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トヨタ自動車は2008年8月28日の経営説明会で、2009年の世界販売台数を当初目標の1040万台から970万台へと下方修正した。先進国の景気後退が予想以上に進んだためとしている。7月には2008年度の世界販売台数を当初の985万台から950万台に下方修正していた。度重なる販売目標の下方修正は、日本の製造業が置かれている現在の厳しい経営環境を象徴している。
米国や欧州など先進国を巻き込みつつある世界的な景気後退は、日本のものづくり企業に深刻な打撃を与えかねない。各社の生き残り戦術は、先進国の景気にさほど影響を受けていないBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)など新興国へどれだけ短期間にシフトできるかにかかっているだろう。日本の得意とする自動車、AVや薄型テレビといったハイテク機器などは、今後グローバル市場でどれだけ競争力を発揮できるだろうか。BRICsで圧倒的なシェアを取っているのは韓国企業といわれている。彼らはなぜ新興国市場で成功できたのか。
今回のモノづくり最前線レポートは2008年8月27日に東京・目黒で開催された「富士通PLM実践フォーラム2008」から、東京大学 大学院 経済学研究科 ものづくり経営研究センターの特任研究員、吉川良三氏の基調講演を要約してお届けする。吉川氏は韓国サムスン電子に1994〜2004年まで約10年間在籍し、同社の成長に貢献された。日韓両国のものづくりを比較して、これから日本のものづくり企業がどうあるべきか、吉川氏の貴重な提言を紹介しよう。
| 関連情報 | |
| 東京大学 大学院 経済学研究科 ものづくり経営研究センター | |
グローバル化の波に乗り遅れたニッポン製造業
基調講演の冒頭、吉川氏は聴衆に向かってある問い掛けをした。「皆さんは“国際化”と“グローバル化”の違いを正しく認識しているだろうか」。ほとんどの日本人は両者を同義語と考えており、日本の製造業各社が1990年代に多くの生産拠点をアジアに進出させた事実をもって、日本はすでにグローバル化を達成したと思い込んでいる。吉川氏によれば、生産拠点の海外移転は国際化であって、グローバル化とは大違いであるという。
では、グローバル化とは何だろうか。グローバル企業の1つの条件として、吉川氏は企業の売上高営業利益率(以下、利益率)を例として取り上げた。表1は日本の主要電機メーカーとサムスン電子の2007年度決算内容を比較したものである。
| 日立製作所 | 11兆2267億円
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3455億円
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3.1%
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| ソニー | 8兆8714億円
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3745億円
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4.2%
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| 松下電器産業 | 9兆0689億円
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5194億円
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5.7%
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| サムスン電子 | 11兆8209億円
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1兆767億円
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9.1%
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| 表1 日韓主要電気メーカーの利益率 日本企業は2008年3月期決算。サムスン電子は2007年12月期決算。サムスン電子の数値は1ウォン=0.12円(2007年12月のレート)で円に換算 |
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日立製作所、ソニー、松下電器産業は売上高こそ10兆円前後でサムスン電子と互角であるが、利益率を見るとサムスン電子の9.1%に比べて半分程度にとどまっている。しかしサムスン電子の利益率9.1%をすごいと思ってはいけないのだ。
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| 東京大学 大学院 経済学研究科 ものづくり経営研究センター 特任研究員 吉川良三氏 |
「2007年の利益率が10%を切ったことで、サムスン電子のかなりの役員が解雇された。当時、サムスン電子の会長だった李健熙(イ・ゴンヒ)氏は、グローバルな企業競争の中で利益率が10%を切ればその企業は相手にされなくなる、という考えだった。日本のエレクトロニクス系企業の利益率は3〜5%台、これではグローバル企業とは呼べない」と吉川氏は手厳しく指摘した。
BRICs諸国の人は、日立、ソニー、松下といった日本企業は知らないのだという。日本製の家電製品はそもそも売っていないし、看板も出ていない。もし日本製品が市場に参入してきたら、彼らはその会社はどれくらい利益を出しているかを知ろうとする。彼らの論理では、「利益を出しているのはいい会社だ、いい会社は技術力がある」となる。だから利益率の低い日本企業は、品質も悪いと決め付けられてしまう。
現在の主要な電気製品(AV、情報・通信、白物家電、半導体)のグローバルシェアは、上位のほとんどが韓国のサムスン電子やLG電子で占められている。かつて上位は日本企業の独壇場だったが、いまその面影は残っていない。そして現在、その差はさらに広がっている状況だ。
吉川氏は「日本企業はなぜ競争力を失ってしまったのか。技術がなくて負けたのか。日本人は、韓国や中国などの新興国に技術力をキャッチアップされて、製品競争力を失いつつあるのではないかと自信喪失になっている。しかし私はそうではないと思う。グローバル化への対応に遅れてしまったのが原因だ」とし、以下のような分析を示した。
「日本企業は世界に対して最先端の技術を搭載した製品を輸出しているが、製品戦略が画一的でインドでも中国でも先進国向けと同じようなテレビ、同じような洗濯機を出している。そうした最先端のハイテク製品はごく一部の富裕層しか購入できない。日本をはじめ先進国の多くの企業は世界市場のごく一部の富裕層を狙って競争をしているが、なぜ世界の65億人を1つの市場として見ないのか」
そして、価格が高過ぎて売れにくい日本製品の欠点は、日本人のイノベーション至上主義に原因があると指摘する。
「日本は技術的なイノベーションを過剰に信奉するが、それを追求することが本当にこれからのグローバル経済の中で、競争優位の源泉につながっているのだろうか。なぜならサムスン電子など韓国・中国・インドなどで急成長している企業を見ると、彼らの所有している技術にあまりイノベーションは起こっていない。イノベーションを起こしているのは主に日本企業であり、新興国の企業はそれを引き継いで彼らなりのビジネスに結び付けているにすぎない。ところが各企業の利益率を比べてみると、日本は多くのイノベーションを起こしているにもかかわらず、大した利益を出せずにいる。おいしい実はすべて摘み取られているという状況だ。それはなぜなのだろうか」
吉川氏は東京大学 ものづくり経営研究センターで「ものづくり産業地政学」という仮説を立て研究している。地政学とは本来、地理的な環境が国家に与える政治・軍事・経済などの影響をマクロ視点で研究する学問だが、ものづくりも地政学的な観点に立って貿易相手国の地理や文化、歴史などを研究していく必要があると痛切に感じているそうだ。
ものづくりにおける韓国と日本の相違点
吉川氏の唱える「ものづくり産業地政学」では、
- ものづくりの経営戦略と開発プロセスは、その国の環境や文化によって異なっているのではないか
- イノベーションを追求することは、競争優位の源泉につながっているのか
という2つの疑問に着目しているという。前者の疑問に対しては、日本と韓国ではものづくりに対する考え方が大きく異なっているという。
「韓国と日本は文化がものすごく違う。そしてものづくりの違いは歴史・文化の違いに大きく依存していると強く感じた。韓国は『理』の世界と『気』の世界をはっきりと区別している。『理』とは論理や倫理のことで、『気』とは感情や人情のこと。日本人は仕事中は『理』の世界にいて、アフター5になると『気』の世界に入って一杯飲んでストレスを発散させる。ところが韓国人は『理』と『気』の世界は交わろうとしない」
これは儒教に由来する思想で、韓国では「両班」(やんばん)を頂点とする身分制度ができた。両班とは官僚制の最高位にあり、貴族的で労働を嫌う精神構造を持つとされる。
「韓国で『理』の世界の人とは高学歴の人。彼らは頭を使うが、手足を使った仕事をしようとしない。手足を使って働くのは『気』の世界の人で、『理』の人からは一段低く見られている。『理』の人は頭脳で勝負する。これを製造業に当てはめると『企業戦略』に相当してくる。『気』の世界は製造現場のこと。ここが日本と韓国のものづくりで大きく違う部分だ」
そして「理」の世界で勝負をするサムスン電子は、どのようなものづくり戦略を展開して、世界的な企業に成長していったのか。
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