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» 2008年09月25日 00時00分 UPDATE

こうすればうまくいく生産計画(1):生産計画はなぜ必要か? ズバリお答えしよう (2/2)

[佐藤知一/日揮,@IT MONOist]
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「計画はずし」は可能か

 ところで、需要変動のある受注生産であるにもかかわらず、生産スケジューリング担当者のいない工場も実在する。長野にあるその企業を訪れた際、「ウチの会社には、スケジューリングをやって“自分は仕事しています”なんて錯覚している職長は1人もいない」と、胸を張っていわれた。生産スケジューリングは何の付加価値も生み出さない、不要な間接業務だ。だったらそんな仕事はなくしてしまえ。そういう信念で、その工場は運営されていた。どんなやり方か、あなたも想像してみていただきたい。

 この会社の主な製品は、自動車部品だ。トヨタの系列に属する、いわゆる二次下請けメーカーである。従って基本的な受注の仕組みは「かんばん」であり、顧客である一次下請けから毎日送られてくる。この工場では、受け取った職長がかんばんを現場入口近くのカードボックスに指示書として差して立てる。ボックスは1日の就業時間を小割りにした形になっているのだが、職長はかんばんを、わざと時刻をばらして差し立てる。例えば4枚受け取ったら、2時間置きに配分して「平準化」するのである。スケジューリングに頭を使う必要はない。加工組み立て工程はU字ラインによるセル生産やシングル段取り化が徹底しているので、品種を混流して平準化されてもOKである。この工場からさらに下請けの部品サプライヤーへの手配も、同じようにかんばんで行われる。実に見事で効率的だ。

 ところで、この会社がかくも見事にスケジューリングなしで運用できる真の理由は、何かお分かりだろうか。徹底した現場改善? 確かに、それは必要だ。だが、十分条件ではない。

 実は、ご承知かもしれないが、かんばんは分納の指示書であり、発注総量については先行内示に従って準備する。だから、この会社がかんばんで運用できるのは、前月・前々月に受け取る「発注内示」の量が安定していて、あまり予測が狂わないからなのである。これはトヨタ系列の特徴だ。そして、なぜ内示があまりずれないかというと、トヨタ本体の生産計画が、最終需要の予測にきちんと立脚しているからだ(図2)。

図2 自動車業界のサプライチェーンと生産計画の位置付け 図2 自動車業界のサプライチェーンと生産計画の位置付け

 いい換えるならば、トヨタ系列では、最終メーカー兼販売会社であるトヨタ自動車のみが生産計画を立案していて、後の全サプライヤーは、その計画どおりにきっちりと制御されている。そのコントロールの仕組みがかんばんなのである。下請けが独自の計画を立てる必要はないし、勝手な判断で独自に動けばかえって混乱が生じる。時々、生産計画有害論に立って「計画はずし」を指導するコンサルタントがおられるが、それはこうした条件が満たされたときのみ正しいというべきだろう。

受注生産のツールとしての生産スケジューラ

 では、顧客からの先行内示があてにならない(あるいはもらえない)業種ではどうすべきだろうか。そこで、ある総合容器メーカーの例をご紹介しよう。容器製造は典型的な繰り返し受注生産型の工場である。製品バリエーションは非常に多い。容器形状は多種多様だし、同じ形状でも印刷・表面加工や物流荷姿によって品種が変わる。

 この会社では、毎月営業部門が品種別需要予測をまとめる。計画部門は、需要と物流センターにある製品在庫を基に、工場別の生産計画と製造ライン別スケジュールをITツールを基に立案する。製造ラインごとに煩雑な制約条件があるので、コンピュータを援用しているが、あくまで立案するのは計画担当者の頭脳である。ところで、この段階ではまだ、印刷・加工や荷姿の詳細までは予測できていないことが多い。そして例にたがわず、顧客の納期要求は頻繁に変わるため、このスケジュールはほとんど毎日のように更新されていく。

 そこでこの会社では、生産スケジュールのガントチャートを、すべての営業所から見ることができるような仕組みを構築した。そして営業マンが、加工や荷姿などの条件まで確定したオーダーを受注したら、スケジュール上であらかじめ枠取りされた生産量の中の必要本数分に、その条件を入力し確定していく。つまり、ある種の「座席予約方式」である。

 この方式のおかげで、営業と製造のコミュニケーションは格段に見通しが良くなった。また、以前、スタンドアロン型の生産計画ツールを使っていたときに生じていた無駄な納期確認や調整も、不要になっている。

 「ウチは受注生産だから、生産計画やスケジューリングの手法は使えない」と信じている人は案外多い。それは間違いである。「ウチは営業がワガママだから、システム化は無理だ」と思い込んでいる人も多い。それは誤解である。生産計画・スケジューリングは需要(販売側)と供給(工場側)を擦り合わせるためのシステムなのである。

よりベターな生産計画を目指して

 現代の多くの製造業が抱えている根本問題とは何だろうか。それは、非常に圧縮した形で表現するならば、「大量・見込み生産の体制を残したまま、多品種少量の受注生産に移行しようとしている」ということにある。だから調達から販売までのサプライチェーンのあちこちで、プルとプッシュが混在しているのである。

 生産計画とは、最初に述べたように、このような状況下で、需要変動に追随して工場を効率良く運転するための仕組みである。むろん、生産スケジューラは工場を営業の意のままに動かすツールではない。毎日、顧客のいうまま気まぐれに生産計画を変えていたら、生産性向上も原価低減もあったものではない。同時に、生産計画は工場のご都合を通す場所でもない。何が可能で何が不可能か、お互いに共有するための仕組みなのである。

 生産スケジューラの導入を希望する計画担当者に対して、「おまえ1人を楽にさせるために、ITツール導入費の大金は使えない」などと答えた工場長がいた。それは近視眼的な考えだ。良い生産計画は、工場全体の生産性を向上させる可能性を持っている。生産・物流・販売の全体を、統合されたシステム=「生産システム」としてとらえてないから、問題が見えなくなるのだ。

 あなたの会社にも、確実に生産計画とスケジューリングは必要だ。それも、ITツールを活用した形で。だが、中核はIT技術ではない。「生産システム」の中の「計画業務」の確立だ。ITで最適計画の自動スケジューリングが実現するなどと夢見てはいけない。あなたの会社は、運転手抜きで走れるモノレールではない。あらかじめ敷かれた軌道の上を走っていればいいわけではないはずだ。

「カーナビ」は要る。だが、運転手は不要にはならない

 それでは、計画担当者が階段で立ち往生する会社と、生産計画・スケジューリングを生産システムの運転に活用している企業は、どこが違うのだろうか。より良い生産計画実現までに横たわるハードルを、どのように乗り越えていったらいいのか? それを、これから何回かに分けて検証してみよう(次回へ)。

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