連載
» 2008年04月14日 00時00分 UPDATE

失われた現場改善力を再生させるヒント(4):トヨタ式? いえ、背伸びしない取り組みが正解 (1/2)

現場改善支援のプロとして、改善プロフェッショナルの育成にこだわりを持ち続けるコンサルタントが贈る現場改善力再生のヒント集。個々人の現場改善能力を3つのタイプに分類し、それぞれに合った処方箋をお届けする。

[眞木和俊/ジェネックスパートナーズ,@IT MONOist]

“トヨタ式改善”ばかりがムダ取りではない

 前回の「まだ自己流の『勘・経験・度胸』を振り回す気?」では、現場改善で着目すべき悪さ加減は、作業や品質の「ムダ」と「バラツキ」だと申し上げました。そこで今回はムダを削減するためのアプローチをご紹介します。

 本連載の読者にとって「ムダ取り」といえば、真っ先に「トヨタ式改善」を思い浮かべると思いますが、それがすべてではありません。トヨタ式改善は、あくまでトヨタという会社の自動車製造に最適化された手法であって、その形だけをほかの会社に持ち込んでも、うまく機能するとは限らないからです。世の中にある改善手法に共通することですが、ツールや手法はあくまで道具なので、目指す効果を出すためには自分たち自身で使い込んで最適化する「自社化」が必要です。

 こうした手法は、現場に立つ全員が習得できれば理想的ですが、そう簡単に実現できる状況とは限りません。そこで、まず先頭に立って理解し広める役割の“伝道師”、つまり本連載で紹介している「現場改善プロフェッショナル」の登場が不可避なのです。

 もちろんトヨタ式改善は多くの実績に裏付けられ、高度に体系化された改善手法なので、その結晶ともいうべきキーワードや着目ポイントには、目を見張るものがあります。例えば、生産現場のムダを「7つのムダ」として定義しています。すなわちムダは、

  • 修正
  • 作り過ぎ
  • 加工
  • 運搬
  • 動作
  • 在庫
  • 待機

の7項目に含まれるというものです。これらの詳細についての説明は割愛しますが、大変具体的に分かりやすく指摘していると思います。

 その一方で、こうしたことが組織知として感覚的、経験的に身に付くまでには、長期間の修行を要しますし、正しく指導してくれる“師匠”の存在が不可欠といえます。トヨタ式改善指導のベテランの方に伺っても、「まず幼稚園生レベルの手習いから始めて、何年もかけて徐々にステップアップを図る以外、完全な修得は難しい」といいます。

 そこで本稿では、もう少し一般的に学ぶことができるムダ削減アプローチとして「IE手法」を取り上げます。IE手法は約1世紀前から提唱されている「現場のムリ、ムダ、ムラをなくすこと」を目的とした改善手法です。図1にIE手法の分析体系の全体像を示しました。

図1 IE手法による分析体系 図1 IE手法による分析体系(© GENEX Partners)
(*1)サーブリッグ:分解できる最小限の動作の単位を表す。
(*2)PTS:Predetermined Time Standards、新規工程設計のための作業分析法の1つ。
(*3)WF:Work Factor、PTS法に分類される作業設計法の1つ。

 この体系図にある各分析手法の詳細は、ぜひ下記の参考文献をご参照ください。

 図1に示したとおりIE手法では、基本的な観察視点を「方法」「作業」「配置」に置いて、定量分析的アプローチを行います。決して小難しい数値分析を行うわけではなく、あくまでも現場観察を主体とした現状に対する実態把握を行い、現場の作業メンバーが中心となって対応策を検討します。まさに5W1H(注1)を基本とした調査から、事実とヒントを探る3現主義(注2)の手法といえます。


注1:5W1H Who(誰が)、When(いつ)、Where(どこで)、What(何を)、Why(なぜ)、How(どうやって)の頭文字を取ったもの。
注2:3現主義 「現場、現物、現実」から事象をとらえるという考え。


ムダとは何か、あらためて考えてみる

 ムダ取りを進めるうえでまず気を付けることは、「自分たちの作業にとって何がムダなのか?」という点です。典型的なムダといわれる“在庫”を例に挙げて考えてみましょう。

 一口に生産現場の在庫といっても、原材料在庫、仕掛かり在庫、中間品在庫、(最終)製品在庫など、いろいろな種類があります。業種や製造方法によっても分類の仕方に違いがあるでしょう。これらがすべてムダというわけではありません。もし在庫品が劣化せず、場所も取らず、管理コストが掛からないなら、誰しも在庫をできるだけたくさん持っていたいと思うでしょう。原料や仕掛かり在庫が豊富にあれば、面倒な生産計画やジョブローテーションなどを考えずに、ライン作業者は好きなときにモノを作ることができます。全品種の製品が在庫にあれば、販売サイドから欠品で文句をいわれることもありません。モノづくりにとって実に便利な状況が出来上がるに違いありません。

 しかし残念ながら現実には、在庫品は劣化するでしょうし、保管スペースも管理コストも掛かります。経理担当者から見れば、金利負担のお荷物以外の何物でもないでしょう。ですから在庫は限りなくゼロに近い必要最低数しか持てませんし、その削減努力を惜しめばもうからなくなります。

 ところが、ただでさえやりくりに追われる現場担当者の気持ちとしては、手間を惜しむあまり、つい作業上の在庫を増やしたくなるのです。そうした意識に付け込むかのごとく、気が付くと売れない在庫が増えていくのが世の常です。この手のムダを生み出す意識は、誰か1人が目を光らせて監視するだけで減るものではありません。ラインに従事する皆さんが意識を変え、安易な在庫を容認しない仕組みを作らなくてはならないのです。

 ただし、むやみに在庫を減らすことはかえって作業の手間を増やし、作業品質を不安定にする恐れがあります。よく生産現場ではQCD(注3)のバランスを考慮することが大切だといわれます。


注3:QCD Quality(品質)Cost(コスト)Delivery(納期)の略称。判断のトレードオフが起こる関係を示している。


 つまり生産ラインが神経過敏に反応せず、かといって惰性で仕掛かり品を増やすことがないよう、適切な「アソビ(ゆとり)」になっていればよいわけです。この「アソビ」と「ムダ」の区別を明確にしておかないと、作業に必要以上のストレスが掛かり改善は進まなくなってしまいます。

 現場改善リーダーを目指す方は、こうした議論に職場の同僚を巻き込むことから始めるとよいと思います。こうした定義には正解はありませんから、「まずこうしたらどうだろうか」という“仮説”を置いて試してみる、というアプローチを取ってみましょう。なおくれぐれも「もぐらたたき」にはならないよう、注意してください。

       1|2 次のページへ

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.