目指せ総合優勝! 東大の4日間 2008第6回全日本 学生フォーミュラ大会 レポート(3)(1/3 ページ)

優勝校 上智大とデットヒートした東京大学チームから見た学生フォーミュラ大会を覗いてみよう。

» 2008年10月30日 00時00分 公開

 東京大学の秋元健太郎です。昨年の大会に引き続き、今年も東京大学のリーダーを務めました。

 前回までの記事で、僕らが参加している学生フォーミュラについてはだいたい分かっていただけたと思うので、今回のレポートでは、参加チームから見た大会についてレポートしていきます。

東京大学フォーミュラファクトリーって?

 東京大学フォーミュラファクトリー(略称「UTFF」the University of Tokyo Formula Factory)は、「フォーミュラレーシングカー」 を学生が自身の手で作っているプロジェクトチームで、 東京大学内のものづくりサークルとして活動をしています。

 チームの活動は、基本的には毎年開催される「全日本学生フォーミュラ大会」に出場するために車両を製作することです。ただ、製作だけをやっているわけではなく、マシンの「企画」「設計」から、「テスト走行」「解析」「ドライバー」「スポンサーとの渉外活動」まで幅広く、すべてを学生が自分達のみで行っています。

 チームはこのようにして年に一台マシンを作り上げ、「全日本学生フォーミュラ大会」に参戦し、優勝することを目標に活動をしています。

活動の様子

 現在、約40名ほどのメンバーが活動しています。フォーミュラカーを作っているということで、工学系の学生ばかりかと思われるかもしれませんが、少数ながら文系のメンバーも在籍しています。メンバーそれぞれが、各自の好みややりたいことにあわせ、「フレーム」「サスペンション」「駆動制動」「エンジン」「電装制御」「カウル」「ビジネス」の7パートに分かれ、活動しています。ものづくりというと、一見理系の独壇場のように思われがちですが、チームでは理系文系を問わずメンバーおのおのが自らの興味関心を生かして、それぞれの形でチームに貢献しています。

今年のマシン、UTFF09

 さて、まず簡単ではありますが、全日本学生フォーミュラ大会の車両について説明しておきましょう。

東大の車両 UTFF09

 僕らの競技で製作しているフォーミュラカーは、F1やフォーミュラニッポンで用いられるフォーミュラカーを大分小さくしたような形をしています。ホイールベース1600mm程度、トレッド1200mm程度といったサイズで、ホイールは13インチが主流です。フォーミュラカーなので、当然1人乗りで、エンジンはドライバーの後ろにあるミッドシップレイアウト、タイヤは溝がないスリックタイヤを用います。

 エンジンにはバイクやスクーターのエンジンを用います。610cc以内というレギュレーションのため、スポーツバイクの直列4気筒600ccエンジンを用いるのが主流ですが、450ccの単気筒エンジンなども用いられます。燃調、点火などのセッティングのほか、吸排気系のチューニング、一部の大学はターボチャージャーやスーパーチャージャーの搭載も行っています。

フレーム

 フレームは鋼管をフライス加工の後、溶接で組み上げます。今年からカーボンモノコックフレームを採用した大学もありました。サスペンションなどのパーツは、旋盤やフライス盤などの機械加工のほか、NC、ワイヤカッタ、レーザー加工なども用います。

 まずはフォーミュラの車両について分かっていただけたでしょうか。

 UTFFでも、このレギュレーションを基にマシンを製作していますが、他チームの車両とは違うさまざまな特徴を備えています。

 何といっても一番の特徴はエンジンです。エンジンには「Skywave650」というスクータに採用されているものを選択しています。このエンジンは、トランスミッションに電子制御CVTを採用しており、このエンジンを用いることで、フォーミュラカーとしては珍しい2ペダルAT(オートマ)を実現しています。電子制御はチームで開発した独自のコントローラで行い、レースに合わせた制御を実現しています。

 もちろんこのエンジンにもデメリットは多くあります。1つは重く、大きいことです。主流のスポーツバイクの直列4気筒エンジンに比べ、重量は30kg以上も重く、また前後方向に2倍以上長いエンジンです。

車両のレイアウト:車両の左側に座席が寄っている。右側にSkywave650が乗っている

 そのため、UTFFの車両は人が車両の左側にオフセットして座リ、人の右側にエンジンを搭載するというレイアウトを採用しています。一見してユニークなスタイルとなっているのはこの影響が大きいです。

 もう1つは、出力が出ないことです。スポーツバイクのエンジンでは純正で100馬力を超えているのも珍しくはないですが、僕らの採用するエンジンは純正で50馬力しかありません。普通に考えれば、重く、出力が出なければレースには勝つことはできません。そこで、ターボチャージャーを搭載し、出力の引き上げを図っています。この結果、最高出力は86馬力と他チームの車両にひけを取らないレベルになることができました。

今年の設計課題は?

 ここから少し、去年から今年に掛けての1年間でやってきたことについて書いていきます。

 今年の車両では「低速コーナーでの走行を速くする」というコンセプトを決め、車両開発を行ってきました。それを達成するためには2点の改良項目がありました。1つは、エンジンを横に搭載するレイアウトの関係で大きくなっていたヨー慣性モーメントを小さくするということがありました。ヨー慣性モーメントは大きくなると、旋回の際に、挙動がもっさりとしてしまい、タイムをロスしてしまうという弱点があります。これを小さくするために、重心付近に部品を配置し、また各部の軽量化を行いました。

 2つ目は、ヨー運動を積極的に制御するために、電子制御4WSを搭載しました。4WSとは、前輪だけでなく後輪も操舵できるようにする機構のことで、僕等はそれを電子制御するシステムを開発しました。これにより、旋回速度をより向上させることができました。

 このようなさまざまな取り組みを通して、東京大学とはユニークなプロセスを経ながらも、速くなるためのマシンの設計・製作をしているのです。

 僕たちの車両について、だいぶ分かっていただけたのではないかと思います。より詳しく知りたい方は、utff.comをご覧ください。

参加側から見た、学生フォーミュラ

 「第6回 全日本 学生フォーミュラ大会 レポート」の記事を読んできた方には、全日本学生フォーミュラ大会についてはある程度は知っているのかもしれませんが、一応要点だけおさらいしておきましょう。

 UTFFも参加した第6回 全日本学生フォーミュラ大会は今年9月10日から13日の4日間(前日も含めれば5日間)の日程で、静岡県の小笠山総合運動公園(エコパ)で行われました。大会にはエントリー77校(実際に当日参加したのは62校でした)もの大学が参加しました。

 大会は基本的には以下のようなスケジュールで実施されます。

  • 前日:技術車検(一部校のみ)
  • 初日:技術車検、チルト、騒音、ブレーキ試験、コスト、プレゼンテーション、デザイン
  • 2日目:アクセラレーション、スキッドパッド、オートクロス
  • 3日目:エンデュランス
  • 4日目:エンデュランス、デザインファイナル、表彰式

 *各競技の詳細は自動車技術会のページをご覧ください。

 参加チームは、4日間、朝6時から夜7時過ぎまで非常に長い時間、各競技に臨みます。全日程が終わるころには、気力も体力も使い果たしてしまうほどのキツい大会なのです。

 さて以降では、今大会をUTFF視点で振り返っていきましょう。

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