日本型モノづくりの復活はiPhoneに学べ!PLMは“勝ち組”製造業になる切り札か(3)(2/3 ページ)

» 2008年06月17日 14時32分 公開

モノにとらわれて陥るわなとは? 〜過去を捨てる勇気を持て!〜

 スペックから“モノ”としての製品に仕上げる途中で、スペックよりも目の前にある“モノ”にとらわれて陥るわながいくつもある。

 最初は顧客要求を熟慮し、企画を練っていたはずが、なぜか途中でさまざまな妥協を強いられ、顧客要求にそぐわない商品が出来上がることがある。その原因の1つは、長い間、愚直にモノづくりをし、「カイゼン! カイゼン!」と1銭単位でコスト削減や作業効率向上に努力してきた日本モノづくり企業の歴史にある。携帯音楽プレーヤーを例にして話をしよう。

 携帯音楽プレーヤーといえば、特に北米で圧倒的なシェアを持つアップルのiPodを思い浮かべる人が多いと思う。2001年に発売されたiPodは、デザイン・操作性など完成度の高い製品であり、続くiPod mini、iPod nano、iPod touchも顧客を魅了し続けている。

 一方、1978年に初の「ウォークマン」を発売し、携帯音楽プレーヤー市場で高いシェアを誇っていたソニーは、iPodに先行してメモリタイプの携帯音楽プレーヤーを発売しながら、後発にシェアを奪われる結果となった。なぜだろう?

 ソニーは1999年、メモリスティックに楽曲データを転送する「メモリースティックウォークマン」(NW-MS7)を発売し、2000年にはメモリ内蔵型の「ネットワークウォークマン」(NW-E3)を発売した。その後も次々と魅力的な製品を出している。個人的には、2002年に発売されたネットワークウォークマンの新商品(NW-MS70D)など、いま見ても魅力的なデザインをしていると思う。しかし、普及しなかった。主な原因として次の2点が考えられる。

 1つは音声データ圧縮規格の問題である。当時主流だったMP3形式が使用できず、ソニーが開発したATRAC3という規格しか使用できなかった。コピー回数を制限するなど著作権管理に対応するためとはいえ、ユーザーにとって見れば非常に使い勝手が悪かった。

 もう1つは、CD(コンパクトディスク)・MD(ミニディスク)を捨て切れなかったことである。CD・MDともにソニーが開発した規格であり、自社で工場・設備・人員を抱えていた。いわゆる垂直統合モデルである。他社からのライセンス料というおいしい収入源もあった。ソニーはメモリタイプの携帯音楽プレーヤーの普及を促進することで、CD・MDのシェアが下がることを恐れて、大胆な方針転換ができなかった。自ら開発した独自技術に固執し過ぎたあまり、顧客が最も求めているものを見失い、市場での地位をも失ったのだ。

 “カイゼン”を重んじるモノづくり現場にとって、作業の生産性や設備の稼働率を下げることは悪だ。しかし、目先の生産性を重んじるあまり、製品を「売る」ことをおろそかにすれば、生産性どころか工場閉鎖、人件費の安い中国やベトナムなどへの工場移管など、本末転倒な結末もあり得る。中長期的な視点で、過去の資産やノウハウに固執せず、顧客が求めるものを追求することがより重要なのだ。

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 世界市場を見据えたモノづくりを推進するには、エンジニアリングチェーン改革が必須。世界同時開発を実現するモノづくり方法論の解説記事を「グローバル設計・開発」コーナーに集約しています。併せてご参照ください。



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