先にやっておけばいいのに〜時間の機能分割〜「失敗学」から生まれた成功シナリオ(3)(1/2 ページ)

長年にわたりおびただしい数の失敗事例を研究してきたことで見えた! 設計成功の秘訣(成功シナリオ)を伝授する。(編集部)

» 2007年10月29日 11時00分 公開
[中尾 政之MONOist]

「替え玉硬めで」

 2週間前に福岡に行った。櫛田神社の近くの商店街に行き、遅めの昼食で290円の博多ラーメンを食べた。何かの商品を配達しているらしい30歳ぐらいの男性が、すっと入ってきてラーメンを注文した。そしてやや盛りの小さいラーメンを勢いよく食べ始めると、「替え玉硬めで」(替え玉のめんを硬めにゆでてください)と早口でいった。店主がうなずいてめんだけゆでて小さなわんに盛り、ネギをかけて出した。彼は自分のドンブリの中の白いスープの中に、めんをそっと移しておいしそうにすすった。なるほど、替え玉か。100円。

 筆者は「替え玉硬めで」とは粋にいえず、小さな声で「替え玉ください」と注文した。めんをスープに移すと硬くておいしい! ゆでる時期を分割するだけで大盛りも最後までおいしい。

ALT 図1 替え玉で小分けして、ゆでる時間を分割

 筆者は週末、小学生の息子とプールで泳いだ後に、ラーメン屋によく行く。息子は小柄なので、普通盛りだと食べ切れない。首都圏でも、半ラーメンやミニラーメンがある店もあるが、プールの近くの店にはないので、いつも大盛りを頼んで2人で分ける。彼は大きなドンブリに顔を突っ込みたいのか、最初は「1人で食べさせて」という。おいしそうに食べるから、まずは見ている。だが、彼が「もういい」といってから筆者が食べると、めんは伸びている。こんなときこそ、替え玉があれば、どんなにおいしいことか……。

 ゆでる手間が2倍になるが、図1に示すように、劣化状況を最小にするために、小分けにしてゆでる時期を分割した“替え玉”は賢い。

もう時間ない! でも慌てない

 TRIZ(トゥリーズという)発明問題解決理論を、旧ソビエト連邦(現在のロシア)のアルトシューラーという人が60年前に編み出した。何でも、旧ソビエト連邦の40万件の特許(旧ソ連のそれは改善提案証明書のようなもので、その数で研究費が分配された)を分析して、共通的な発明思考方法を抽出したそうである。筆者も数年前、TRIZのアメリカ人研究者の本を翻訳・注釈した。さらに自分の発明思考方法も加えて、「設計のナレッジマネジメント」(日刊工業新聞社、1999年)という本を出版した。

 TRIZでは約30種類の発明思考方法を紹介しているが、その中でもよく使えるのは、時間を機能分割する方法である。

ALT 図2 貨車に積んだ木材

 例題の1つに、図2に示すように、「発車間際の貨車」というのがあった。すなわち、シベリアで伐採した丸太を満載した貨車が発車間際であったが、係員はその前にすべての丸太の直径を測らねばならなかった。もう時間がない……。何か良い方法はないだろうか。

 答えの1つは、丸太を定規と一緒に写真で撮っておくことである。貨車が発車した後でゆっくり写真を見ながら直径を測ればよい。つまり、係員の作業を「記録」と「測定」に機能分離して、測定時間を別に分けたのである。

 類題であるが、水槽の中を泳ぎ回る魚が何匹いるか知りたいが、どうすればよいだろうか。

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