ユーザーと育てたシミュレータで手戻り削減組み込み企業最前線 − ガイオ・テクノロジー −(1/2 ページ)

コンパイラ製品で独立系ツールベンダとしての基盤を築いてきたガイオ・テクノロジー(以下ガイオ)は、その基盤の上でシステムシミュレータという柱を打ち立てようとしている。デバッグに実機や高価なハードシミュレータを使ってきた自動車、OA機器などの産業分野に対して、ソフトシミュレータによる斬新な検証ソリューションを提供する。

» 2007年04月10日 00時00分 公開
[石田 己津人,@IT MONOist]

 言及するまでもないが、ソースコードをCPUネイティブな機械語に翻訳するコンパイラは、ソフトウェア開発にとって不可欠なもの。特にカスタム品も含め多様なプロセッサを用いる組み込み分野では、コンパイラを提供するベンダが果たす役割が大きい。その国内トップベンダの1つがガイオ・テクノロジーだ。

 コンパイラといえば、半導体ベンダが自社製品向けに開発した純正品か海外ベンダのサードパーティ品しかなかった1980年中ごろ、ガイオは国内サードパーティとして初めてC/C++クロスコンパイラ「XCC-V/XCC++」を投入。以来、独立の専業ベンダとしての技術力、サポート力を売りにして市場をリードしてきた。同製品は現在、汎用MPUからカスタムDSPまで幅広い組み込みプロセッサに対応し、「コンパイラのガイオ」を強く印象付けている。

 一方、コンパイラのコード解析技術を応用した検証ツールも以前から手掛けている。ISS(Instruction Set Simulator)型(注)のシステムシミュレータや、ISSを利用したモジュール単体テスト向けツール「カバレッジマスターwimAMS」などである。そしてガイオは現在、コンパイラを技術基盤としながらも、ビジネスの軸をシステムシミュレータへ移そうとしている。


※注
プロセッサの命令セットを仮想的に実行してデバッグを行うソフトシミュレータ。



システム全体を仮想化する

ガイオ・テクノロジー 事業推進 営業統括 担当執行役員 兼 応用技術部門長 岩井 陽二氏 ガイオ・テクノロジー 事業推進 営業統括 担当執行役員 兼 応用技術部門長 岩井 陽二氏

 事業推進 営業統括 担当執行役員の岩井陽二氏は「1990年代初めからシミュレータを手掛けてきた。4年ぐらい前からOA機器メーカーを中心に“実機レス検証”という言葉を使いだし、商談が急に増え始めた。ボードを使った実機検証では、規模と複雑さが増すソフトで品質を保つのが難しくなっており、ユーザーは何とか(柔軟性、網羅性の高い)シミュレータを活用できないかと考えている」と話す。

 そしてガイオは、2005年夏に新コンセプト製品を発表した。その名も「No.1システムシミュレータ」。ガイオの意気込みが伝わってくる。

 同製品は、プロセッサ、周辺回路、メカトロニクス、通信ポート、GUI(表示用LCDなど)といった組み込みシステムを構成するハード部品をソフトでモデル化(DLL形式コンポーネント)。それらを専用エディタ上でドラッグ&ドロップによりつなぎ合わせ、I/Oポート、割り込みなどの関係を定義したり、GUIを編集する。つまり、“仮想ハード”を合成し、その上でISS機能を使ってソフトのデバッグを行うのだ。また、モデルを使う代わりに他社製シミュレータと接続させることも可能である(インターフェイスもモデル化)。例えば、「MATLAB/Simulink」のような制御系シミュレータ、インターデザイン「VisualMech」などのメカ系シミュレータと連携できるという。

No.1システムシミュレータの画面構成(システムコンポーネント) 図1 No.1システムシミュレータの画面構成(システムコンポーネント)。仮想ハード部品を画面上で接続し、部品間の関係を定義するだけでシステム全体を仮想化、ソフトのデバッグを実行できる

 さらにNo.1システムシミュレータでは、最初から用意されている標準モデルのほか、ガイオが対象システムごとモデル作成を請け負い、カスタムライブラリとして提供する。ガイオは従来製品でISSに加え、C/C++で記述できるモデリングツールも提供していたが、デバッグを担当するソフト技術者にとってハードのモデリングは敷居が高く、普及の妨げになっていた。その点、新製品はモデルライブラリからエディタ、ISS、デバッグ用モニタ、GUIモデル用のエディタ、シミュレータまでを1つにまとめた“統合検証環境”といえる。

関連リンク:
No.1システムシミュレータ

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