外国人にカモられない国際交渉力を身に付ける!モノづくり最前線レポート(7)(3/3 ページ)

» 2008年12月22日 00時00分 公開
[上島康夫,@IT MONOist]
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強い者に勝つには、多数派工作しかない

 「強い方が勝つ。勝てば官軍、負ければ賊軍。これにはたくさんの体験があるが、あるITUの会合でのこと。各国の代表者がスピーチを行い、それを要約して1パラグラフだけ報告書に記載しようと事前に決めていた。ところが会合の最終日に報告書を見たら、当時のアル・ゴア米副大統領だけ2パラグラフの要約が載っていた。皆がなぜゴア氏だけ2パラグラフなのかと不審に思っていると、中国代表者が『これはおかしいじゃないか、各国公平に1パラグラフだと決めてあったはずだ』と発言した。会場がしーんと静まりかえって、誰も何もいわない。議長はその発言をまったく無視して、次の議題に移ってしまった。そんなものなのだ」

 この一件をして、中国代表はまだ国際化していないと受け取る見方もあるだろう。しかし、ほかの国の代表も一緒になってこれはおかしいと発言していたら、おそらくゴア氏の発言も1パラグラフになったはずだと内海氏は振り返った。「要するに、仲間を増やして、仲間と一緒に数を頼んで発言すれば、正義も成立するのだが、1人だけではどうしようもない。日本人がやっているのは、すべてこれに類すること。国際会議で、いつも負ける。どうしてかというと、いつも黙っているのに、自国の利害にかかわるときだけ突然下手な英語で発言する。でも、誰からも相手にされない」。

 普段から仲間を増やすような活動を積み重ねていなければ、国際交渉で強者の横暴を食い止めることはできない。強い者が勝つというのは、自分が強くならなければいけないということ。それには、仲間を増やす以外に方法はないのだ。

 日本人は国際社会での立場は非常に弱いから、多数派工作をして仲間を増やさなければいけない。だから、海外に交渉に行ったならば、一番大事なのはパーティやレセプションに出席して仲間を増やすことだという。「日本人はどうかというと、パーティやレセプションは全部欠席して、出たとしても日本人同士で話している。会議にはまじめに出席して、メモばかり取っている。これが日本人の実態だ。イタリア人は会議には出てこないのに、レセプションだけは必ず出て仲間を増やしている。それぐらいにならなければ、国際交渉はできない。真の国際人にはなれない。そうしみじみと思い知った」。

要求しなければ得られない

 日本の会社に勤めていると、毎年やりたくもないのに健康診断の通知が来て必ず受診しろといってくるが、内海氏がITUに在職していた期間、何年たっても健康診断のお知らせが来なかったという。どうなっているんだと聞いたら、「健康診断は毎年受診することになっています」という返事が返ってきた。「何で請求してくれなかったんですか」と切り返されたという。すべてがこの調子で、さすがに給料だけは黙っていても振り込まれるが、出張手当にしても医療費補助にしても、自分から請求しない限り誰も動いてくれない。

 「私は郵政省時代に日米貿易摩擦で日米交渉をたくさん経験した。その内容を振り返ると、全部アメリカ側から要求されて、それに何とか応戦していたというもの。日本側からの要求はほとんどなかった。それこそ、ありとあらゆることを要求され、いっそ日本はアメリカの州になった方がましだと思えるほどだった。要求しなければ何も得られないばかりでなく、要求しないことによって、そういう国民だと見下されてしまう」。

欲張りで何が悪い! ふっかけるのは恥ではない

 そして、要求するときには欲張りになって、要求をふっかけるのが鉄則だ。「日本人は要求し過ぎると『出過ぎた杭』になるので、ほどほどにが基本。ほどほどに、がうまくできる人ほど出世する社会だ」。ところが「ほどほど」くらい国際社会で通用しない価値観はないという。

 「日本人だってアラブの青空マーケットに行けば値切るはず。国際交渉の場で、ちゃんとスーツを着た人間相手であっても、アラブの商人と値切り交渉するのと同じだと考えなければならない。交渉するときには、まずふっかけた要求を出した後、だんだんに要求を落としていって、お互いが歩み寄って落としどころが決まる。日本人の場合は、要求し過ぎると悪印象を与えるといらぬ気遣いをする。ほどほどに要求しておけば信頼されると思ってしまい、いつも失敗するのだ」。

 国際交渉の場での日本人は、内海氏の目から見ると、交渉をしに来たというのに、相手とは話さないで仲間同士で打ち合わせばかりしている。その打ち合わせで何をしているかというと、「どこがほどほどかなぁ」という思案のみ。「そうではなくて、相手に要求をぶつけて、その反応を見て、それで折り合うところを見つけていかなくてはいけない。これができていない」。

 「執拗に、ねばり強く。以心伝心とか沈黙は金なり、謙虚、礼節などは相手に通じない。外国人の日本人観を一言でいうと『分からない』だ。発言しない、要求しない。だから日本人は分からない、となる。日本人は国際交渉に出席したと偉そうにいっても、報告書を見ると“大本営発表”的なことしか書いていない。実際には、全然交渉していないのだ。外国に行ってメモだけ取って帰ってきた。それが現実だ」。

 舌切り雀の昔話のように、大きいつづらを要求した婆さんがひどい目に遭い、謙虚なじいさんが報われる、そんなことを信じてはダメ。要求しなければ何も得られない。これが国際社会なのだという。

うまい人ほど、努力する

 内海氏は自身の経験した国際交渉の現実を若い世代に伝えなければいけないと思い、早稲田大学で大学院生を対象とした「実践、国際人養成講座」という講義を2008年の秋から始めた。日本の若者に何とか国際人としての交渉力を持ってほしいとの願いからなのだが、60人ほど集まった受講生の半数は何と留学生だったという。「早稲田に来る留学生の大半は大学卒業後に一度社会に出て政府の役人になったり、実務経験をしている者がほとんど。そういう国際経験を積んでいる人が講義を受けに来る。もともと国際社会でもまれてきた人が、さらにその力を伸ばそうと講義を受けに来るのだ。それに比べて肝心の日本人は……」。

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 本稿では、国際交渉の場で外国人に負けないためのヒントをお届けした。内海氏の講話に興味を覚えた方は、下記の著作を読んでみてはいかがだろうか。

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