新しいPro/Eで“ムリ・ムラ・ムダ”を何とかしたいPro/ENGINEER Wildfire 4.0 記者発表会

» 2008年01月28日 00時00分 公開
[小林由美,@IT MONOist]

 PTCジャパンは2008年1月25日、3次元 CAD/CAM/CAEソフトウェア「Pro/ENGINEER Wildfire 4.0」の記者発表会を行った。17日に米国で先行発表していた同製品の、国内初の正式発表会となった。 

 1月22日公開のMONOistニュースでもおおまかなリリース概要をお伝えしているが、本記事では新機能の詳細へクローズアップした情報をお届けしよう。

日本の設計・製造プロセスの最適化

 「日本の製造業の生産拠点がアジアなのはいまや当たり前となってきたが、それに併せて設計拠点もアジアへ、という動きがある」。PTCジャパン ビジネス開発推進室 ディレクター 後藤 智氏はこう説明した。学生の理系離れが顕著で、人材不足に慢性的に悩まされている日本より、アジアのほうが人材が豊富だという事情もあるという。自動車や家電の大きな市場としても成長してきたアジア各国の顧客ニーズが直接把握しやすくなることも挙げている。

 拠点を移すにしてもアウトソーシングするにしても、現状の日本における設計・製造プロセスには“ムリ、ムラ、ムダ”がとにかく多い。これらを解消しよう(最適化しよう)と取り組んだのが今回のメジャーアップグレードだと後藤氏はいう。CADの操作性改善に取り組むだけでなく、プロセスツールの開発にも力を注いだ。

新たな便利コマンドが登場!

 先行リリースのとおり、新たな自動処理系のコマンドが登場した。これらはもちろんファンデーション版でも利用可能。「設計」ではなく「処理」に多くの工数が割かれてしまうという“ムリ”“ムダ”解消への取り組みの一環だ。

悩ましかったラウンド処理が楽になる

 上記の問題の代表例ともいえるラウンド(フィレット)処理だが、「Auto Round」は、複数のエッジを一斉にラウンド処理をするコマンドだ。これまでのラウンドコマンドでは、角ごとにラウンドを付けないと伝播してくれなかったり、エッジ選択をする順番の見当を誤るとラウンドが付けられなかったりといった苦労があった。このコマンドなら角のままであろうが形状が多少入り組んでいようが自動で一括処理を行ってくれる。

Auto Roundはこのような形状も自動ラウンド処理

 「パーティングラインにはRを付けたくない」、そういうときも一部のエッジだけを選択から除外して処理を行える。従来のラウンドコマンドへ切り替えも可能だ。

インポートしてきたモデルが、パラメトリックフィーチャに変身

 他ブランドのCADからインポートしてきた3次元データにはフィーチャツリーが存在しない、いわゆる“一つのフィーチャの塊”だ。4.0では、インポートフィーチャにパラメトリックを自動付加することができる。ラウンドや穴も自動認識して選択し、削除可能だ。

 さらに「フィーチャ認識パワーツール」を使えば、インポートフィーチャをパラメトリックフィーチャへ置き換え可能になった。この機能は、他社CADデータの利用の際はもちろん、Pro/ENGINEERの過去バージョンのデータをインポートするときにも有効だろう。ただし「フィーチャ認識パワーツール」は別途、PTCのサイトからダウンロードする必要がある。

新しい拡張モジュール

 4.0より「デジタル権利管理モジュール」「公差解析モジュール」「エレキCAD/メカCAD間協調モジュール(ECAD-MCAD Collaboration Extention)」の3つのモジュールを新規で追加した。これらは別途購入が必要だ。

デジタル権利管理モジュール

 アジアへの設計拠点の移転あるいはアウトソースを考慮した場合、悩ましいのが設計データの知的財産権保護の問題だ。現状の日本の設計現場では、データセキュリティ面が設計者個々のモラルに委ねられる部分が大きい。多忙かつモラルにばらつきがあるだろう設計者たちに依存していては管理“ムラ”が出ることは必至。このモジュールでは3次元モデルに対し、「印刷可・不可」「上書き可・不可」などのポリシーを定義することが可能だ。ただしポリシーのデータはモデルのファイル自身に付加されるのではなく、ポリシー管理用サーバーを経由し管理されることになる。

権利管理拡張モジュール*画像クリックで拡大します

公差解析モジュール

 3次元モデル内の寸法を自動収集し、積み上げ計算を行いつつばらつき分布のグラフを生成できるモジュール。生成されたグラフで公差ばらつきの範囲をチェックしながら、モデルの各寸法の修正が行える。寸法修正はモジュール内のUIで行うが、モデル寸法もそれに自動追従する。

CETOLを利用した公差解析モジュール:画面左上が、自動生成された公差ばらつきのグラフ

エレキCAD/メカCAD間協調モジュール

 電子設計と機構設計が複雑に入り組んだ今日の設計開発事情を考慮し、エレメカ協調設計を助けるモジュールも提供。このモジュールを使えば、基板CADから吐き出されるIDFファイルの受け取りが可能となる。その逆方向、Pro/ENGINEERサイドから基板CADへのデータ受け渡しに関しては、専用ビュアを用いて基板CADを想定したデータの状態が確認できるのみだ。完全な受け渡し機能の追加は今年後半までの実現を目指しているという。

 「これを実現するに当たってはオープンスタンダードの確立が必要。当社だけの問題ではないので、エレキCADを扱う他社にも協力を仰がねば」と米PTC デスクトップ製品 プロダクトマネジメント シニアバイスプレジデント マイケル・キャンベル氏は話した。

エレキCAD/メカCAD間協調モジュール:プリント基板の状況をビュアで確認

コマンドの整理整頓

米PTC デスクトップ製品 プロダクトマネジメント シニアバイスプレジデント マイケル・キャンベル氏

 Pro/ENGINEERの過去バージョンでは、例えば一連の同じ作業に使用するコマンドが「そのコマンドはこっちのツールバーから」「でもね、これはあっちのアイコンで」という風にあちこち散ってしまっていることもあった。

 Wildfireシリーズでは、作業時のクリック数軽減を掲げつつコマンドの集約・整理をバージョンアップ毎で徐々に行ってきた。「4.0では、ほぼすべてのUIを最新版に入れ替えしたので、もうそういうことはないはずだ」。キャンベル氏はそう説明した。「(4.0で作業していて)過去のままのコマンドに出会う確率は85〜90パーセントぐらいかな?」(キャンベル氏)。

 5.0では、詳細設計・配管配線コマンドも整理する予定だという。

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