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i-MiEV(アイ・ミーブ)成功の裏側から
事例セッション「進化する電気自動車『i-MiEV』(アイ・ミーブ)」と題した講演では三菱自動車工業 開発本部 EV・パワートレインシステム技術部 担当部長 和田 憲一郎氏が登壇した。
i-MiEVについては、昨年の発表以来各所で注目されているとおり、あらためて言及するまでもなく、従来の電気自動車の持つ弱点をクリアして、本格的に電気自動車市場を開拓すべく投入されたクルマだ。発表後も車体そのものだけでなく、自動車メーカーが目指すこれからのクルマづくりを示唆するさまざまなニュースが投下されている。講演の前日にも、三菱自動車からPSAプジョー・シトロエンへのi-MiEV開発供給について、最終合意が発表されたばかりだ。
当日は、i-MiEVのコンセプチュアルな商品作りの裏側と電気自動車が実現する次世代社会インフラ像が語られた。
マーケティングリサーチと横連携による課題解決策
i-MiEV登場以前にも電気自動車は存在していたが、実用化に際しては数々の障壁があった。ごく簡単にいうと、充電時間の長さ、電池性能、電池性能に付随した走行距離上の課題などの理由で実用性ある商品にはなり難いものになっていたのだ。
同社では、こうした課題を克服するため、事前のマーケティング時に必要な走行距離を算出、1度の充電であまり条件を付けずに100kmを走ればほとんどの利用者のニーズに対応できるとの結果を基に、まずは100km走ることをターゲットとした。また、充電時間が長く掛かり実用的ではない、というイメージを払しょくするために、スピーディな充電(急速充電)を実現する機構を持つことも重視した。
この結果を受け、3種類の充電方式への対応と、電力会社などを巻き込んだ急速充電システムの開発、電池開発のために複数社共同出資による新会社設立と、着実に課題をクリアするための準備を進めていたのである。
効率的開発のための方策〜車体検討と事前CAE解析による追い込み
自動車の商品開発には膨大な時間が掛かる。安全性基準や品質検証など、市場投入までに通過しなければならない関門が多数存在する。一方で、電気自動車商品開発は競争が激しい分野でもある。
開発リードタイム短縮のために、同社ではベースプラットフォーム検討時に、既存のガソリン車の車体をベースとすることで、一部を簡略化することに成功した。車体機構が完全に同一であれば、衝突安全性に関する検証などの期間を短縮することができる。同社が保有する軽自動車をベースとし、動力系の機構をすべてガソリン車と同じサイズの中に収めることを前提に開発を進めた。
三菱自動車工業 開発本部 EV・パワートレインシステム技術部 担当部長 和田 憲一郎氏
さらに同社では、開発段階でのCAE解析に注力したことで、「実車体を使った検証時には事前のCAE解析時とほとんど変わらない結果を得ることができた」(和田氏)という。
標準化でリーダーシップを取る三菱自動車/取らないサムスン:それぞれの戦略
三菱自動車は、電気自動車および関連技術の標準化活動に積極的にコミットし、世界標準としての採用を目指してリーダーシップを発揮している。2010年3月15日には、東京電力、トヨタ自動車、日産自動車、富士重工業、および三菱自動車の5社が幹事会社となり、158企業が参加して「CHAdeMO協議会」を設立した。協議会では急速充電方法の統一とインフラの普及を目指している。後述するように、電気自動車を軸とした新しいインフラシステムでアドバンテージを取ることが狙いだ。
一方で、三菱自動車とは正反対のスタンスから戦略を立てているのがサムスン電子だ。登壇した元サムスン電子(三星電子) 常務の小黒 正樹氏は「サムスン電子は標準化規格競争では先頭を切らない」と明言した。
小黒氏は、サムスン電子在籍中、数々のイノベーティブな製品を手掛け、多数のアワードを受賞していることでも知られる。もともとはソニーに籍を置き、映像関連製品などを手掛けていた。もちろん、ソニー時代にも多数のアワードを獲得している。
さて、小黒氏いわく、「サムスン電子は一切の規格標準化にコミットしない」ことを是としているという。それはなぜか。
次世代DVD競争が激化した際の各陣営が繰り広げた消耗戦がまだ記憶に新しい。エレクトロニクスメーカーとして標準化競争があるならば、決着が付くまで双方の規格をフォローする、という姿勢に徹する。標準化競争にかかわるコストの負担を負うリスクを排除したうえで、双方の陣営に向けて製品を供給していくことで優位を保つ戦略だ。
むろん競争の渦中では勢力図の変遷をフォローしながら迅速に市況に対応する必要があるだろう。ここは推論となるが、サムスン電子を含むサムスングループにおける統制のとれた速度感あるトップダウン経営が実現できれば、十分に対応できるのではないだろうか。
両社の戦略は対極にあるといえるが、開発と標準化競争が過熱する電気自動車業界と普及フェイズにあるエレクトロニクス製品業界との違いによるところも少なくないだろう。
徹底したR&D、マーケティング重視と人材育成
新技術の標準化活動にはそれなりの人的・資金的投資が必要なことはいうまでもない。サムスン電子はこうしたコストを排除する一方で人材育成や研究開発、デザインの領域には積極的な投資を行っている。
そもそも(徹底した業務プロセス効率化を実現したからこそいえることではあるが)生産計画、需給調整、サプライチェーン管理……といった、量産体制以降のプロセスは、「既存の施策によって極限化しており、これ以上の改善活動を行ったとしても劇的なパフォーマンスを得られない」(小黒氏)という前提がある。ここには大きな投資をしても利益が少ない、という判断だ。
つまり、サムスン電子ではプロダクトライフサイクルで見た場合、いままで手付かずになっていた量産体制より以前の研究・開発やマーケティングの領域に注力した方がパフォーマンスを得られると考えている。
デザインチームに対しては、毎年いくつのデザインアワードを受賞できるかが、1つの評価指標となっているという。アワードを受賞できるレベルのインパクトを与えられる製品作りが常に要求されているというわけだ。事実、同社が手掛けた製品の受賞数は非常に多い。
「SAMSUNG DESIGN」として『Business Week』誌に紹介された際の表紙デザインを示す小黒氏
グローバル市場という観点からは、マーケティング人材育成に向けた取り組みが注目される。すでに各所で語られている通り、サムスングループには「地域専門家」が約4000人存在する。地域専門家は希望する地域で自力で生活し、その地域の生活習慣を体で覚えるというもの。その間は定期的に提出するレポート以外の業務は免除されるが、一方で現地文化に親しむためのサポートなどは一切行わないという。地域専門家制度に採用されたスタッフは生活上必要なことがらにすべて自力で対処しなくてはならないため、非常に過酷なタスクではあるが、プログラム終了時には現地の細かな市場ニーズを掌握できる人材となるという。
いずれにしても、すべてをコスト削減の視点だけで評価するのではなく、長期的視点から企業体力強化のための投資をじっくりと行っている姿は参考になる部分も多いのではないだろうか。
Vehicle to X時代の共通インフラを目指す三菱自動車
再び三菱自動車のセッションに話題を戻そう。
ガソリン車が電気自動車に変わるならば、それにかかわるサービス、システムも影響を受けないわけではない。経済産業省の「低炭素社会モデル事業」の一環として、新潟県、東京電力、地元企業と共同開発した『助っ人EV』を例に、“Vehicle to Vehicle”(車間での充放電)など、など、新しい社会インフラの可能性について言及した。
「電気自動車の場合は排気ガスを出さないわけですから、屋内のリビングルームに駐車することだって非現実的ということはない」(和田氏)
和田氏によると、電気自動車/車載蓄電池はガソリン燃料車の代替という枠組みの中で開発されてきたが、蓄電可能であることと電力供給が可能であることを考慮すれば、移動可能な電力供給インフラとしての利用も検討できるようになる。例えば、電力不足になったEV車に対して充電したり(Vehicle to Vehicle)、車両が持つ電力を宅内家電製品へ放電(Vehicle to Home)することも可能になる。
こうなってくると、もはや当初のガソリン車の代替品という枠組みを超え、電気自動車そのものが価値を提供しだす世界が見えてくる。動力を持ったインフラとしての新しい可能性を持つ電気自動車が作る世界を想起せざるを得ない。むろんこのためには、充放電に関する法整備などが必要となるだろう。
「将来的にはホームエレクトロニクス系製品との連携や行政との連携なども考慮する必要が出てくる」(和田氏)
社内の垂直統合型ではなく、外部企業・組織との積極的なコラボレーションが重要になる、という考えだ。分野を超えた企業連携によって大きなインパクトのある社会インフラの提案がそう遠くない未来に可能となるのではないだろうか。
価値創造のために
本稿では、分野を超えた企業連合で価値を作り出していこうと考える三菱自動車工業と、グローバル市場を考慮した人材とマーケティングに注力するサムスン電子の2社の講演内容から、筆者が注目したポイントをピックアップして紹介した。
両社の戦略そのものはまったく異なるが、双方がともに「価値創造」と市場づくりを目指したダイナミックな取り組みを行っている。もちろん、こうしたダイナミックな戦略を生かすためには、企業内外の人・モノ・情報のインフラやプロセスがきちんと整理・統合された環境があることが大前提ではあるが、根底にある思想は理解いただけたのではないかと思う。
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