構想設計でやるべきことを列記します。
機能構造を紙の上にラフなポンチ絵として表現します。この段階では、2次元のポンチ絵でイメージを徐々に膨らませます(図3)。
例1〜例3(図3)の順に、より具体的に設計者の頭の中のイメージが膨らんできていることが分かります。定規を使わず、フリーハンドで描きましょう。線が曲がっても、まったく問題ありません。不必要な手間を掛けずに良いアイデアを考えることに集中しましょう。
選択した構造で、構成部品まで分解してポンチ絵を描いて整理します。この段階では3次元の立体イメージのポンチ絵によって、より具体的に形状を意識します。
立体のポンチ絵は、3次元CADのようにきれいに描く必要はありません。構想段階では、まだまだイメージですから「こんな感じの部品が必要だなぁ」程度にラフに描かないと時間の無駄です。細かな面取り形状や加工上の工夫は、詳細設計でCADの上で実現させればよいのです。
機能検証あるいは構造検証で使用したポンチ絵は、立派な技術構想書です。この資料を基に関連部門を集めて、第1回の記事で紹介したデザインレビューができるのです。また、このポンチ絵の技術構想書は、「なぜこの構造を選択したのか?」などの経緯もよく分かり、次世代機種の構想時に参考となるナレッジマネジメント資料にも使えます。
キーワード:ナレッジマネジメント 知的財産(ノウハウやスキル)を一元管理・共有し、効果的に業務の効率化に活用する情報管理をいいます。 |
このように、手書きの資料はCADで検討するより短期間で作成でき、かつ機動的でコスト把握もできます。立体イメージがあるので設計部門以外の担当者でも理解しやすく、デザインレビューではより建設的な意見が出ることも期待されます。
CADでほぼ完成状態になった後のデザインレビューでは、設計者は自分自身の設計にケチをつけられることを嫌います。そのため、他部門からの指摘をいかに退けようか、言い訳ばかりを考え、押し問答となり建設的なデザインレビューができません。
ところが、構想設計をラフなポンチ絵とすることで、設計者は、ある程度大きな変更があっても、まだ実際にCADで詳細設計をしていないため精神的なプレッシャーがありません。その結果、設計者自身もデザインレビューの中でより建設的な意見を述べ、他部門の意見も受け入れることができるのです。
そう、設計者の精神的な余裕こそが、良質な遺伝子を作り上げるポイントなのです。そのためにも構想設計はポンチ絵を使って、イメージ先行の検討を行わなければいけないのです。
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次回は、構想設計を終えて、詳細設計の中のツールとしてCADをどう利用するかについて解説します。(次回に続く)
山田 学(やまだ まなぶ)
1963年生まれ。ラブノーツ代表取締役、技術士(機械部門)。カヤバ工業(現、KYB)自動車技術研究所で電動パワーステアリングの研究開発、グローリー工業(現、グローリー)設計部で銀行向け紙幣処理機の設計などに従事。兵庫県技能検定委員として技能検定(機械プラント製図)の検定試験運営、指導、採点にも携わる。2006年4月、技術者教育専門の六自由度技術士事務所を設立。2007年1月、ラブノーツを設立し、会社法人(株式会社)として技術者教育を行っている。著書に『図面って、どない描くねん!』『読んで調べる 設計製図リストブック』(共に日刊工業新聞社刊)など。
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