モノづくり最前線レポート

モノづくり最前線レポート(5)
  〜富士通PLM実践フォーラム2008レポート〜

ニッポンに圧勝したサムスンのグローバル戦略

上島 康夫 @IT MONOist編集部 2008/9/9

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グローバル企業の条件とは

 「サムスン電子が高収益を出す源泉を一言でいえば、経営戦略の国際化からグローバル化への転換だ。これは言葉遊びではなく、製品開発戦略、プロセス、組織能力、IT戦略の4つをすべてグローバリゼーションに対応できるよう変革したのだ。サムスン電子に代表される韓国のものづくり企業が大きく変身した契機は、1997年のアジア通貨危機だった。現代グループは財閥解体になり、大宇財閥は散り散りバラバラ、そうした中サムスンも大変危険な状態だった。そのときに、真剣にグローバリゼーションとは何かと考えて、大きな変身を遂げた」

 それではサムスン電子のグローバル化戦略を吉川氏の言葉に従って要約してみよう。

R&Dのグローバル化

 「ものづくりのグローバル化とは、市場が大きくグローバル化してきたということ。市場のイノベーションが起こっている。調達がグローバル化されている。これに対応するためR&Dのグローバル化が求められている。ところが日本はここに気付いていない。以前、経済産業省が日本の主な企業に国際分業に関するアンケートを取ったところ、R&Dを海外に移している企業は1つもなかった。いまもないだろう。設計に関しては、生産技術のところだけ数社が海外移転しているが、設計・開発の機能はほとんど海外移転されていない。ほとんどの企業は工場を移転しているだけである」

図1 研究開発拠点の立地(2004年12月、経済産業省調べ、n=394)
ものづくり政策懇談会(第1回)配付資料より転載

 これに対して、サムスン電子は韓国のほかに、日本、ヨーロッパ、アジアなど主要な市場ごとの拠点に本社機能を持たせているという。各本社に、R&Dから設計・開発を含めて、現地の市場特性に合った製品を開発しているのだ。

ものづくりのデジタル化

 「ものづくりがデジタル化すると、QCDがいままでの考え方とまるで違ってくる。日本は中国、タイ、マレーシアなどに工場を移転させた。つまり人件費の安いところへ出て行ったという戦略だが、これはアナログでものづくりをしてきた時代の考え方である。アナログ時代は人件費が製造原価に占める割合が非常に高い。ところがデジタルなものづくりになると、製造原価に占める人件費の割合なんてせいぜい1〜3%程度。だから、仮に人件費がゼロになっても3%のコスト削減にしかならない。人件費削減など、あまり意味がないということ。デジタル化はものづくりを非常に大きく変えている」

 日本企業のように、生産部門だけを海外移転させても、グローバルな競争力につながらないということだ。それでは、なぜサムスン電子は海外に出て行く必要があったのか。

人材育成のグローバル化

 「国際化とは、海外に工場や拠点を持っていたり海外の企業に投資していること。日本はほとんどの企業が国際化にとどまっている。これに対してグローバル化というのは、市場として期待される地域に開発拠点や工場を置いて、その国の文化に合った地域密着型のものづくりをすることだ。この地域密着型というのが大切で、サムスン電子は人材育成を根本から変えた。例えば中国に行くなら中国語を覚える、インドならヒンドゥー語、ブラジルならポルトガル語といったように、海外拠点に派遣する社員には現地語の教育を徹底して実施した。現地の言葉で話さなければ、その国の文化は分からない。そういった人の育成から組織の作り方まで徹底して現地に合わせて変えていったというのが、サムスン電子のグローバル化だった」

 こうして地域密着型の製品開発を目指したサムスン電子だが、肝心の開発プロセスはどのようになっているのか。

サムスン電子の高収益源“リバースエンジニアリング”とは?

 新たな製品開発では、まず「要求機能」があって、それに合った「要素機能」に分析・分解して機能設計を行うのだが、最終的な「構造」が決まる前に「機構設計」という段階がある。機構を決めるにはさまざまな制約条件があり、いくつもの機構を組み合わせて最適なものを決めていく。そしてようやく構造が決定される。ここまではCADなどのツールが使えず、設計者の頭の中にアイデアがあって、それをポンチ絵にしたりブレインストーミングをしたりして設計を進める。吉川氏はこの開発プロセスを「フォワード型」と呼び、この部分に日本は相当の開発期間を費やしていると分析する。

 ところがサムスン電子は、日本が製品を発表してからそれを購入してものづくりを始めるから、構造はすでに分かっている。日本人が苦労して最適設計したものを出発点として、構造から機構を分析し、機能を設計して完成品としている。これを元の製品と同じようにして作ると模倣品となってしまうが、サムスン電子ではそうはしない。ここからが勝負である。

 「要素機能に分析・分解した後に、地域に密着した製品開発に基づいて機能を分けていくのがサムスン電子の『リバース型設計』だ。例えば、家電品は価格が月給を超えると手が出なくなるといわれている。インドの平均的な労働者の月給は1万円前後なので、インドでテレビや洗濯機を売ろうとしたら1万円以下の製品を作るのが絶対条件だ。その価格で作るにはどのような機能を盛り込んで、どの程度の品質が必要なのか、その分析を基に開発していく(図2)」

 図2 製品開発におけるフォワード型開発とリバース型開発
 吉川氏の発表資料より引用
 Copyright © 2008 東京大学MMRC R. YOSHIKAWA

 「BRICsの人口は30億人といわれているが、ブラジルやインドでは90%以上の人が韓国のサムスン電子かLG電子の製品を使っているといわれている。日本の製品はほぼ全滅だ。なぜなら十数万円もする洗濯機や冷蔵庫を売っていたら、ごく一部の人しか買えない。これがサムスン電子を成功させた地域密着型の製品開発だ」

 日本はフォワード型の開発設計において、多くのイノベーションを生み出してきた。プラズマテレビや液晶テレビなどはそのいい例だ。サムスン電子は、イノベーションを自ら起こすことをせず、日本から情報を入手して3年後には同じものを作れるようになればいいとする。日本で革新的な製品が発売されたら、そこから追随できるように準備している。その代わり、商品企画(マーケティング)には非常に力を入れているという。

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