“丸パイプ同士”をやめて工数削減&コストダウン事例で知るVA・VEのコストダウン手法ABC(5)(1/2 ページ)

丸パイプのほうが安全な感じがするから。先入観だけで丸パイプを選択してしまうと余計なコストが掛かってしまうだけだ

» 2008年08月28日 00時00分 公開
[舩倉 満夫/フナックス・エンジニアリング,@IT MONOist]

 今回は、複雑形状から単純形状に設計変更をして同一仕様を構築することによる改善設計を紹介します。形状を単純化することにより、ベテラン加工者も一般加工者も加工できるようになり、品質の安定、納期短縮化、コストダウンが行えるようになります。

 また今回は、その基本の解説となります。実際の設計では、本記事の課題よりもっと複雑な機構の中で行うことになると思いますが、本記事で述べられている基本をうまく活用することでコストダウン効果をたくさん生み出すことができるでしょう。

【設計課題9】端末加工を単純化させる

 本課題は、産業機械の設計において、丸パイプと丸パイプの溶接を安易に選択してしまうことに対して警鐘を鳴らすことが目的です。なぜかというと、その選択により工数が多くなったり、その工法を行う加工者が高度な技能を持っていないと品質維持できなかったりします。すなわち、コストアップと納期遅延を招くことになるのです。

 図1a・bでは、丸パイプと丸パイプの接合と、角パイプと丸パイプの接合状況を示し、比較します。見た感じはそれほど変わりません。

(左)図1a 丸パイプの母材に、丸パイプ2本を溶接、(右)図1b 角パイプの母材に、丸パイプ2本を溶接

 実際、丸パイプと丸パイプの組み合わせの方を圧倒的に多く見掛けるのですが、それはだいたい以下2つの理由によります。

  1. 「デザイン的に柔らかく見えるし、ユーザーも使いやすい」と考えるため
  2. 「丸パイプの方が角パイプよりも使用する際に安全そう」と考えるため

 つまり設計者の先入観です。

 周りでよく見掛ける形状に影響され、それと同等の形状を採用したくなるのが人間の癖といえます。第1回の板金と製缶構造に関する記事でも同様のことを書きました。またここでは病院のベッドや車いすなどの設計を想定していますが、いすやベッドだと安全性に重点が置かれ、丸パイプが選択されます。

加工方法を検討する

(左)図2a 丸パイプ同士:角度決めに特殊な治具が必要、(右)図2b 角パイプと丸パイプ:まっすぐであれば治具不要

 丸パイプを使った場合と角パイプを使った場合との加工上の問題を抽出してみましょう。

 図2aの丸パイプ同士で縦にパイプを接合する場合、気を付けたいのは青色のパイプと緑色のパイプの角度です。この品質を維持するために特殊な治具を製作して加工することになります。

 一方、図2bの角パイプの上に丸パイプを縦に接合する場合、例えば角度に対して平行であれば、治具なしで組み付けて問題ありません。また角度を付けるのであれば、丸パイプ同士と同様に治具を製作する必要はありますが、簡易なもので十分です。

 以下では、端末加工(パイプの端のカット方法)にクローズアップし、検証します。

(左)図3a 丸パイプ同士:端末を母体に合わせた複雑なR状に加工しつつ、長さも合わせなければならない、(右)図3b 角パイプと丸パイプ2本長さを決めてストレートに切ればOK

 図3aのような丸パイプ同士の場合、接合する丸パイプは、長さを決める加工と合わせて、母材となる丸パイプの円弧に合った形状を端末に加工する必要があります。この端末に加工する円弧形状は、母材に合っていればいるほど溶接加工は楽になります。また、この端末加工には熟練技能と工数を要します。

 図3bのような角パイプと丸パイプの組み合わせとした場合、接合する丸パイプは長さを決める加工(カット)のみで済みます。丸パイプ同士に比べ、加工時間で非常に差が出ます。

 この課題は極めて基本的な形状ですが、この考え方を基にVAを検討していけば、多くの問題が解決できます。

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