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» 2008年02月27日 00時00分 UPDATE

失われた現場改善力を再生させるヒント(1):御社の現場改善力、近ごろ鈍っていませんか (1/2)

現場改善支援のプロとして、改善プロフェッショナルの育成にこだわりを持ち続けるコンサルタントが贈る現場改善力再生のヒント集。個々人の現場改善能力を3つのタイプに分類し、それぞれに合った処方箋をお届けする。

[眞木和俊/ジェネックスパートナーズ,@IT MONOist]

あなたは職場の現実を直視できますか?

 あなたには、仕事のうえで親身になって指導してくれる上司や先輩がいますか?

 身近に知恵と技術で師匠あるいはマスターと呼ぶにふさわしい尊敬できる職人技の持ち主がいますか?

 生産現場に立つあなたが、これらの質問に答えられないとすれば、それはあなたの職場の衰退を意味しているのかもしれません。

 この半世紀の間、日本の産業基盤を支え続けてきた加工貿易を主体とする製造業は、現在重大な岐路に直面しています。エネルギー資源の乏しい国で働く私たちは、付加価値を生むための知恵と工夫で著しい成長を遂げてきました。皆さんの親御さんの世代には「会社でいい給料をもらって生活を向上しよう!」という共通した勤労意欲もありました。しかし21世紀の私たちが強いられる激烈なグローバル化と戦うことは、果たして自分たちを成長させてくれる動機付けになるのでしょうか?

 10年以上も前のことですが、筆者が外資系医療機器メーカーで生産業務に携わっていた時代は、グローバルに役割を分担してものを作ることはとてもエキサイティングな経験でした。仕事の進め方をはじめとしてお互いに学ぶことも多く、損得抜きの技能向上はまさに切磋琢磨(せっさたくま)と呼べたのです。その後、現職(コンサルティングファームを設立)に至るきっかけとなった「改善プロフェッショナル」としてシックスシグマ(注1)のブラックベルト(注2)を経験できたことも、役得でこそあれ、「やらされ感」はありませんでした。最初から“利益実感”を持って業務改善活動を習得できたことは、非常にラッキーだったのだと思います。


注1 シックスシグマ(Six Sigma/SS) 本来統計用語の「標準偏差σ(シグマ)が6つ分のマージン」という意味だったが、転じて自律的改善活動の名称として広まった。
注2 ブラックベルト(Black Belt/BB) シックスシグマ・プロジェクトの専従的なチームリーダーの呼称。別名、課題解決請負人。


 しかし現在、日本における生産の最前線は、こういった感覚を持つ余裕もないほど、忙しさに流されているように見えます。本来注力すべき「モノづくり」以前に、業務のグローバル化に伴って、まず海外の請負や派遣の方々と異文化コミュニケーションから始めなければなりません。あうんの呼吸が通じない海外工場では、社員のモノづくりに対する継続的な情操教育が不可欠です。すっかりサプライヤ任せになってしまった部品の品質を社内で目利きする仕組みや職人技も絶滅寸前状態でしょう。デジタル機器を中心とした超短サイクル開発には、いくら労働集約をしても生産の立ち上げが間に合いません。こうした対応に現場の担当者が使う時間コスト・気配りは、想像を絶する状況にあります。そして最も悲劇的なことは、高度経済成長期の成功体験にしがみつく経営者の多くが、この実態を直視できず、現実を正しく認識していないということに尽きるでしょう。

「現場改善のプロ」が求められている

 このような現状を踏まえて国内の生産現場を歩いてみても、意外なことに危機感が高い割には実質的な行動が伴っていないことがうかがえます。昔から「モノづくりは人づくり」といわれるのですが、新人の育成などと悠長なことをいっていられないほどの切迫感で現場を切り盛りする中堅正社員の活躍ぶりだけが際立っているようです。いったい彼らの気合と体力がいつまで長続きするのか、誰も予想できないのではないでしょうか。新たな人材を育てる余裕を持たないことで、仕事をこなせる人材にさらなるしわ寄せが来る悪循環は、いずれ破たんすることは目に見えています。日々の業務で手いっぱいの現場を立て直すためには、それこそ真剣に人づくりを考えなくてはならないのです。

 では、どうすれば効果的に人づくりを行えるのでしょうか。

 生産現場における人づくりには、いくつかの条件や適切な準備が欠かせません。まず、新人が実務経験を積むだけの時間と舞台が必要です。また作業者のお手本となる先輩社員(ロールモデルと呼ばれます)による指導や、もはやぜいたくな期待かもしれませんが、犯した失敗をフォローできるおおらかな職場環境もあるに越したことはありません。できれば目に見える財務的成果が期待されるテーマに取り組んだ方が対象者のやりがいも大きいでしょう。こうした人づくりの受け入れ態勢を作るためには、ある程度業務上の余裕(遊び)がなくてはなりません。人員削減の行き過ぎた現場では、この種の「遊び」がないために、前述の悪循環から抜け出せない状態が起こりやすいのです。かといって、むやみに余剰人員を抱えるわけにもいきません。厳しいようですが、やはりさらなる業務効率化によって、「遊び」を捻出しなければならないのが現状です。生産ラインに大きな負担を強いずに人づくりの機会と場をうまく作っていくためには、それなりの覚悟をもって実践できる取り組み体制を構築しなくてはなりません。

 そこで活躍を期待されるのが現場改善の「プロフェッショナル」です。

 筆者自身がなぜ現場改善のプロを目指し、こだわりを持ち続けるのかといえば、息苦しい閉塞感がただよう現場を成長軌道に転換させるきっかけを作り出すことができるからです。筆者の原体験となった最初のプロジェクト活動でも、当初社内では問題現象すらつかめず、暗中模索が続きましたが、トレーニングで教わった手順に従って着実にステップを進めていった結果、真の原因を見つけることができました。これだけ見ればごく小さな発見に過ぎなかったと思いますが、これらの取り組みの結果として、従来よりはるかに信頼性の高い製品を納期どおり市場に送り出すことができたのです。しかもこうした問題解決の方法論には、高い再現性があることも確信しました。

 生産現場の問題は、直感と経験則頼みのモグラたたきでは解決しません。事実とデータに基づいた分析を行い、しっかりとした仮説検証を行うことが肝要なのです。このような訓練を受け、実戦をこなしてきたメンバーを擁することができれば、改善活動に代表される現場の問題解決を着実にこなすことが可能になります。そして皆さんの職場でも、改善のプロを見いだすことはさほど困難ではないはずです。もっともご本人にその自覚があるかどうか、活躍の場が与えられているかどうかは定かではありませんので、あらためて確認していただく必要はあるでしょう。

 こうした改善のプロが業務のムダをなくし、作業品質のバラツキを抑えることを成し得た暁には、本来の目的である職場の人づくりに使える時間的余裕の創出も可能となります。もちろん改善の副産物として、お客さまに喜んでもらえたり、財務的な利益還元を期待できるかもしれません。しかしながら、そう都合よくプロが生まれてくるはずもないので、引退したベテラン社員に再登場してもらったり、(その場つなぎとして筆者のような)外部コンサルタントに依頼されることも選択肢として考えられます。

 いずれにせよ持続的な企業成長のためにも自前で改善プロフェッショナルを擁することは、モノづくりのうえでも必須条件といえます。慢性的な人材不足が続く生産現場において、優秀な人材にさまざまな技術ノウハウを伝承していくためにも、能力不足の悪循環を断ち切る現場改善力が求められているのです。

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