarkit.co.jp/fembedded/articles/et2008/01/et2008_01a.html
交通インフラと連携する“安全な自動車”への取り組み
http://monoist.atmarkit.co.jp/fembedded/articles/et2008/02/et2008_02a.html

確かな技術の強さ−アックス「絹」

 アックスは、自社開発のRTOS「XTAL」から出発した企業である。自社でリアルタイムOSを実際に作り上げることができる強みは、その後の製品ラインアップにも存分に生かされている。

 今回のET2008で、アックスは独自開発したPOSIX準拠RTOS「絹」を発表していた。日本で最も技術者層の厚いRTOSはμITRONであるが、「絹」はIEEE 1003.13規格(POSIX)に準拠したRTOSである。自社のXTALとμITRONとの間でAPI互換性を持ち、「絹」とμITRONのタスク間でプロセス間通信を行うことができる。カーネルの大きさは32kbytes程度で、コンパクトさを誇るμITRONに対しても遜色がない。

 これらの特徴は、μITRONのソフトウェア資産を生かしつつ、組み込みLinux開発の経験を持つ技術者を広く受け入れることにつながる。また、RTOSが自社開発されたものであるということは、例えば受託開発を行うとして、製品投入後のフォローも行えるということを意味する。「技術者の確保に苦労しない」「アフターフォロー体制も万全である」ということが、ユーザー企業にとっての“安心感”となることはいうまでもない。

 画像1画像2は、「絹」のデモンストレーションの様子である。NECエレクトロニクスのV850を搭載した基板上で、62.5μ秒の周期起動タスクによってMusic Macro Language(パソコンでの音楽演奏に用いられるマクロ言語)の解釈を行い、音楽を演奏させている。このとき、別タスクを動作させ、タスクの切り替えも行っている。V850はCISCであり、1命令当たりのクロック数が一定しないので、実時間でのタスク切り替えを行いながらの音楽再生は非常に困難である。しかし、音声再生は非常に滑らかで途切れず、オシロスコープに表示される波形にも乱れがない。リアルタイムでのマルチタスク処理能力を、目と耳に如実に示すデモンストレーションであった。

 
画像1 「絹」のデモ(その1)
画像2 「絹」のデモ(その2)

関連リンク:
アックスの組み込みLinuxはほかと根本的に違う−@IT MONOist「組み込み開発」
http://monoist.atmarkit.co.jp/fembedded/01axe/axe01.html
アックス
http://www.axe-inc.co.jp/
XTAL
http://www.xtal.org/

http://www.kynux.com/

作った者の強さ−アットマークテクノ「Armadillo-500 FX」

 アットマークテクノは、パネルコンピュータ開発プラットフォーム「Armadillo-500 FX」を出展していた(画像3)

画像3 アットマークテクノの「Armadillo-500 FX」

 購入すればすぐに、パネルコンピュータ製品の開発を行うことが可能な製品だ。開発環境、ソースコード、回路図など、開発を行うに当たって必要なものは、すべて添付されている。開発キットは12万8100円(税込)で提供されており、個人で「自分の製品アイデアを実装して営業する」といったことも不可能ではない価格である。10年前のWebビジネスの世界では、ちょっとしたアイデアを実装することでビジネスを立ち上げることが十分に可能であったが、現在の組み込みシステム開発にその世界が立ち現れたようである。「誰でも“何を作るか”で勝負できる時代になった」といっても過言ではない。もちろん、「何を」は「いつまでに」と不可分なので、実際には開発体力に依存する話となるわけだが。

 では、アットマークテクノ自身の強みはどこにあるのだろうか? それは「何を作るか」と「いかに作るか」の両方で勝負できるという点にある。自分自身が開発者であり、開発者の悩みや痛みが理解できるということにある。過去のアットマークテクノの製品ラインアップは、「こんなボードから開発をスタートできれば」という技術者のあこがれを実現したものであり、「大量生産するわけではない開発現場で、数個の製品に対するFPGAのプログラムの書き込みを少しだけ速く行えれば」という技術者の小さな希望を実現したものであった。「Armadillo」シリーズの特徴は、豊富なI/Oである。「必要とするI/Oはそろっている」を前提として開発をスタートできることのありがたみを、あえて技術者に説明する必要はないだろう(画像4)(画像5)

 
画像4 Armadillo-500 FXの構造(その1)
Armadillo-500 CPUモジュール+FXボード
画像5 Armadillo-500 FXの構造(その2)
インターフェイスボード

関連リンク:
FPGA+Linuxで“究極のプラットフォーム”提供−@IT MONOist「組み込み開発」
http://monoist.atmarkit.co.jp/fembedded/14attechno/attechno01.html
アットマークテクノ
http://www.atmark-techno.com/
Armadillo-500 FX
http://www.atmark-techno.com/products/armadillo/a500fx

形にする者の強さ−シリコンリナックス「CAT760」

 シリコンリナックスは小規模ながら、すでに日本の組み込みLinuxシステムでは「老舗」と呼ぶべき存在である。同社は、評価ボード「CAT760」にLinuxを搭載し、液晶ディスプレイと組み合わせ、そこに「DirectFB」で描画を行うデモを行っていた(画像6)。ちなみに、この組み合わせを発展させたものを液晶開発キット「PlusG」として販売する予定だという(画像7)

 
画像6 「CAT760」のデモ
画像7 液晶開発キット「PlusG」

 2000年前後、「組み込みLinuxバブル」と呼ぶべき状況があった。新しいビジネスチャンスを求めて、数多くの企業が組み込みLinuxの世界に参入してきた。中には、自社開発をまったく行っていない企業もあった。また、企業体力に任せてアイデアの特許化をビジネス化することに専念している企業もあった。特許を出すほどの体力を持たない中小企業からは、

「じゃあ、キミたちに何か作れるのか?」

という恨み節が聞こえてきたものである。

 シリコンリナックスは、社長の海老原 祐太郎氏が1人でハードウェアの開発を行い、OSを搭載し、ソフトウェアを開発するところから出発した企業である。「何か作れるのか?」といわれる側ではなく、いえる側である。製品を形にできる立場は強い。形にしたプロトタイプを基に、いかようにも提案を行うことが可能なのだ。プロトタイプは製品そのものではないが、プロトタイプがなければ完成品はない。

 今回は、千葉県漁業協同組合連合会の競りシステムへの応用例が参考展示されていた(画像8)

画像8 千葉県漁業協同組合連合会の競りシステム

 魚の競りといえば、鮮魚を目の前にした仲買人の駆け引きというイメージが強いけれども、競りを無言のうちに厳正に行うシステムが、現在は求められているのである。組み込みシステムの応用の可能性は、このような方面にも開かれている。

関連リンク:
シリコンリナックス
http://www.si-linux.co.jp/
CAT760
http://www.si-linux.co.jp/index.php?CAT%2FCAT760
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