そして何より、PCアーキテクチャへのタイトー独自の味付けが、サードパーティを引き寄せる決め手となった。1つは、ゲームソフトの流出を防ぐセキュリティ強化だ。USBキー認証、BIOS認証、ハードディスク暗号化と三重のセキュリティを掛けている(注)。機器固有のIDと鍵によりゲームソフトを暗号化するBIOS認証は、BISOソフト最大手のフェニックステクノロジーズの米本社へ技術者を派遣し、共同開発した。「Type Xは、ハードディスク交換でタイトルを簡単に切り替えられる半面、不正コピーも簡単にできてしまう。そこで不正コピーを徹底して防ぐ仕組みを作り、ゲームソフトメーカーが安心して使えるようにした」(内藤氏)。
さらに、独自ミドルウェアソフト群「MTS」がいっそう開発を容易にする。MTSを使うと、「DirectXを深く知らなくとも、直感的な操作で開発を進められる」という。「従来環境に慣れた技術者がType X環境に慣れるまでに多少のウォームアップ期間は必要だが、慣れてしまえばライブラリやツール、ミドルウェアがそろっているので生産性が確実に高まる」と指摘する内藤氏。Type Xシリーズは、独自アーキテクチャに比べて開発期間を通常で2割は短縮できるという。
加えてMTSでは、Type X上で開発したゲームソフトを他プラットフォームへ移植するのも容易だ。PS2向けやXbox向けなどにデータ形式を自動変換するツールを提供しているからだ。家庭用機とアーケード機で無理にアーキテクチャを合わせる必要はない。これはゲームソフトメーカー、特に中小メーカーにとって大きな魅力であろう。タイトーは現在、任天堂の家庭用機「DS」「Will」向けの変換ツールを開発中で、PS3向けも構想中である。
内藤氏は次のように話す。「Type Xシリーズが単なるPCベースのアーケード基板なら、サードパーティが直接ボードベンダに開発を頼むことができる。ただ、高度なセキュリティ機能やMTSという付加価値があるからこそ、われわれから購入していただいているのだろう。特にMTSは、Type X構想以前からコツコツと整備してきたもので、すぐに追随するのは難しいと考えている」。
Type Xシリーズの動きとともに、タイトー以外の大手ゲーム機メーカーでも最近、Linuxを採用したPCベースの独自アーケード基板を推す動きが目立ってきた。それでもType Xシリーズが支持されているのは、Windows環境での開発のしやすさに加え、こうした付加価値があるからだろう。
アーケード機業界は、家電や自動車などの他業界に比べると比較にならないほど小さく、メーカー間でシェアを奪い合うより、共存共栄の精神でますますこの業界を活性化する必要がある。それには、「(メダルゲームやクレーンゲームのようなプライズゲームに比べて稼働台数が落ち込んでいる)ビデオゲームの復権が必要不可欠」(内藤氏)。そこでタイトーらは今後、高解像度の32V型ワイド液晶モニタを採用したオンライン対応の新筐体を推進してゆく構えだ。29型CRTが主流の現行筐体に比べ、臨場感がまるで違ってくる。
Type Xシリーズであれば、こうしたリッチなマルチメディア環境にも容易に対応できることは、サードパーティの相次ぐ採用が物語っている。Type Xシリーズは、ビデオゲーム復権の原動力になりそうだ。内藤氏は次のように指摘する。「現在はPS3の登場で家庭用機プラットフォームが注目を集めているが、チップが平準的に進化するPCアーキテクチャを採用したType Xは、いずれ性能面で追い付く。現行のCore 2 Duoでも十分過ぎるぐらいの性能だ。しかもWindowsの開発環境も併せて進化してゆくので、同じ開発期間でよりクオリティの高い作品を開発できるようになる」。
TAITO Type Xシリーズが誘発したアーケード機のパラダイムシフトは、今後ますます加速しそうである。
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