連載
» 2008年03月28日 00時00分 UPDATE

知っておきたいカーエレクトロニクス基礎(1):なぜ、カー“エレクトロニクス”が注目されるのか? (2/3)

[河合寿(元 デンソー) (株)ワールドテック,@IT MONOist]

初期の点火回路が抱える問題 〜接点の寿命〜

 初期の点火回路が抱えていた問題とは、ずばり“接点の寿命”です。

 以下に、その問題の原因について解説します。

 第1の原因ですが、一次コイルに流れる比較的大きな電流(約6A)をON/OFFすることにあります。点火コイルの働きについては連載後半で述べますが、コイルの電流をOFFにしたときに高エネルギーが接点に加わり火花が出ます。この火花の影響により、長く使用すると接点が酸化して絶縁不良になったり、接点の一部がスパッタリング(注)して、接点がだんだんと損傷していきます。そのため当時は、エンジンが掛らないとまず接点を疑ったものです。また、車検時にはまず接点を交換していました。

※注:スパッタリングとは、高エネルギーで物が溶けて飛散するという意味。接点の一部にエネルギーが集中して接点の一部が溶けて飛散すること。


 続いて第2の原因です。エンジンの回転数が4000rpm(注1)の場合、接点は毎分8000回開閉します。また、エンジンの最高回転数である6000rpmの場合では、実に毎分12000回も開閉することになります(注2)。これでは当然、劣化や故障が発生しやすくなりますよね。このことから、“機械接点では長期間使用できない”ということが想像できると思います。

※注1:rpmとは、Revolutions Per Minuteの略で1分間に何回転するかを表す単位のこと。エンジンの回転数などを表す際に用いられる。


※注2:エンジンの回転数が6000rpmの場合のディストリビューターの回転数は、
6000 ÷ 2 = 3000rpm

となる(ディストリビューターは、エンジンが2回転すると1回転する)。

その際の接点の開閉数は、「カムの角数 × ディストリビューターの回転数」で求められる。今回の解説で例として挙げている4気筒エンジンの場合、カムの角は4つあるため、

4 × 3000 = 12000回

となる。



 では、接点の寿命を延ばすには、どうしたらいいのでしょうか?

 そうです、ここでようやく“エレクトロニクス”の出番がやってくるのです。それでは次の例を見ていきましょう。

エレクトロニクス化の第一歩 〜セミトランジスタ式点火回路〜

 続いて世に登場したのが、図4の点火回路です。

セミトランジスタ式点火回路 図4 セミトランジスタ式点火回路

 図4を見てお気付きかと思いますが、この点火回路ではまだ接点が使用されています。このことから「セミトランジスタ式点火回路」と呼ばれています。「“セミ”って何だか中途半端だなぁ」と感じるかもしれませんが、この方式の登場により接点のコイル(インダクタ)負荷がなくなり、しかもトランジスタのおかげで電流も大幅に少なくすることができました。これで、先ほどの第1の原因が解消されたわけです。

 このセミトランジスタ式点火回路では、“トランジスタ”が使用されています。つまり、“エレクトロニクス化された”といえます。この方式だと初期の点火回路よりも接点の寿命を延ばすことができるため、実際に自動車に搭載されていた時期もありました。

 「さすが、エレクトロニクス! すばらしい!(パチパチパチパチ……)」と手をたたきたいところですが、これで喜ぶのはまだ早いです。第2の原因が残っていますよね。これでは接点の問題が根本的に解決したとはいえません。これを踏まえて、次の点火回路を見ていくことにしましょう。


無接点化を実現した 〜フルトランジスタ式点火回路〜

 セミトランジスタ式点火回路の登場以降も“接点の問題”について多くの研究開発が続けられました。

 その結果、誕生したのが図5に示す「フルトランジスタ式点火回路」です。

フルトランジスタ式点火回路 図5 フルトランジスタ式点火回路

 この方式では接点の代わりに「電磁ピックアップ(注)」というものを採用しています。ちなみに、電磁ピックアップはディストリビューターに内蔵されており、円板はディストリビューターのシャフトに取り付けられています。

※注:電磁ピックアップとは、電磁式回転検出器とも呼ばれ、鉄片の位置が変化するとコイルのインダクタンスが変化する特性を利用した回転検出器のこと。


 図5を見ると、電磁ピックアップ以外にも制御回路やトランジスタなども使用されています。これだけでもエレクトロニクス化されたことが分かると思います。

 では、図6の波形を参考にフルトランジスタ式点火回路の各部の働きを見ていきましょう。

各部の波形 図6 各部の波形

 ディストリビューターのシャフトが回転して、円板が回ると円板の波形の推移は図6のA)のようになります。円板の歯の部分が来たときと、来ないときの変化で電磁ピックアップのコイルに電圧が誘起されます。それがB)の電圧波形です。この電圧波形を基に、制御回路で一次コイルの通電開始時期と遮断時期を決めます。それを示したのがC)の電圧波形となります。H(high)レベルが一次コイルへの通電時間です。D)の各矢印の位置が通電開始時期、E)の各矢印の位置が遮断時期つまり点火時期になります。ちなみに、図6の左側はエンジン回転数が低い場合、右側はエンジン回転数が高い場合の波形を示しています。

 いかがでしょうか? 電磁ピックアップ(=エレクトロニクス)のおかげで、接点をなくすことができましたね。これでようやく、接点の寿命問題に悩まされる心配もなくなったわけです。

 さて、これまで点火回路を例にエレクトロニクス化のメリットについて解説してきました。次ページでは、これ以外のさまざまなメリットについて紹介します。

Copyright© 2014 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

エンジニア電子ブックレット