連載
» 2008年09月22日 00時00分 UPDATE

モノづくり最前線レポート(6):製品開発に隠されたムダとは“待ち時間”だった (1/2)

トヨタ生産方式に代表される製造工程の“ムダ取り”手法を製品開発に取り入れたユニークなリーン製品開発手法を紹介する

[上島康夫,@IT MONOist]

 製品開発の効率化を進める手法の中で、現在多くの注目を集めているのはリーン製品開発だろう。生まれたばかりの考え方であり、数々の手法がリーン製品開発として紹介されている。今回取り上げるのも、そういった手法の一つである。2008年9月5日に神戸で開催されたPTCジャパン主催の「PTCエグゼクティブセミナー」で基調講演を行ったドン・ライナーセン(Donald G. Reinertsen)氏による「リーン製品開発の実践」と題された講演とインタビューの内容をお届けする。

 現在、製品開発の工程管理を専門とするReinertsen & Associatesの社長であるライナーセン氏は、ハーバードビジネススクールでMBAを取得後、マッキンゼー(McKinsey & Company)でコンサルティング業務に従事した。そのときに発表した研究論文の一節「6カ月の遅延は製品ライフサイクル全体で生み出される利益の33%分に相当する」は有名である。

 ライナーセン氏の提唱するリーン製品開発をかなり乱暴に要約すると「トヨタ生産方式に代表される製造工程の“ムダ取り”手法を、設計・解析・試作といった製品開発に取り入れたもの」といえる。ライナーセン氏は日本生まれのリーン(ムダを省いた)な製造手法に触発されたことを認めつつ、トヨタ流の模倣ではなく独自の理論を構築していると主張した。その概要を紹介していこう。

製造工程は進化したが、製品開発の工程管理は旧態依然だ

 ライナーセン氏の提唱するリーン製品開発を理解する前提として、トヨタ生産方式によるリーンな製造工程の特徴を見ておこう。

Reinertsen & Associates 社長 ドン・ライナーセン氏 Reinertsen & Associates 社長 ドン・ライナーセン氏

 伝統的な製造工程では、在庫は資産として肯定され、工作機械の稼働率を限りなく100%に近づけることを理想とし、その実現のために非常に大きなバッチ(ロット)サイズで工程を組み立てていた。製造に必要な資材はMRPで管理され、スケジュールは厳密に管理されていた。その結果、工程のサイクル時間は非常に長くなるのが普通だった。

 このやり方にメスを入れたトヨタ生産方式では、かんばん方式を取り入れて可能な限り仕掛かり在庫を削減し、工作機械の稼働率よりも工程間のスムーズな流れを重視して生産リードタイムを短縮した。段取り換えに要する時間の短縮や仕掛かり在庫削減を目指した平準化生産により、バッチサイズは小さくなり短いサイクルタイムが実現した。その結果、高い品質とムダのない生産効率を獲得したのである。

 この両者の違いでライナーセン氏が注目したのは「待ち時間」である。つまり、ある工程の作業が終わるのを次の工程が待っている時間が製造工程でのムダであり、それを解消するためにバッチサイズを小さくし、短いサイクルタイムで工程が回転するように改善する。その結果、品質や効率が劇的に向上したと指摘する。

 ライナーセン氏の理論によれば、ある工程の稼働率を潜在能力の100%に近づけるに従って、後続工程に発生する待ち時間は二次曲線的に増大するという。そして工程中で発生する待ち時間は、

  • サイクルタイムの増加
  • 品質の低下
  • 効率の低下
  • 変動性の増加

といった悪影響を及ぼす。つまり待ち時間をどれだけ削減できるかが、製造工程のムダ取りで重要な鍵を握っているというのだ。

 一方、製品開発は、製造の世界で実証されたムダ取りの手法にどれだけ学んだのか。ライナーセン氏によれば、製品開発の世界では相変わらず大きなバッチサイズで設計を行っており、それに続く解析や生産設備設計は長い待ち時間を強要され、目に見えないムダを抱え込んでいるという。そもそも設計エンジニアには仕掛かり中の図面を在庫だと認識してはいないし、自分の次の工程がどれだけ待ち時間を払っているか気にも留めない。製品開発を管理する側にも、こうした目に見えないムダを定量的に測定し、それを財務的な指標(つまり損失金額)として評価する仕組みを持っていないと手厳しい。

 現在の製品開発では、大きなバッチサイズで作業を進めるのを当然視しているが、これを小さな単位に分割することで、工程間に発生する待ち状態を減少させ、最終的に品質と効率を向上させ、サイクルタイムの短縮を実現できるとする。

 ここまで、ライナーセン氏による基調講演の骨子を簡単にまとめてみた。次ページでは、ライナーセン氏へのインタビューを紹介しよう。

       1|2 次のページへ

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.