仕事にちゃんと役立つ材料力学(7)

硬さを表すヤング率は“材料のバネ定数”

栗崎 彰 キャドラボ 2008/7/31

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金属の「硬さ」を示す定数「ヤング率」

 これまでの応力―ひずみ曲線の中のオレンジ色で示してきた領域、つまり、ひずみと応力が比例する領域だけをクローズアップして考えてみましょう。ここで、第5回にて解説したフックの法則*1を思い出してください。*1 フックの法則:バネの伸びは、それに加えられた力に比例する。その比例定数をバネ定数という。


図3 フックの法則

 図3グラフの横軸の「伸びた長さ」は、非常に乱暴ではありますが、「ひずみ」と定性的に同じものです。また、このグラフの縦軸の「応力」も、これまた乱暴ではありますが、「応力」と定性的に同じです。そう考えると、応力―ひずみ曲線の比例部分と、フックの法則は同じようなものであるということが分かります。

 フックの法則のバネ定数に当たるものを、応力―ひずみ曲線では「ヤング率」といいます。誤解を恐れずいい切れば、ヤング率は「材料のバネ定数」ということになります。バネにも、軟らかいバネと硬いバネがあるように、材料にも、軟らかい材料と硬い材料があります。その程度を表すのがヤング率です。材料の定数の中で、一番、重要な定数ですので忘れないでおいてください。ヤング率は、英語で「Young's modulus」、別名「縦弾性係数」といいます。また記号では「E」と書きます。もちろん材料によってヤング率は異なります。

 そういうわけで、第5回で出した課題の解答は、以下のようになります(図4)。

図4 第5回で出した問題の解答 ※画像クリックで表示します

 図4の式を変形してみます。両辺を「ひずみ」で割ると、以下図5のようになります。

図5 ヤング率を求める公式

 ヤング率の単位を確認しておきましょう。図5の式を見れば明らかですね。ひずみには単位がないので、ヤング率の単位は応力の単位そのものになります。[Pa](パスカル)ですね。金属材料のヤング率は一般的に大きな値なので、[MPa](メガ・パスカル)や[GPa](ギガ・パスカル)で表されます。

 さて、もう一歩だけ踏み込んで、このグラフを分析してみましょう。応力―ひずみ曲線の比例領域だけに注目しましょう。まず、応力とひずみは比例するので、グラフは直線になります。

図6 ヤング率を求める公式

 図6には2つの材料の応力―ひずみ曲線の比例部分が描かれています。同じひずみでも、材料Aの方が材料Bより応力が大きくなります。また、同じ応力でも材料Bの方が材料Aよりひずみが大きくなります。

 フックの法則に立ち戻り、上記の“応力”を“力”、“ひずみ”を“伸びた長さ”と置き換えて考えてみましょう。

 図6右のグラフを見てください。例えば、同じ力でも材料Bの方が材料Aより伸びた長さが長い、ということになります。

「材料Aと材料Bのバネ、どちらが軟らかいでしょうか?
そしてどちらが硬いのでしょう?」

 答えはカンタンです。材料Aのバネが硬いバネ、材料Bが軟らかいバネです。これは材料そのものにもいえることなのです。

。oO 筆者のつぶやき

物理の天才・ヤングの生い立ち

 ヤング率の「ヤング」は人の名前です。フックのときと同じように、人物探訪してみましょう。ヤング率がより身近なものになることを期待しつつ。ヤングのフルネームは、トーマス・ヤングです。フックの没後、70年を経てからイギリスで生まれました。メインは物理学です。神童を地でいく天才肌だったらしく、2歳で字を読み、4歳で聖書を2回も読んだらしいです。そしてさらに14歳のときには、ラテン語で自伝を書いたとか……。

 学生時代は、天才、奇才と呼ばれ、卒業後には特に光の分野で大活躍したようです。さらに、医学、生物学から、果ては諸外国語までも使いこなし、エジプトの象形文字の研究までやったツワモノだそうです。

 肩書きはさらにすごくて、物理学者のほかにも、医師、度量衡委員、自然哲学教授、海軍省顧問、古典学者、考古学者、保険会社監事など、さまざまな才能を発揮したようです。そして、さらにヤング率。この世に材料力学のある限り、この名前は永久に不滅です。

力の状態とタテとヨコとが織りなす弾性係数

 さて、ヤング率については、シッカリとイメージできましたか? ヤング率は別名、「縦弾性係数」であるということは説明しました。僕は初めてこの言葉を聞いたとき、「縦弾性係数があるなら、横弾性係数はあるのか?」と思いました。ここではそれについて解説したいと思います。

 実はこれまで何度も登場した応力-ひずみ線図であいまいにしてきたことがあります。これはどんな実験により得られたグラフなのか? ということです。

 部品には、さまざまな大きさの力がさまざまな方向から掛かるわけですが、いくつかの種類に分類することができます。「こんな力」「あんな力」といっても、力の状態を伝えるのには限度があるようで、大体5つに集約して力の状態をできるだけ正確に伝えます(図7)。

図7 用語とその状態

 この5つの状態は、消しゴムで表現できますから、手元に消しゴムがある人はこの5つの状態を再現してみてください。同じ長さ分なら、引っ張るよりも圧縮する方が力が必要だったりします。消しゴムが外からの力に抵抗しているのが感触を通して伝わってきます(写真1)。

写真1 消しゴムで試してみよう

 応力―ひずみ曲線はどんな実験により得られたグラフなのか。ヤング率つまり縦弾性係数の測定実験は、引張り力を掛けた状態で行います。古典的な方法から近代的な方法までさまざまな測定方法があります。これまで登場してきた応力―ひずみ曲線はその測定方法に従ってデータが採取されグラフが描かれているわけです。

 ここで測定方法を詳しく説明すると横道にそれるので、Webサイトの紹介で切り抜けたいと思います。

ヤング率(大阪教育大学 種村研究室)
http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~masako/exp/ewing/Young.htm

 このサイトではヤング率について、アニメーションなどを使いながら分かりやすく説明しています。ヤング率のまとめと整理という意味でも参考にしてみてください。このサイトの中にヤング率の測定方法の説明もあります。

 引張りの力の場では、垂直応力がメインとなります。つまり縦弾性係数は、垂直応力と垂直ひずみの間に成り立つ、比例定数ということになります。

 ここで最初の「横弾性係数はあるのか?」という疑問に戻りますが、その答えは「Yes」です。これはせん断応力とせん断ひずみの間に成り立つ、比例定数です。記号では「G」で表されます。せん断ひずみ、せん断応力については、これまでの回を読んで復習してみてください。

。oO 筆者のつぶやき

よく縦横っていうけど、どういう基準なわけ?

 「縦弾性係数」、「横弾性係数」の「縦」や「横」って、とても大ざっぱな言葉だと思いませんか? 何で「垂直弾性係数」や「せん断弾性係数」っていわないのかなぁと思っています。縦は、視線の上下方向を示す場合が多いようです。垂直方向もまさに同じ。横は、視線の左右方向を示す場合が多いですね。水平方向もまさに同じ。なんか考え出すと、思考の迷宮に入ってしまいます。いやあ、日本語ってホントに難しいですね。


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