電気自動車設計のコツ

スポーツカーであれSUVであれ、自動車の設計には、一般的にさまざまな工学的課題がともなう。ターゲットの顧客層に受け入れられるデザインを取り入れ、複雑な問題を解決して性能を最適化するためには、山積みする課題を克服しなければならない。

» 2008年09月01日 00時00分 公開
[Automotive Electronics]

 スポーツカーであれSUVであれ、自動車の設計には、一般的にさまざまな工学的課題がともなう。ターゲットの顧客層に受け入れられるデザインを取り入れ、複雑な問題を解決して性能を最適化するためには、山積みする課題を克服しなければならない。内燃エンジンの代わりに電動機を搭載するとなると、困難さはさらに増す。設計チームは、さまざまな従来の設計目標に加えて、空気力学、パッケージング、動力系統などの分野の新たな課題に取り組まなければならない。

 米General Motors(GM)社などの大手メーカーや小規模な電気自動車メーカーでは、これらの問題を解決するため、従来型の自動車の開発プロジェクトの場合と同様に、CADやシミュレーションソフトウエアなどの3次元技術を積極的に活用している。3次元CADは、車両全体の完全なデジタルモックアップを構築することができるため、構成部品を改造したり配置を変更したりして、パッケージングを最適化できる。有限要素解析(FEA)や数値流体力学(CFD)などのCAEソフトウエアは、車両の空力特性を最適化したり、構造解析によって重量や材料を最適化したりするのに役立つ。

シティコミュータの場合

写真1 CommuterCars社のTango(提供:CommuterCars社) 写真1 CommuterCars社のTango(提供:CommuterCars社) シティコミュータであるTangoの開発では、狭い車体スペースへの実装と重量の削減に取り組んだ。

 車幅がわずか90cmの車体に重さ約500kgの電池を積み、限られたスペース内にあらゆるハイテク部品を詰め込んだ車を設計することは、非常に難しいパズルを解くのに似ている。

 米Commuter Cars社は、都市型電気自動車「Tango」(写真1)を設計する際に、こうした課題に直面した。Tangoは、その幅の小さい独特のサイズと形状により、2m幅の車線を走行でき、また、他の車の間の狭い駐車スペースに駐車することもできるユニークな車だ。Commuter Cars社の創業者で社長のRick Woodbury氏は、「一般的なサイズの車に搭載されているすべての機能を、その4分の1の大きさの空間内に詰め込むことは、非常に困難な課題だ」と言う。

 Commuter Cars社では、実際の物理的な試作車を製作する前に、各部品が位置に収まるかどうかをデジタルデータで確認したが、その際には米Solid Works社の3次元CADツール「Solid Works」が重要な役割を果たした。例えば、設計チームは、モーターとトランスミッションの最初の設計が、割り当てられた設計スペース内に収まらないことを早い段階で特定することができた。そこで、SolidWorksを使って、モーターを2台搭載する特殊な設計を行い、電池とエアコンの収納を改善した。Woodbury氏によると、「それまでは電池の格納を中心として車両全体の設計を行わなければならなかったが、このモーター2台の設計を採用することによって、車体の下回りの残り全体を電池用に振り向けることが可能になった」という。

 これとは別に大きな設計課題は、車両の始動抵抗をスポーツカーと同じレベルに抑えるため、重量を削減することだった。Tangoにはステンレス鋼と炭素繊維材料が多用されていて、4秒間で96km/hまで加速することができる。Woodbury氏によると、Commuter Cars社では、Tangoの構造軽量化をさらに進めるため、米SolidWorks社のシミュレーションソフトウエア「Cosmos」を利用しているという。

プラグイン・ハイブリッドの場合

 Nina Tortosa氏は、同僚から“空力警察”と呼ばれている。同氏は、GM社のプラグイン・ハイブリッドのコンセプトカー「Chevrolet Volt」に電気駆動システム「E-Flex」を搭載するプロジェクトに性能エンジニアとして参加し、この電動自動車の本生産バージョンの空力特性を最適化する仕事を統括している。

 Voltは、コンセプトカーの段階からすでに、量産用の電動自動車では最適な空力性能になるように配慮した設計が行われていた。しかし現在、2010年11月の市販開始に向けて初期設計から生産設計への移行作業を行っている設計チームは、空気力学をあらためて最優先の課題に据え、その取り組みを強化している。彼らは、空力特性の改善に必要な変更をすべて実施しながらも、2007年にこの車を発表したときに消費者から良い反応を得た部分については、できる限り変更しないで済むように努力している。こうした部分には、例えばフロントグリル、ヘッドランプ、ボディなどの形状が含まれる。

 そのため、Tortosa氏のチームは、早い段階から設計プロセスに参加し、数百時間をかけて風洞実験やコンピュータシミュレーションを実施して、高性能の設計を実現しようとしている。「電動自動車が、ガソリン車などと最も大きく異なる点は、空気力学が燃料効率や充電ごとの走行距離に非常に大きな影響を及ぼすということだ。従来型の自動車のように、空気力学の面で妥協することはできない」(Tortosa氏)。

 Voltの開発チームは、風洞セッション以外にも、米ANSYS社に買収された米Fluent社のCFDツールを使って同様の表面流れ試験と流れの可視化を行い、問題領域の絞り込みと、風洞では見つかりにくい問題の特定に役立てている。GM社でE-Flexシステムの設計を担当するディレクタのBob Boniface氏によると、こうした積極的な試験によって、フロントのコーナー部分が以前よりも丸い形状になるなど、Voltの設計に変化が起き始めている。

 Volt開発チームでチーフエンジニアを務めるAndrew Farah氏によれば、電動自動車では、空気力学だけでなく、パッケージングに関してもさらに困難な課題があるという。利用可能な既製品のコンポーネントの種類が少なく、すでに決められた空間内にモーターや電池などの要素を収納しなければならないため、設計が途中で変更される確率が高くなってしまう。「エクステリアとインテリアの理想的なサーフェス設計を尊重しながら、残された空間内に物理的にコンポーネントを配置するのは非常に難しい」(同氏)。

電動スーパーカーの場合

 米Tesla Motors社の「Tesla Roadster」は、初期のコンセプトの段階から、性能を重視して開発された車だ。Tesla社のディレクターでボディエンジニアリングを統括するBarrie Dickinson氏は、「この車は、日常生活に使う実用車ではない」と話す。

写真2 TeslaRoadsterのデジタルモックアップ(提供:TeslaMotors社) 写真2 TeslaRoadsterのデジタルモックアップ(提供:TeslaMotors社) TeslaMotors社は、試作車を製造する前に、3次元CADを利用して車両全体のデジタルモックアップを構築した。

 Tesla社のエンジニアは、4秒間で60マイル(96km)/時まで加速できる100%電気駆動の自動車を開発することを主要な目標に据えたが、スタイルと性能を高いレベルでバランスさせることは、従来のガソリン車と比べて格段に難しい仕事となった。Dickinson氏は言う。「電気自動車の場合、空気抵抗による損失は、走行距離に大きく影響する。そこで、すぐれた空気力学性能を持つ外部パッケージ形状が必要となる。大部分のスポーツカーの設計では、そうしたことはあまり考慮されていない。通常のスポーツカーは、スタイリングがどうだとか、揚力のバランスの良さなどを問題にしている。」Tesla社では、これを実現するために、車両デザインのコンサルティングを行っている英MIRA社に協力を仰いだ。MIRA社は、Tesla RoadsterのCFDモデルを作成するとともに、風洞技術を利用して、空力特性の最終調整を行った(写真2)。

 また、Dickinson氏によると、部品の重量を極力減らすため、FEAツールの助けも借りているという。Tesla Roadsterの基本構造は英Lotus Cars社との協業によって生まれたものだが、同氏によると、FEA解析によってシャーシの各部が新たに改良された。改良個所には、サイドレールや内部ドアも含まれているという。「剛性と強度に関する性能要件をすべて満足しながら、車両の重量を極限まで軽量化するために、こうした解析を利用している」と同氏は言う。

 約450kgに達する電池をこの車に搭載する際のパッケージ設計では、フランスDassault Systemes社の3次元CADツール「CATIA」とデジタルモックアップ機能が重要な役割を果たした。最初の設計では今よりも小さい電池パックを搭載する予定だったが、新しい安全対策やその他の機能が導入され、要求電力量が増えたため、電池のサイズを途中で変更することになった。「すべてを手作業で行う場合と比べて、CADとデジタルモックアップによって、これらの変更をより効率的に行うことができた」とDickinson氏は言う。Tesla Roadsterは、2008年3月17日に生産を開始した。

(Design News、Beth Stackpole)

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