競合商品を設計分析で駆逐しようぜぃ!甚さんの設計分析大特訓(6)(1/3 ページ)

日本企業の技術者は競合機分析をやらないって本当? 以前登場した灯油ポンプを例にして、競合機分析の基本を甚さんが伝授する

» 2008年09月04日 00時00分 公開
[國井良昌/國井技術士設計事務所(Active Design Office),@IT MONOist]

当連載の登場人物

甚

根川 甚八(ねがわ じんぱち)

根川製作所 代表取締役社長。団塊世代の大田区系オヤジ技術屋。通称、甚さん

良

国木田良太(くにきだ りょうた)

ADO製作所 PC事業部 設計2課 勤務。80年代生まれのイマドキな若者。機構設計者。通称、良君


*編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。


 皆さん、第5回の「プラレール電車を設計分析しようじゃねぇかい!」は、いかがでしたか? 適切な電池の選択法を説明しましたが、これを設計工学では、「技術形式の選択」と称します。

 再び、第1回の「灯油ポンプの設計書を書こうじゃねえかい!」の図1で、設計プロセス上でその位置を確認しておきましょう。

第1回の図1 正統派の設計フローと手抜きの設計フロー

 ところで、「なぜ単2電池を選択したのですか?」と、設計審査で問われたとします。造形者である3次元モデラーには答えられません。しかし、「設計思想とその優先順位」を設定し、検討を積み重ねた設計者ならば容易に答えられると思います。

 一方、「2007年問題」に関して、技術を伝承してほしい人はたったの1割、後の9割は早く退散してほしい……。すべての企業とはいいませんが、これが開発現場の生の声です。若きエンジニアの皆さん、技術を伝承できる技術者になりましょう!

 それでは恒例の「理解度チェック」です。3項目以上理解していた方は先へ進みましょう。そうでない方は、第5回を読み直してみてください。

理解度チェック

  1. 設計者の三大成果物は「設計書」「図面」「特許」である
  2. 最適技術や最適部品は、「思い付き」で選択すべきではない
  3. それは、設計思想とその優先順位で決めることを理解した
  4. プラレール電車の電池が単2である理由を説明できる
  5. 技術を伝承できる技術者になりたい

競合を駆逐せよ!

良

甚さん! 前回のプラレール電車の設計分析では、その電池サイズの選び方に目からウロコが落ちました……。感激です。


甚

そうか! オレもうれしいってもんよ、あんがとよ。そんじゃ、いままでのオメェのような3次元モデラー流の選択法とはどういうことか、いってみやがれ。


良

行き当たりばったりの“思い付き選択法”でしたよ。一番安いとか、小さいとか、あとは有名ブランドとか。


甚

だから、設計審査ができなかったんだよ。例えば『そのモーターはどうやって決めたのか?』 と聞かれっと、オメェは?


良

『別っつにぃ〜』っていっていました(笑)。エリカちゃんのマネをして。


甚

べらんめぇ! エリカちゃんの悪口をいうな! 少なくとも、図面に関しては、オメェより上手(うわて)だ!


良

また出たよ。何度も甚さんからいわれるので、山田 学氏の『図面ってどない描くねん』で勉強しています。


甚

なかなか関心なヤツだ。設計者は『日々是決戦』だ。OJT(おぉじぇてぇ)を期待する前に、まずはテメェで勉強しろってぇもんだ! これを自己研鑚(じこけんさん)というんだ。どうだ書けるか? 院卒だろうが。


良

ハイ! もちろん書けますとも。今日は、設計思想特訓の“ハイパーバージョン”なんですってね。早速、教えてください。お願いします。


甚

まさか、今回もICレコーダーで取るってわけじゃねぇだろなぁ? じゃ、いまから行くぜぃ!


 今回は「競合商品を設計分析で駆逐しようぜぃ!」というタイトルですが、「駆逐」とは少々過激な言葉ですね。

 ここでは再び、灯油ポンプが登場します。第2回の「灯油ポンプの設計審査をしようじゃねえかい!」でも登場した灯油ポンプを“市場で人気ナンバーワンの人気商品”だと仮定します(図1)。

図1 灯油ポンプ このポンプが市場で人気ナンバーワンだとしよう

 これから、この商品に対して果敢な挑戦を試みるのです。

 皆さんの競合で、「オンリーワン」や「市場一番乗り」、つまり唯一の勝ち組企業や唯一のヒット商品はありませんか? それをターゲットとし、設計の立場から駆逐するための方法を甚さんに“伝承”してもらいましょう。

 ここから、「設計思想とその優先順位」のハイパーバージョンに入っていきます。

甚

オメェは確か、ADO製作所の“造形者”だっけなぁ?(笑)


良

甚さん、もう勘弁してくださいよ! 設計者と呼んでください。確かに僕は、ADO製作所でパソコンのフレームを……ゾウケ……いえ、セッケイしています!


甚

だったらよぉ、競合機分析の結果をいってみやがれ!


良

……あ、競合機分析ってなんですか?


甚

テンメェ! イーカゲンにしろっ!


 そして、今回もまた(名物の)甚さんの鉄拳制裁が下りました。良君、こんな調子でハイパーバージョンの特訓についていけるのでしょうか。

良

ンモーッ! 痛い! だからポンポンぶたないでっていっているじゃないですか。


甚

なんてぇ平和で、なんてぇノーテンキな日本企業だ! すんげー頭にきたから、オメェの会社の“ナイナイ主義”をまとめてやんよ!


良君の会社の“ナイナイ”一覧

  • 設計書がない
  • 設計審査がない
  • 検図がない
  • 特許出願がない
  • OJTがない
  • 技術の伝承がない
  • 競合機分析がない

 設計者の3大成果物は、 1.設計書、2.図面、3.特許でした。 このうち「図面」しかなさそうです。 しかも良君は図面も描かず、アシスタントのエリカちゃんが描いていました。これでは、設計者は育ちません。

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