センシング技術の応用で新提案、発売間近の電気自動車にも注目人とくるまのテクノロジー展 2008(1/2 ページ)

「人とくるまのテクノロジー展2008」が、2008年5月21日から23日まで、パシフィコ横浜で開催された。東京モーターショー開催の翌年にあたることから、自動車メーカーや大手Tier1サプライヤの新規展示は多くはなかったものの、昨年と同様に会場内に収まりきれないほどの出展社が、部品、材料、装置などに関する新規提案を行った。エレクトロニクス関連では、センシング技術をどのように利用するかに重点を置いた提案が目立った。

» 2008年09月01日 00時00分 公開
[本誌編集部 取材班,Automotive Electronics]

カメラ画像の利用法

 富士重工業は、2008年5月発売の改良型「レガシィ」とSUV「レガシィ アウトバック」に採用した、先進運転支援システム「EyeSight」の技術展示を行った(図1図2)。


図1 富士重工業のEyeSightの技術展示 図1 富士重工業のEyeSightの技術展示 前方認識センサーにステレオカメラのみを使って予防安全システムを実現した。
図2 EyeSightのステレオカメラ 図2 EyeSightのステレオカメラ モジュール内に専用ASICをはじめ関連システムを統合している。

 EyeSightは、30万画素のモノクロCCDセンサーを2個搭載するステレオカメラと、カメラ画像から前方の車両や歩行者などを3次元で認識する専用ASICを組み合わせ、衝突被害軽減ブレーキ、車線逸脱警報、クルーズコントロールなどの機能を実現している。通常、これらの機能を実現する場合、ミリ波やレーザーなどのレーダーが使用されるが、ステレオカメラだけで実現したことが最大の特徴である。「カメラ画像の場合、レーダーと比べて雨や霧などの外乱要因に強く影響されるため、周辺環境に影響されない認識性能を実現するための調整が最大の課題だった」(富士重工業)という。量産は、日立製作所が担当している。


図3 スズキのドライバーモニタリング技術 図3 スズキのドライバーモニタリング技術 慶應義塾大学と共同開発している技術で、顔向きと視線を同時に検出できる。
図4 デンソーのイメージマイニング技術 図4 デンソーのイメージマイニング技術 右下のカメラの下にピースを置くと、どの部分にあたるかを瞬時に示す。

 スズキは、慶應義塾大学と共同開発しているドライバーモニタリング技術を展示した(図3)。

 現行の量産車で採用されているドライバーモニタリング技術は、カメラ画像からドライバーの特徴点を2次元的なパターンとして抽出しているが、スズキと慶應義塾大学の技術では、複数のカメラを使って特徴点を3次元的なパターンとして認識している。さらに、時系列でパターン認識を行う「パーティクル・フィルタ」と組み合わせることで、顔向きと視線を同時に検出できるようになる。展示では、2台のカメラでドライバーから9つの特徴点を取得し、車両前方のカメラ画像のどこを見ているかを示す、最新の研究成果を紹介した。

 デンソーは、独自の画像認識技術として「イメージマイニング技術」を紹介した(図4)。

 画像認識では、認識対象となるパターンを準備して、画像とパターンマッチングを行う方法が一般的だが、自動車の安全機能に利用する場合は認識対象の拡大、縮小、回転の影響を避けるため、一つの対象物に複数のパターンを用意する必要がある。イメージマイニング技術では、認識対象データをベクトル化することで、通常のパターンマッチングに比べて準備すべきパターン枚数を大幅に減らすことができる。展示では、群集写真をジグソーパズルのように分割した個別のピースをカメラで認識して、そのピースの向きにかかわらず群集写真のどの部分にあたるかを瞬時に示すデモンストレーションを行った。

図5 マツダのリア・ビークル・モニタリング・システム 図5 マツダのリア・ビークル・モニタリング・システム サイドミラーの代わりに液晶ディスプレイでaを見せていた。
図6 アイシン精機のスマートハンドル 図6 アイシン精機のスマートハンドル 前モデルのクラウンにあったロックボタンがなくなりデザイン性が向上した。
図7 スマートハンドルの内部構造 図7 スマートハンドルの内部構造 静電容量センサーにより施錠と開錠を行える。

 マツダは、2008年1月発売の新型「アテンザ」の「リア・ビークル・モニタリング・システム」を展示した(図5)。同システムは、車両後方に設置した2つの24GHz帯マイクロ波レーダーを使って、時速60km以上での高速走行時に後方接近車両を検知して、車線変更による衝突危険性を知らせる。後方50mに車両が接近すればサイドミラーの警報インジケータが点灯し、もしインジケータ点灯側に方向指示器のレバーを操作すると、インジケータ点滅と同時に警報ブザーが鳴る。

 アイシン精機は、2008年2月発売の新型「クラウン」に採用された「スマートハンドル」を展示した(図6)。静電容量式のタッチセンサーを利用することで、ハンドルを握ってハンドル裏面に触れるだけで開錠が、ハンドル上部のくぼみに触れるだけで施錠が行える。「ロックボタンがなくなったので、クラウンに見合う高級感のある外観を実現できた」(アイシン精機)という。また、ハンドル内に、ドライバー確認を行うスマートキーとの通信用アンテナ、施錠と開錠を行うための静電容量センサー、センサー検出回路を内蔵しており、車両搭載性能の向上とコスト低減を図っている(図7)。常時通電の必要な静電容量センサーの待機時消費電流も、0.5mAに抑えた。


図8 東芝の認識機能付き電子ミラー表示システム 図8 東芝の認識機能付き電子ミラー表示システム Visconti以外に画像表示のコンパニオンチップとして米Altera社のFPGAを使用。

 東芝は、現在開発中の「認識機能付き電子ミラー表示システム」を展示した(図8)。電子ミラーでは、サイドミラーの代わりに車体の左右から後方を撮影しているカメラ画像を、インパネ左右のディスプレイに表示する。東芝のシステムは、そのカメラ画像から障害物などを画像認識して、電子ミラー上で強調表示やカラー表示を行う。画像処理チップには、ホンダ「レジェンド」のナイトビジョンシステムなどに採用されている「Visconti」を利用している。


図9 出会い頭衝突防止支援システムの歩行者・自転車感知センサーの動作例 図9 出会い頭衝突防止支援システムの歩行者・自転車感知センサーの動作例 比較的低速で移動する歩行者は緑、高速で移動する自転車が赤で表示されている。
図10 日立のハンドル一体型指静脈認証装置の展示 図10 日立のハンドル一体型指静脈認証装置の展示 カーナビの画面を使って各指の動作設定を行える。
図11 ハンドルに組み込まれた指静脈認証装置 図11 ハンドルに組み込まれた指静脈認証装置 銀行ATMでは指の腹をセンサーにあてるが、ハンドルでは指の側面で認証を行う。

 また、マツダなどと公道実験を実施中の「出会い頭衝突防止支援システム」については、歩行者・自転車感知センサーのデモンストレーションを行った(図9)。同システムは、交差点での発進時に、自車の左側から接近する歩行者・自転車についてDSRC通信で知らせる、ITSシステムの一つ。歩行者・自転車感知センサーは、歩道を撮影したカメラ画像から歩行者・自転車を抽出し、その位置・速度を検出する。

 日立製作所は、ハンドル一体型指静脈認証装置を実車のカットモデルに搭載して展示した(図1011)。銀行のATMなどでおなじみの技術だが、ハンドル内に組み込むため指の腹ではなく側面で認証するようにして装置の薄型化を図っている。また、エンジン始動、シートポジション変更、カーオーディオやナビの操作など各指に機能を設定することが可能で、セキュリティ用途以外にも応用できることが特徴となっている。


図12 ボッシュの第3世代ミリ波レーダーユニット 図12 ボッシュの第3世代ミリ波レーダーユニット 低価格のSiGeベースのチップを採用している。
図13 松下電工のステアリング感応式クリアランスソナー 図13 松下電工のステアリング感応式クリアランスソナー 超音波センサーによりドライバの死角となる斜め前方下部の障害物を検知できる。
図14 豊田合成の360度フルカバーエアバッグ 図14 豊田合成の360度フルカバーエアバッグ 歩行者保護を目的にボンネット上にもエアバッグが出る。

 ボッシュは、プリクラッシュシステムやESCなどの各種安全システムに必要なセンサーモジュールを多数展示したが、2009年中に市場投入する予定の第3世代ミリ波レーダーに注目が集まった(図12)。従来のGaAsベースの通信チップに比べて低価格なSiGeベースのチップを採用しており、ほかにもモジュールの小型化や、検出角度を広げることなどもできるなど、さまざまな機能向上が期待されている。

 松下電工は、最新型のステアリング感応式クリアランスソナーを展示した(図13)。この安全システムでは、超音波センサーを2個内蔵した超音波デュアルセンサーにより車両前方の障害物の相対位置を検出するとともに、ステアリングの舵角情報を連動することで障害物との接触判定をより正確に行える。最新型では、超音波デュアルセンサーの設置面積が従来比で3分の2となり、ECUの小型化にも成功している。すでに実車に搭載されているという。

 豊田合成は、ドライバだけでなく歩行者などへの安全も意識した「360度フルカバーエアバッグ」を展示した(図14)。ドライバや助手席のエアバッグ装備は一般的になり、サイドエアバッグも高級車を中心に装備率は高まっている。しかし、今回の360度フルカバーのうち、リアガラスに広がる後突用や、グリル、フードの上に広がるエアバッグはまだ実用化はされていない。「後突用の実用化はかなり近いが、グリルとフード上のエアバッグは、従来とセンシングが異なるためまだ課題は多い」(豊田合成)という。

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