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» 2008年06月27日 00時00分 UPDATE

モノづくり最前線レポート(4):日本のエンジニアはNASAと同レベルの待遇? (1/3)

海外の製造業は何を求めてモノづくりのIT化を進めているのか。NASAをはじめ、3つの海外ユーザー事例を紹介する

[上島康夫,@IT MONOist]

 米国カリフォルニア州ロングビーチで2008年6月1〜4日に開催された「PTC/USER World Event 2008」に合わせて、PTCは世界のジャーナリスト、アナリストを招き「PTC Annual Global Media & Analyst Event」を開催した。今回のモノづくり最前線レポートは、このプレス向けイベントで紹介されたPTCユーザー企業によるケーススタディを取材し、海外の先進企業がなぜPLMソリューションを導入し、いかにしてモノづくりを改革しつつあるかについてレポートをお届けする。

 ここで取り上げるのは、

EACによる「SMB市場に向けたPLM」 (原題:PLM for the SMB; Market Opportunities and Customer Case Stories)

NASA(アメリカ航空宇宙局)による「エンタープライズPLMへの移行」 (原題:Migration to Enterprise PLM)

Weatherfordによる「統合されたグローバルな製品データ管理」 (原題:Integrated Global Product Data Management」)

という3つの事例である。EAC社はPTC製品に特化して、特にSMB市場に向けたコンサルティングおよびPLM製品導入支援で急成長しているコンサルティング企業だ。同社に寄せられる中小規模の製造系企業の要望から、主に北米の製造業でITソリューションがどの程度浸透しているかを推察したい。また、NASAの事例で語られたのは、歴史の古い組織に根強くはびこるIT化あるいは変革への抵抗勢力とどう戦って、最新のITシステム導入を果たしたかという、かなり人間的な側面に焦点を絞った内容だ。最後に紹介するWeatherford社は全世界に事業展開するグローバル企業で、海外拠点を多数展開する日本の企業には良い参考事例になると思われる。

北米の中小規模製造業にとってIT導入の決め手になるのは?

 EAC社は米国ミネソタ州に本社を置く、社員数50人規模のコンサルティング企業で、1996年の設立以来、PTCのPLM製品「Windchill」を50ライセンス以上導入支援している実績を持つ。彼らが特に力を入れている分野は、中小規模の製造系企業に対して短期間に製品を市場投入できるよう支援を行うことだという。ITツールとして扱っているのは、WindchillのほかPro/ENGINEER、Arbortext、MathCADといったPTC製品が中心だ。

 「SMB市場に向けたPLM」と題された講演を行った同社の社長兼CEO、セーン・ハザウェイ(Thane Hathaway)氏はSMB市場における製品開発には3つのトレンドがあると、次のように語った。「1つ目のトレンドは、リーン製品開発への強い要望です。リーン、つまり無駄を徹底的に省いた効率的な製品開発が彼らの競争力を保つうえで非常に重要となっているのです。これには2つのアプローチがあります。1つは業務フローを見直して無駄を削減していくプロセス改善、もう1つは企業内に蓄積されたナレッジを再利用できるような組織改革です」

EAC社 社長兼CEO セーン・ハザウェイ氏 EAC社 社長兼CEO セーン・ハザウェイ氏

 2つ目のトレンドとしてハザウェイ氏が指摘したのは国際化だ。「海外の仕向地向けにカスタマイズの必要が生じる国際的商品では、主立った市場(ヨーロッパ、中国、中東、南米など)のすぐ近くで製品開発を行おうとする傾向が強まります。すべての製品開発を本国で行うと、消費地ごとのニーズをうまく取り込めず、製品の競争力が落ちると彼らは心配しているのです。また、海外では才能のある人材を低コストで確保できるメリットもあります。その結果、グローバル化した製品開発拠点同士をどうやって協調させ、うまく管理していくかという問題に直面するわけです」

 そして最後のトレンドは、「消費者ニーズの多様化および製品ライフサイクルの短縮化」だという。消費者の製品に対する期待値は増大する一方で、マスプロ製品を作っていては生き残れない。かといって、個別ニーズに応えるようなカスタム製品を目指せばすぐに採算割れしてしまう。このバランスをどう取るのか。一方で、大企業は資本力を生かして次々と新製品を投入してくる。これに対抗すべく中小規模の企業が投入する製品の多くは、開発期間が長くかかり過ぎて失敗するのだという。

 ハザウェイ氏が指摘した3つのトレンドは、日本の製造業各社を取り巻く環境と少しも変わらないことに気付く。日本にあって北米にない問題といえるのは、団塊世代の大量退職問題くらいだ。それではなぜ彼らは日本より積極的にIT化を推進しようとしているのか。ハザウェイ氏はPLM導入の理由について、以下の6項目に言及した。

製品情報の一元管理 国際展開した開発拠点間で、同一仕様の製品を重複して開発するなど、情報管理に起因するミスを減らすのに役立つ。

顧客やサプライヤ、パートナーとのコラボレーションを促進 顧客、開発パートナー、サプライヤなど、製品開発にかかわる多くの関係者の意見を集約するためには、情報共有を可能にするIT環境を用意する必要がある。

製品開発のプロセスを効率的に実行する環境構築 開発拠点が分散しても、常に正しくプロジェクトが進行するように、ビジネスプロセスを回す承認フローなどをITツールの力を借りて自動化したい。

内部統制や情報セキュリティの強化 設計データを一元管理して多数の拠点で利用可能にすると同時に、データの所有者を明確にしアクセス制限を掛けるなど、情報管理をしっかり行いたい。

製品投入サイクルの期間短縮 製品出荷のタイミングを逃さないために、プロジェクトの進ちょく状況を見える化しムダな手戻りを削減したい。

製造部門への情報提供の効率化 効率的な開発を行うことで製造工程を前倒ししたい。またBOM(部品表)の管理が容易になり、製品情報と生産プロセスの対応関係を明確化できる。

 ここで述べられたPLM導入理由のほとんどは、設計製造を行う拠点のグローバル展開によって引き起こされていることが分かる。水平統合型モノづくりを得意とする北米企業文化では、中小規模の製造企業であってもすでにかなりの割合でグローバル化が進んでいるため、PLM導入が加速しているのだろう。

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