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» 2008年09月02日 00時00分 UPDATE

ものづくり白書2008を読み解く(前):“世界の工場”中国なんて、ちっとも怖くない? (1/2)

2002年から始まった緩やかな景気拡大は、米国サブプライム住宅ローン問題や原油価格高騰によって息切れを起こしている。こうした中、日本のモノづくり企業はどこへ向かえばよいのか。経済産業省から発表された「2008年版ものづくり白書」を基に考察してみる。

[上島康夫,@IT MONOist]

 政府は2008年8月の月例経済報告に「景気は、このところ弱含んでいる」との表現を盛り込み、事実上景気の後退局面入りを認めた。2002年2月から始まった戦後最長の景気拡大は終息し、サブプライム住宅ローン問題をきっかけとした米国の景気後退、原油価格高騰に代表される世界的な資源価格の上昇により、これまで景気のけん引役であった輸出が「弱含んでいる」ことが確認されたのだ。

 日本の製造業は名目GDPの21.3%を占め、他産業へ及ぼす波及効果も高い。そして輸出の90%以上が工業製品であることを考えると、ここへ来て表面化した輸出の落ち込みは製造業、ひいては日本経済に大きな影響を及ぼすことが懸念される。この重要な局面にあって、これから日本のモノづくり企業はどのような課題を解決すべきなのか。2008年6月に経済産業省から発表された「2008年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)」(以下、白書)に基づいて考察してみる。

グローバル経済とアジア脅威論

 日本がデフレ不況から立ち直ったのは、薄型テレビやデジタルカメラといったデジタル家電の成長、および中国などアジア市場の拡大が大きく寄与したといわれている。日本の地域別輸出額の推移を示した図1を見れば、アジアへの輸出が景気拡大を支えてきたのは明白だ。2007年にはアジア向けの輸出額は40.4兆円、輸出総額に占める割合は48.1%とおよそ半分にまで拡大している。

図1 我が国の地域別輸出額の推移<br>(出典:2008年版ものづくり白書 図121-1)

 製造大手企業の2007年度決算を見ると、

  • トヨタ自動車:連結売上高、連結営業利益ともに過去最高
  • ソニー:売上高と純利益は過去最高、営業利益は史上2番目
  • 松下電器産業:純利益は22年ぶりに過去最高

など、軒並み過去最高益を計上している。この背景には、飽和状態にある北米・欧州市場から成長著しいアジア市場へ軸足を移した戦略が功を奏した結果といえよう。

 次に、どれだけモノづくり企業がアジアへ進出したのかを示す表1を見ると、1995〜2006年度の11年で、中国へ進出した製造業の現地法人数は743社から2376社へと約3倍、ASEANでは1109社から1783社へと約1.6倍に、それぞれ大幅な伸びを示している。

表1 我が国の現地法人(製造業)の海外展開

表1 我が国の現地法人(製造業)の海外展開
(出典:2008年版ものづくり白書 図121-11)

 大手メーカーの動きに合わせて、関連するサプライヤもアジアへ生産拠点を移した結果、国内製造業の空洞化や人材や技術の流出を懸念する声が高まってきた。高度な技術を持つ団塊世代の退職や後継者不足によって廃業に追い込まれる中小企業も少なくない。また、熟練技術者がアジア企業に引き抜かれたりアジアの現地法人に異動することで、金型製作など日本が強みを誇っていた技術が海外流出するのではないか、という議論である。しかし白書のデータを見る限り、それほど深刻な空洞化、技術流出は起こっていないようだ。

何がアジアに出て行き、何が日本に残ったのか

 それでは白書に沿って、モノづくり企業の海外展開の内容を具体的に見ていこう。まず図2は、製造企業の業種別にどれだけ海外生産比率を高めてきたか、1994〜2006年度の推移を示したグラフである。最も積極的に海外展開を進めてきたのは自動車などの「輸送機械」で37.8%。次に「電気機械」が22.9%となっている。この2業種は突出して大きいが、その伸びは2004〜2005年度を境に鈍化している。「精密機械」に至っては2005〜2006年度にかけ大幅に海外生産比率を下げている。高品質の部品を多数使用し、複雑な組み立て工程を要するこういった業種で、海外生産比率が伸び悩んでいるのは何が原因なのだろうか。

図2 我が国製造業の海外生産比率(業種別) 図2 我が国製造業の海外生産比率(業種別)
(出典:2008年版ものづくり白書 図121-9)

 日本から中国、NIEs、ASEAN4といったアジア主要国への輸出品の内訳を示した図3を見ると、その大半は「素材・中間財」であることが分かる。これを先の図1と重ね合わせて見ると、日本の景気が底を打った2002年を境にアジア向けの素材・中間財の輸出が急激に伸びたことと、日本の輸出額の増加が同期していることが分かる。日本から輸出された工業製品のうち素材・中間財が占める割合は、1990年に62.3%だったものが2005年には70.8%と9ポイント近く上昇している。

図3 我が国のアジア主要国・地域への輸出内訳 図3 我が国のアジア主要国・地域への輸出内訳
(出典:2008年版ものづくり白書 図121-3)

 一方で、アジアに展開した現地法人の日本からの輸入額は、中国で1995年度に0.2兆円だったものが2006年度には3.0兆円へと15倍に増加、ASEAN諸国では1995年度に0.8兆から2006年度には3.1兆円へと約4倍に増加している(表1)。また白書は、アジア主要国の工業製品輸出額と日本からの中間財の輸入額の推移には、明らかな相関関係が見られると指摘している。

 これらのデータから、付加価値の高い素材や中間財は国内で設計・製造し、それを人件費の安いアジア諸国の現地法人へ輸出して、労働集約的な組み立て工程を行っていると判断できる。つまり、製造業の空洞化は工場での生産工程という限定された範囲でしか起こっていないのである。

 次ページでは視点を変えて、企業の立場からアジア進出をどのようにとらえているのかを分析してみる。

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