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組み込みシステムと開発評価用ボード
表3の中で特に説明を要するのは、ハードウェアである「開発評価用ボード」に関する標準仕様の規定である。
ソフトウェアの互換性を高めるには、その実行環境であるOSはもちろん、ハードウェアの標準仕様を決めてしまうのが一番の早道である。この点で最も身近な例はPCである。PC/AT互換機として仕様が標準化されたハードウェアの上で、多くのアプリケーションプログラムやデバイスドライバがバイナリ互換で動いている。PCの世界では、すでに「強い標準化」が実現されており、ソフトウェアの互換性や流通といった面で苦労することは少ない。
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| 標準T-Engineボードの例 |
しかしながら、組み込みシステムのハードウェアを標準化するのは不可能である。なぜならば、組み込みシステムのハードウェアは、その組み込みシステム自身の商品企画を密接に反映したものであり、その商品の本質だからである。組み込みシステムの場合、ハードウェアが主役であり、その制御用コンピュータやソフトウェアは脇役にすぎない。組み込みシステムの商品市場ではハードウェアの差異を競う必要があり、標準化によってそのハードウェアを決めてしまうことは、組み込みシステムの機能や商品企画を拘束し、新商品開発の余地をなくしてしまうという弊害を生む。
ソフトウェアの開発効率を向上し、ミドルウェアやデバイスドライバの流通性を高めるにはハードウェアを標準化したい。しかし、組み込みシステムという性質上、ハードウェアの標準化は不可能である。このような矛盾を含む問題に対して、T-Engineプロジェクトでは「開発評価用ボード」のハードウェア仕様を標準化するという手法で解決を図っている。
開発評価用ボードとは、組み込みシステムの最終商品となるハードウェア(デジタルカメラの例でいえば、カメラの形をした最終的な商品と同じハードウェア)が完成するまでの間に、ソフトウェアの開発や評価を進めておくためのボードコンピュータであり、「ブレッドボード」などと呼ばれることもある。まずは開発評価用ボードの上で動くソフトウェアを開発し、最終的なハードウェアができた段階でそれを移植するという段取りになるので、二度手間に見えるが、標準化された開発評価用ボードによってその手間を上回るメリットが生じる。
メリットの1つは、最終ハードウェアの完成前から、開発評価用ボードを利用してソフトウェアの開発を始められることである。また、開発評価用ボードの上である程度のソフトウェアを作ることにより、最終製品のプロトタイプを動かせるので、それによるデモンストレーションを行ったり、プロトタイプでの評価をフィードバックして製品を改良することもできる。
もう1つの大きなメリットは、開発評価用ボードの標準化により、PCと同様に、その上ですぐに動くミドルウェアやデバイスドライバをオブジェクトコードで流通できることである。これは、ミドルウェアやデバイスドライバの試用、評価、プロトタイプ的な利用などを行う際に特に便利な機能であり、T-Engineによる標準化の大きな狙いもここにある。
開発中の製品に近い環境上で組み込みシステム用ミドルウェアを試用、評価する場合、従来はそのソースプログラムを入手し、開発中のハードウェア上で実行できるように調整や移植作業を行う必要があった。この場合、移植やコンパイルなどの手間が掛かるのみならず、ソースを入手するために高額の費用を要する場合が多く、評価目的での手軽な利用が難しかった。
T-Engineプロジェクトでは、リアルタイムOSである「T-Kernel」やデバイスドライバのAPIの標準化に加えて、開発評価用ボードのハードウェアも標準化することによりこの問題を解決している。実際、開発評価用のミドルウェアをT-Engine上で実行可能なオブジェクトコードの形態で提供する商品が、いくつか発売されている。
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| 画面1 PMC T-Shell開発キット(画像をクリックすると拡大します) |
ちなみに、開発評価用ボードを利用して組み込みシステムを開発するというスタイルは、T-Engineに限ったものではない。これまでにも、各半導体メーカーが自社のCPUを積んだ独自の開発評価用ボードを提供している例はあった。しかしながら、T-Engineプロジェクトでは、CPUメーカーやボードメーカーの区別なく、開発評価用ボードの仕様を標準化、共通化している点に特色がある。具体的には、付属する周辺I/Oの機能(PCMCIA、USB、シリアルなど)やそのコネクタ位置、ボードの物理サイズなどが定められている。
組み込みシステム開発者の立場から見ると、標準化されたT-Engine共通のハードウェア仕様の下で、SH系、MIPS系、ARM系など多くのメーカーのいろいろなCPUを自由に選択して利用でき、さらに開発開始後であってもCPUの変更が比較的自由にできるなど、T-Engineによるメリットは大きい。
| 関連リンク(T-Engine開発評価用ボードメーカー): | |
| アルティマ http://altimanet.com/altima/products/tengine_board.htm |
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| パーソナルメディア http://www.personal-media.co.jp/te/ |
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| 日立超LSIシステムズ http://www.hitachi-ul.co.jp/SH-SE/TENGINE/ |
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| 横河ディジタルコンピュータ http://www.yokogawa-digital.com/emb/product/T-EngineBoard.html |
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| ルネサステクノロジ http://japan.renesas.com/fmwk.jsp?cnt=t_engine_mid_level_landing.jsp &fp=/products/tools/platform/t_engine/ |
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繰り返しになるが、T-Engineプロジェクトでは、最終製品のハードウェア仕様を標準化しているのではなく、プロトタイプ開発やソフトウェア流通のための開発評価用ボードの仕様を標準化しているのである。最終製品のハードウェアでは、製品に最適な構成となるように、ハードウェアの変更やチューニングを自由に行ってよい。例えば、T-Engineの開発評価用ボード(標準T-Engineボード)にはUSB端子が付いているが、最終製品でUSBが不要ならこれを外しても構わない。ボードのサイズや拡張バスのコネクタについても、開発評価用ボードである標準T-Engineボードでは規定があるが、最終製品のハードウェアでその規定にとらわれる必要はない。この点は、T-Engineベースの製品を開発する際によく誤解される点なので、再度ご確認いただければと思う。
T-Engine開発キットとT-Engine Appliance
T-Engineベースのソフトウェアやハードウェアの開発を行うための便利なパッケージ商品として、「T-Engine開発キット」が販売されている。T-Engine開発キットには、T-Engineの開発評価用ボード(実行用ハードウェア)に加えて、リアルタイムOSであるT-Kernelやファイルシステムなどの開発用基本ミドルウェア(T-Kernel Extension)、デバイスドライバ、コンパイラやライブラリなどの開発環境や開発ツール類が含まれている。このキットと開発用のホストPC(WindowsまたはLinux)を用意するだけで、すぐに開発を始めることができる。T-Engine開発キットにはSH系、MIPS系、ARM系など、CPUの機種別に多くの種類があり、用途や最終製品で採用予定のCPUに応じて選択できる。
また、表4で紹介した開発評価用のミドルウェア以外にもLCDボードやLANボード、FPGAボード、ユニバーサルボードなどのオプションボード類が豊富に用意されている。これらのハードウェアやソフトウェアを組み合わせることによって、組み込み機器のプロトタイプを短期間に開発することができる。
このほか、LANやDIOなど開発評価や組み込み制御に便利な機能を備えたT-Engineの応用製品(「T-Engine Appliance」と呼ぶ)も、いくつか販売されている。これらの応用製品は、物理形状や周辺I/Oなどのハードウェアに関してはT-Engine仕様準拠ではないものの、ソフトウェア構成はT-Engineとまったく同じであり、互換性も高い。デバイスにあまり依存しないミドルウェアやアプリケーションを開発する目的であれば、T-Engine開発キットと同様に、これらの応用製品も利用できる。
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ITRONとT-Engineは、いずれもリアルタイムOSを核とした標準化プロジェクトであり、その流れも共通であるが、それぞれの時代背景に合わせてアピールすべき点を変えてきた。
ITRONが使われ始めた1980〜1990年代には、これまでOSを使っていなかった組み込みシステムにリアルタイムOSを導入することに重点が置かれた。そのためには、OS導入によるオーバーヘッドを最小限にする必要があり、ITRONでは「弱い標準化」をその特徴としてアピールした。一方、21世紀になるとソフトウェアの開発効率向上のため、ソフトウェアの互換性、流通性を高めることがますます重要な要件となってきた。その結果、ITRONのような「弱い標準化」では不十分であるという認識の下に、標準化の範囲を広げ、標準化の内容も深化する方針となった。この方針を実践し、開発用プラットフォームとしての完成度をはるかに高めたのがT-Engineプロジェクトである。T-Engineの発想は、PC上で実現されているようなバイナリプログラムの互換性や流通性を、組み込みの世界でも実現したいということであった。
T-Engineプロジェクトの最新の成果については、TRON関連の情報誌「TRONWARE」や別冊TRONWARE「T-Engine」などの書籍で随時紹介している。また、毎年開催されるEmbedded Technology/組込み総合技術展のT-Engineフォーラムなど関連ブースやTRONSHOWなどの展示会でも見ることができる予定である。
この機会にぜひT-Engineの世界を体験し、組み込みシステムの開発の足掛かりとして活用いただければ幸いである。
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