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» 2008年01月30日 11時07分 UPDATE

いまさら聞けない エンジン設計入門(1):ピストンが傷だらけなのにも、理由がある (3/3)

[山本 照久,@IT MONOist]
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混合気の渦流をコントロールする

 ピストンを考えるうえで燃費が注目されている最近では、特に重要視されている項目があります。それは「混合気の渦流をいかにコントロールするか」ということです。渦流とは混合気がピストンによって圧縮された際の「気流の流れ(渦)」と考えていただければ良いでしょう。

 ピストンが下降して混合気が吸気され、燃焼室のすべての入り口がふさがれた状態でピストンが上昇して混合気を圧縮するのですが、混合気に点火をする「スパークプラグ」は、基本的には燃焼室の真ん中に位置しています(写真4)。

alt 写真4 スパークプラグの位置は、燃焼室の真ん中

 そこで「混合気をより燃えやすくする(燃焼効率を上げる)ために火元であるスパークプラグに混合気を集めてしまおう!」という考え方が生まれたわけですね。さらに火炎伝播を速めるために、混合気が渦を巻くように工夫をしているのがピストンの主流です。

 その原理は燃焼室の端をできるだけピストンの最上部(上死点時のピストンヘッド)に近付け、ピストンが上昇してくることで端に存在している混合気を中心に押し出すというものです(図4)。

alt 図4 燃焼室の端をできるだけピストンの最上部に近づける

 これだけだと燃焼室の端部の工夫なのですが、さらに渦流を強くするためにピストンの端を斜めにカットし(立ち上げを作って空気抵抗を強める)混合気の流速を速め、渦流を強くする工夫がされています。ちなみにこの渦流を作るために用意されている狭いスペースを「スキッシュエリア」といいます(図5)。

alt 図5 スキッシュエリアの仕組み

 もう1つ、ピストンには混合気に関する工夫があります。それはエンジンのパワーアップに非常に影響する「圧縮比」の向上です。

 「圧縮比=(シリンダ容積+燃焼室容積)÷燃焼室容積」

 圧縮比は上記のように表されますが、シリンダ容積というのはエンジンの排気量と同じ意味ですのでそう簡単には変わりません――というよりは、開発初期段階で排気量はある程度決まっているのが一般的だと思います。

 もちろん燃焼室の容積も、先述したような渦流やバルブのリフト量を考えればある程度決まってきます。この状態で圧縮比を高める1つの手段が“ピストンヘッドを盛り上げる”という手段です。

 またできるだけ燃焼室を小さくするために、ピストンヘッドにバルブの逃げを設けてバルブと接触するギリギリのところまで燃焼室を小さくして(下げて)います(写真5)。

alt 写真5 ピストンヘッドの形状:中央部が小山状に盛り上がり、そのふもとにバルブの逃げ溝がある

 このように、ピストンは爆発力を運動に変える部品ということもあってさまざまな工夫がされています。さらに“爆発力を受ける”だけではなく、“燃焼効率を向上させる”という役目も担っています。

これにて、今回の解説はおしまい

 今回お話ししたピストンに関しての知識をすべて覚えたからといって、「設計ができる」とは思いません。あくまでも自動車構造としての基礎知識レベルです。これらを踏まえて、各社が競い合ってそれぞれ独自の工夫などを盛り込んだ設計が行われているのです。

 基礎知識といいましても、今回お話ししたピストンのさまざまな工夫に関して印象に残った部分があるのではないでしょうか? ほんの少しでも今後の設計業務などに役立つ知識やノウハウを蓄えていただけたなら、筆者はとてもうれしく思います。

 次回は「ピストンリング」に関して詳しくお話しする予定ですのでお楽しみに

Profile

山本 照久(やまもと てるひさ)

1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車輌検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。




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