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» 2007年02月21日 00時00分 UPDATE

組み込み業界の方向性を探る思考(1):何を手掛かりにビジネスを考えるべきか?

「成熟期」を迎えた組み込み業界は、今後どのようにしてビジネスを検討すべきか? 身近な例からそのヒントを探る

[吉田育代,@IT MONOist]

組み込みとは「何を何に組み込む」ことか?

組み込みとは何ですか?

 ご存じのとおり組み込み分野は多岐にわたり、一概に組み込みというものを「これ」と指し示すのは難しい。では、そもそも「組み込み」とはどんな意味なのであろうか?

 組み込みというのは「組み込む」という動詞の名詞化である。また、組み込むという言葉は、何かに何かをがっちりと挟み込むというか、完全に入れ切ってしまうことを意味する。

 では、ここで問題だ。組み込みとは、「何に何を入れること」なのか?

NECエレクトロニクス デバイスSI事業部 シニアシステムインテグレータ 根木 勝彦氏 NECエレクトロニクス デバイスSI事業部 シニアシステムインテグレータ 根木 勝彦氏

 「はい、吉田さん、ちょっと考えてみてください」。根木氏はホワイトボードに板書しながら、私を振り向いてそういった。

 根木勝彦氏。NECエレクトロニクス デバイスSI事業部のシニアシステムインテグレータにして、組み込み業界の第一人者がこぞって集う「ユビキタスコンピューティングサロン(UCサロン)」の管理人である。私はこれから根木氏の語る組み込み業界のこれからについて、みっちり講義を受けることになっている(ぜいたくだが難易度の高い取材なのである……)。

 さて、質問に戻ろう。組み込みとは「何を何に入れること」なのか。機械にプログラムを入れること? ハードウェアにソフトウェアが入ること? 私はすぐに答えられない。そこで、根木氏はヒントを示す。「パソコンは組み込み機器っていいませんよね?」「CPUと主記憶装置(メモリ)、入出力装置でできたものをなんといいますか?」いくつも助け舟を出してもらってようやく分かった。

 組み込みとは、「機器にコンピュータを組み込むこと」「そのコンピュータとソフトウェアで機能を実現すること」である。

 そう、組み込み製品とはコンピュータを構成するCPUとメモリと入出力装置という三大構成要素を搭載したハードウェアなのである。組み込み業界を考えるということは、取りも直さずハードウェアの頭脳の役割を果たすこれら三大構成要素の来し方行く末を考えるということなのだ。

成熟期に入った半導体業界が考えるべきは

技術開発 = 商品開発の時代は去った

 かつて日本は、半導体製品の製造で名をはせた。1970年代後半から本格的に大規模集積回路、いわゆるLSIの量産が始まり、80年代にはDRAMを中心に世界を席けん、80年代中ごろの256kbitsDRAMの製造では、世界市場の90%を占有したといわれる。根木氏はちょうどこのころにNECに入社、半導体事業部に配属となった。そこでは、まさに作るそばから売れ、作っても作っても間に合わないという究極の売り手市場を経験したという。根木氏はそれを「技術開発 = 商品開発だった時代」と表現する(図1)。

「成長期」のマーケティング 図1 「成長期」のマーケティング

 しかし、256kbitsから1MbitsDRAMを頂点として、栄華を誇った日本の半導体製造業も下降線をたどり始める。それは「市場が飽和したからだ」とも、「海外のライバルメーカーとの熾烈な市場競争にさらされたからだ」ともいわれる。いずれにしてもビジネスが「成長期」から「成熟期」に入ったのだ。そうなると、成長期とは異なるビジネスモデルを描いていかないと生き残っていけない。しかし、いまの半導体業界はまだ過去の栄光の余韻に浸っており「いいものを作れば売れる」という幻想から逃れられていないというのが根木氏の思いだ。

 一度ここでちゃんと考えたいのは、成熟期に入ったビジネスはどのような形で生き残りをかけていくべきなのかということ。ヒントを求めて、根木氏はほかの業界にその例を探した。そして挙げたのは、次のような2つのケースだった。

成熟期の商品を売るには仕掛けが要る

紙芝居屋さんのビジネスモデル

 かつて「紙芝居屋さん」という商売があった。実際に経験したことのない人も多いかもしれない。夕方、おじさんは紙芝居を持って自転車に乗り、街中の広場か空き地にやって来る。子どもたちはすでにそのことを知っており、いつもの時間になると一斉に広場か空き地を目指して集まってくるのだ。おじさんは子どもたちがやって来ると「あめ玉」を売る。子どもたちは当然のようにそのあめ玉を買って、紙芝居の始まるのを待つ。おじさんはあめ玉の販売で今日のノルマが達成できると、そこからようやく紙芝居をスタートさせるのである。

 おじさんは「紙芝居屋さん」と呼ばれている。子どもたちは、あめ玉ではなく「紙芝居」というエンターテインメントを楽しみにしている。つまり、「商品は紙芝居」なのである。しかし、おじさんの生計を実際に成り立たせているものは、どこにでもあるあめ玉の販売であって紙芝居の鑑賞料ではない。ここでは「紙芝居という商品は、成熟した製品(あめ玉)を売るための仕組みであり付加価値」なのである。

紙芝居屋さんのビジネスモデル 図2 紙芝居屋さんのビジネスモデル

少年向けコミック誌のビジネスモデル

 もう1つは最近の話だ。舞台はやはり子どもたちの遊びの世界。彼らの誰もが夢中になるものに、ハイパーヨーヨーやベイブレード、遊☆戯☆王カードといったものがある。大人の目から見れば、ハイパーヨーヨーはヨーヨーだし、ベイブレードはベーゴマだし、遊☆戯☆王カードは野球カードやメンコのたぐい? というわけで、進化はしているがおもちゃとしてはまったく目新しいものではない。しかし、子どもたちはこれらを手に入れたくて仕方がない。

 根木家も例外ではなかった。息子さんが「みんなが持っているから買ってほしい」と切々と訴える。なぜ、それほどまでにみんながこれらのおもちゃを欲しがるのか。根木氏は息子さんと一緒に原因を調べていくうちに、少年向けコミック誌の存在に突き当たった。その雑誌には、これらのおもちゃ(漫画の中では武器だったりする)を持った主人公たちが活躍する漫画が載っていて、その遊び方が微に入り細をうがって解説されている。そのコミック誌を読めば、誰だってそのおもちゃを使って遊びたくなるという仕掛けなのだ。

少年向けコミック誌のビジネスモデル 図3 少年向けコミック誌のビジネスモデル

 小学5年生になる私のおいっ子もここ数年カードゲームに夢中である。「あのカードが足りない」「何々のカードがなくては勝てない」といっては、一緒に散歩すると必ずコンビニエンスストアに連れ込まれてしまう。もう親は買ってくれないので、ヤツは私のサイフを狙っているのだ。また、しょっちゅう対戦させられるのだが、奥の深いルールにもかかわらず、おいっ子はコミック誌や友だちからの情報で遊び方のマニュアルを完ぺきに頭に入れているので、事もなげに対戦に勝利してみせるのである。

「ここでも紙芝居のケースと同じことがいえる」と根木氏は語る 「ここでも紙芝居のケースと同じことがいえる」と根木氏は語る

 「事実だけをとらえれば、玩具メーカーが販売しているのは現代版ヨーヨーであり、現代版ベーゴマであり、現代版野球カードである。特に革命的な新機軸というものはありません。しかし、そこには『まったく新しく意味付けされた遊び方というものが重要な付加価値』となっています。また、ここで称賛すべきは、『雑誌と連動するという仕掛けで一般的な(昔からある)おもちゃに輝かしい息吹を与えた新しいビジネスモデル』です。技術を開発することがそのまま商品を開発することにはならないこと(図4)を、玩具業界は十分理解しているのです」

「成熟期」のマーケティング 図4 「成熟期」のマーケティング

 では、半導体の世界はどうだったのだろう。また、組み込み業界はこれからどういう方向性を目指していくべきなのか? 次回は根木氏の講義を手掛かりにそのあたりを考えていこうと思う。(次回に続く)


ユビキタスコンピューティングサロン(UCサロン)管理人
根木 勝彦(ねき かつひこ)

1960年兵庫県生まれ。小学生のころ、先生に「1日2時間以上テレビを見ている人いますか?」と問われて手を挙げる。ただし、見ていたのはテレビの内部。1982年関西大学 工学部 電子工学科卒業後、日本電気に入社。8bitsCPU(Z80コンパチ品)などの設計・開発に従事。1990年4月よりMIPSアーキテクチャのプロセッサ(VRシリーズ)の開発に従事し、2000年から開発部門を統括。2002年10月よりシステムインテグレーターとして現在に至る。

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