製造業×品質、転換期を迎えるモノづくりの在り方 特集

タグチメソッドで品質向上の最適条件を見つける品質改善の王道を行こう(5)(1/3 ページ)

モノづくり現場で発生している品質不良を改善し、不良率半減を目指そう。品質改善のツールはあくまでもツールであって、それに振り回されてはいけない。本連載は品質改善コンサルタントによる品質改善の王道を解説する。

» 2008年12月12日 00時00分 公開

 前回の「不良発生の瞬間をつかまえる測定技術を検討しよう」では、要因解析を6つに細分化したうちの後半3つの手法について説明しました。すなわち「不良の見える化」と「不良が発生する瞬間を目で見る」ことによって未知の要因をつかみ、「慢性不良の発生メカニズムを立証しよう」と説明しました。

 私はデータ分析だけでは劇的な改善が難しいと思っています。データ分析は未知の要因をつかんだうえで、その確かさを確認するために使います。ただし、慢性不良が発生している現場では、データ分析も含めて自社でやれるだけやったということを前提として書いているためです。一方、データという宝の山を放置している製造工程では、データ分析を行う価値は十分あります。

プログラム5 対策検討

 発見した未知の要因が慢性不良の主因らしいことが分かれば、対策検討に移ります。一般的に主因さえ分かれば、すぐに対策検討できるものです。検討した結果、決まった対策案は、生産工程にあまり影響を与えないとか、データ分析だけで確信が持てた場合、すぐに実行します。

 対策を即実行した結果、製品や中間製品の品質に影響が出た場合でも、現場のベテランが勘と経験で製造条件を調整して直してしまえる程度であれば、不良を出し続けるという機会損失は抑えられますし、確認実験といった手間と費用も掛かりませんから、一件落着です。

 しかし、いきなり対策を実行した結果、品質条件が微妙に変わり調整に手間取ることもあり得ますので、通常は対策実施の前に確認実験を行います。またもっと品質が良くなる条件はないかを探るうえでも実験は必要です。

 実験は実際の生産設備を使うか、テスト機を使うかになりますが、いずれにしても会社の設備を使うのですから、管理者の許可を得て行います。

 ところで、製造条件には多くの交互作用があります。交互作用とは、ある因子の優劣がほかの因子の水準によって変わることをいいます。

 例えば、ビールを1杯飲んだら1時間酔い、2杯飲んだら2時間酔うとしましょう。日本酒を飲んでも同様に1杯飲んだら1時間酔います。ではビール1杯と日本酒を1杯の合計2杯飲んだら、2時間酔うかというと、悪酔いして3時間酔ってしまいました。こういった場合も交互作用があるといいます。日本酒とビールがお互いに作用し合うからです。あまり厳密でなく仮定もありますが、そういったイメージととらえてください。

 ほとんどの製造工程は、交互作用が複雑に絡み合ってバランスしていますから、条件の1つを動かすとバランスが崩れがちです。製造条件のバランスという点から考えると、すべての組み合わせの実験を行い、最適な条件を見つける必要があります。

製造条件 水準
A 現行 改善案
B    
C    
   
表1 製造条件を2水準に振って実験してみる

 例えば10ある製造条件(A、B、C、…)を、それぞれ2水準(例えば、温度という製造条件Aを180℃、200℃の2水準に振るということ)で実験を行おうとすると、2(10)=1024回も実験しなければなりません。とても、実際の生産設備を使っては実験できませんし、テスト機があったとしても、どれだけの手間と費用が掛かるのだということになります。

 そこで、直交表の出番です。直交表を用いて統計的に計算すれば、1024回必要とされた実験が、わずか16回の実験でほぼ同じ結果が得られます。実験の数が64分の1ですから、とても効率的です。

参考リンク


実験計画法とタグチメソッド

 直交表を用いた実験を実験計画法といいます。まず、その概要について説明します。実験計画法は大きく分けて、フィッシャーの実験計画法とタグチメソッドに分かれます(図1)。広義にはタグチメソッドも実験計画法の1つですが、一般的に単に実験計画法というとフィッシャーの実験計画法を指しています。本記事でも、実験計画法はフィッシャーの実験計画法を指します。では、実験計画法とタグチメソッドの違いはなんでしょうか。

図1 実験計画法の位置付け 図1 実験計画法の位置付け
実験計画法もタグチメソッドも、さらに複数の手法がある

 実験計画法は、因果関係を把握するのが目的です。そのため、発見した未知の要因の効果がはっきりと表れるように、できるだけ細かく製造条件を管理して、バラツキをなるべく抑えて実験を行う必要があります。

 タグチメソッドは、バラツキを抑えるのが目的です。そのため、対象工程において誤差となる要因(誤差因子という)を意図的に入れたうえで、バラツキの小さい水準を把握します。実験計画法にはバラツキを抑えるという概念がありません。しかし、現実の生産工程ではバラツキだらけですから、できることならバラツキを抑えたいものです。

 対策検討の目的は、慢性不良発生のメカニズムで立てた仮説を検証するのですから、実験計画法でも十分です。しかし、慢性不良の対策案を含めた実験をタグチメソッドで行い、最もバラツキが抑えられ、さらに品質が良くなる最適条件を見いだします。

 タグチメソッドといっても、

  • パラメータ設計
  • 許容差設計
  • MTシステム(マハラノビス・タグチシステム)

といった手法があります。今回使用するのは、パラメータ設計です。パラメータ設計とはバラツキが抑えられる製造条件の組み合わせを見つけることにあります。ここでは導入編として、パラメータ設計の概略と使い方について説明します。

 導入編とあえて書いたのは、タグチメソッドを理解するには本1冊分くらいの知識が必要だからです。それを短く分かりやすく説明しようとするので、誤解を与えるかもしれません(できるだけ本質的に説明しようと試みましたが)。この記事で、興味を覚えたらタグチメソッドをさらに理解するために専門書を読んで勉強したうえで、実践してください。参考までに勉強のための教材を挙げておきます。

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