3次元CADをめぐる夢と現実を見極めようPLMは“勝ち組”製造業になる切り札か(2)(3/3 ページ)

» 2007年08月23日 00時00分 公開
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3次元CADはどのような製品に適応しやすいか【製品】

 次に製品の観点で3次元CADを再考してみたい。【業務】の部分でも述べたが、3次元CADは部品間の干渉や後工程とのコミュニケーションツールとして有効である。これらを別の表現でいい換えると、部品間の擦り合わせや後工程との擦り合わせを行っていることになる。この擦り合わせを、より効率よく、より早いタイミングで行うために3次元CADやCAEが有効となる。では、擦り合わせの多い製品とはどのようなものなのか?

 一般に製品の特性を考えるに当たって、「モジュラー(組み合わせ)型」と「インテグラル(擦り合わせ)型」に大きく分類できるのをご存じだろうか。図4は製品を4つに分類した製品アーキテクチャ図である。

図4 4つの製品アーキテクチャ(藤本隆宏(2004)を基に、筆者が一部を加筆 図4 4つの製品アーキテクチャ(藤本隆宏(2004)を基に、筆者が一部を加筆

 モジュラー型とは、機能と部品の関係が1対1となっており、部品間の相互依存関係が少ない状態であり、機能間のインターフェイスはシンプルな構造となっている。部品の組み合わせ(寄せ集め設計)により機能を実現できる製品で、汎用的な部品を組み立てればよいパソコンなどが代表例である。

 一方、インテグラル型とは、機能と部品の関係が1対1とならず、多対多の関係となる。部品が互いに影響を及ぼしている状態で、部品間を調整しながら機能を構築していく。例えばエンジンの排気量を変更するとシャーシ剛性やトランスミッションの調整が必要になってくる自動車などは、その代表例である。

 ここに、機能やインターフェイスが特定企業に特化している(クローズ)か、業界標準レベル(オープン)であるかの観点が加わり4つの分類となる。

 では、どのような場合に擦り合わせ業務が発生するのか。図5で設計を中心に「技術開発・企画」「生産準備・製造」「顧客」「サプライヤ」の関係で整理してみたので参考にしてもらいたい。

図5 擦り合わせの発生要素 図5 擦り合わせの発生要素

 ここからも分かるように、すべての製品で3次元CADによる擦り合わせの効率化が見込めるわけではない。自社製品の位置付けを十分理解し、どの機種やユニットで効果が出るのかを見極めてもらいたい。

業務を推進するに当たり、組織や人の意識をどう変える必要があるか【組織/人材】

 最後に、組織や人材の観点で3次元CADを再考してみたい。【業務】および【製品】を整理したことで分かるように、3次元CADの導入で擦り合わせのタイミングを前倒しできる。その結果、工程のより早い段階で問題を発見でき、設計にフィードバックすることが可能となる。

 ところが設計部門では、後工程のシミュレーションが容易に行えることで、かえって負荷が大きくなる一方なのである。フロントローディングやコンカレントエンジニアリングが促進されることは喜ばしいが、本来であればその業務変更に伴って、設計者と他部署の責任分担の変更、設計者の増員、デザインレビューの実施タイミングや内容を変更する必要がある。しかし、多くの企業ではそれらが伴っていないため、設計者ばかりが疲弊し、本来の価値創造業務に手が回らない状況に陥っている。

 本来は、価値創造業務により多くの時間を費やすために導入したはずの3次元CADが、あだとなるリスクが大いにあることを十分理解していただきたい。

◇ ◇ ◇

 以上、3つの視点で3次元CADを再考してみた。あくまでも設計ツールである3次元CADは、製品価値を高める魔法の道具ではない。どのような製品やプロセスで意味があるのか。また、それに伴う体制/役割といった周辺部分の組織をどのように変更すべきなのか。それらがそろって初めて3次元CADが生きてくるのだ。

筆者紹介

ネクステック株式会社

ビジネス変革推進部マネジャー 北山一真(きたやま かずま)

IT系のコンサルティング企業にてERP導入プロジェクトを主とした業務改革推進、システム導入などに従事。その後、大手製造業向けコンサルティングファーム、ネクステックに入社。現在、大手グローバル製造業のコストマネジメントの業務とシステム構築に関するプロジェクトに従事。製造業の業務やシステム、モジュール化に関する執筆講演活動にも精力的に取り組んでいる。


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