連載
» 2008年12月22日 11時00分 UPDATE

いまさら聞けない エンジン設計入門(11):ガソリンエンジンがなくなる日は、きっと来る (1/2)

原油は枯渇へ向かい、環境の法規制も厳しくなったいま、ガソリンエンジンの利用は限界か!? だが次世代技術にも課題がある。

[山本 照久,@IT MONOist]

 今回は連載の最終回ということで、ガソリンエンジンに代わる次世代エンジンについて解説します。

 現在の乗用車におけるエンジンの主流はいうまでもなく「ガソリンエンジン」ですが、年々厳しくなっていく排気ガス規制や、原油価格の変動に対応するために、各自動車メーカーは常に限界を感じながらも必死の努力で問題を克服してきました。

 新たな規制が発表されるたびに、従来の常識を超えた新技術が生み出されました。例えば「フューエルインジェクション(電子制御燃料噴射装置)」や前回解説した可変バルブタイミング機構など、挙げればキリがありません。

 不可能とも思える大きな壁にどれだけぶち当たっても、新技術で乗り越えてきたいままでの努力というのは本当に素晴らしい歴史であり、いまの自動車は人類の知恵の結晶ともいえるものだと筆者は考えています。

 しかし現在、人類に立ちはだかっている壁というのは、過去に遭遇したことがないほど大きいということは間違いないでしょう。内燃機関の命といえる原油は枯渇に向かっており、二酸化炭素排出量に関する法規制も厳しくなりました。ガソリンエンジンを使用している限りはガソリンを使用しますし、二酸化炭素も排出します。つまりこれらをなくそうと思えば「ガソリンエンジンを使用しない」という究極の選択肢しか残らないことになります。

 だからといって、いままで業界の主流として活躍してきたガソリンエンジンの採用をすぐに中止するなどということは不可能です。なので、まずは燃費を良くすることでガソリンの使用量を減らし、同時に二酸化炭素の排出量も削減するという手段が取り急ぎ必要となっています。将来はガソリンを使用せず二酸化炭素も出さない自動車が台頭する時代がやって来るのでしょうが、現在ではひとまず、その橋渡し的存在といえるさまざまな自動車が続々と登場しています。

クリーンディーゼル車

 1つ目は「クリーンディーゼル車」です。最近になって頻繁に耳にする機会が増えましたが、そもそもクリーンディーゼルというのは、「排気ガスがきれいなディーゼルエンジン」という意味とは少し違います。大きくとらえれば間違いありませんが、正式にクリーンディーゼルという名称を使用できるエンジンとは、「2009年規制(ポスト新長期)をクリアしたディーゼルエンジン」であると規定されています。クリーンディーゼル車には税金優遇や補助金などが用意されることが決定しています。つまりクリーンディーゼルは、環境に優しいと公認されていることになります。


 ディーゼルエンジンといえば(特に日本では)、「排気ガスが汚い」「うるさい」というイメージが定着しています。

 しかしクリーンディーゼルに関していえば、

  • ガソリンエンジンと同レベルの静粛性
  • 黒煙や有害物質(PMなど)を出さない
  • ガソリンエンジンと同レベルの臭気性

など、従来のディーゼルエンジンのイメージと比べると正反対なのです。

 どうしてここまで進化したのかというと、まずはクリーンディーゼルとなる一歩手前の段階で普及した「新型電磁燃料噴射装置(コモンレール式)」の役割が大きいです。

 コモンレール式によって黒煙の排出量が飛躍的に低減され、PM(Particulate Matter)*1なども低減されました。またディーゼルエンジン特有の高温高圧縮、空気過剰により発生する窒素酸化物(NOx)も大幅に低減されました。

*1 PM=浮遊粒子状物質

 コモンレール式やそのほかの技術によって“極限まで進歩した”と考えられていたディーゼルエンジンでした。しかしポスト新長期規制は、極限とまでいわれたその性能をさらに上回る要求をしてきたのです。技術者の中からは「不可能」という声さえ上がっていたレベルであり、すでに案は出し尽くしたような風潮がありました。しかしそんな懸念とは裏腹に、技術の進歩はとどまることはなく、壁を打ち破る新たな技術が生まれ、NOxを大幅に低減させることに成功したのでした。

 このようにクリーンディーゼルはすでにガソリンエンジンに勝るとも劣らない排ガスレベルにまで進化しています。「燃費が良い=二酸化炭素の排出量が少ない」というディーゼルエンジンは、これからの時代にとても有効であると考えられています。ガソリンエンジンと比べて圧倒的に不利であった排ガス問題をクリアできているということは、熱効率や燃費の面で有利なディーゼルエンジンに大きく期待が寄せられることになります。

 すでに日産がクリーンディーゼルを搭載したエクストレイルを発表していますし、ホンダもクリーンディーゼル車を発売すると発表しています。問題はコスト面でガソリンエンジンよりも不利なことで、車両価格が割高になってしまいます。軽油価格がガソリン価格よりも大幅に安かった時代であれば十分にメリットはあったと考えられますが、いま(2008年12月現在)はレギュラーガソリンとの値段の差がほとんどありません。さらにハイブリッド車の技術が飛躍的に進んでいるので、思った以上に普及が進まないのではという見解も出てきているようです。


ハイブリッド車

 2つ目は「ハイブリッド車(システム)」です。すでにトヨタのプリウスを代表格として普及してきていますので皆さんご存じでしょう。どうしてこれほどハイブリッド車が普及し、続々と各メーカーが開発に専念しているのかを少し見てみましょう。

 ハイブリッドシステムとは、「2種類の原動機(動力源)を組み合わせて使用することで、既存のエンジン比で低燃費かつ低排出ガスの実現を目標としたもの」です。

 現在のハイブリッドシステムは皆さんご存じのように「エンジン+モーター」ですね。そのうち、「エンジンを主役として使用するパターン」と「モーターを主役として使用するパターン」とに分かれることになりますが、基本的には同じと考えてもいいでしょう。

 プリウスを始めとするハイブリッドシステムの普及において、バッテリ(充電池)技術の進歩が一番大きなポイントだったと考えられます。自動車にかかわるさまざまな技術進歩がある中で、バッテリに関しては“ほとんど進化していない”とまでいわれていたほど、鉛電池の進化はほかの技術に比べて非常に少ないといえます。結果的には、鉛電池を用いていまのハイブリッドシステムが成り立ったわけではありませんでした。鉛電池の代替品として「ニッケル水素電池」や「リチウムイオン電池」が採用されました。

 現在のハイブリッドカーに使用されているバッテリの主流はニッケル水素電池ですが、ハイブリッドカーを進化させるために新たな電池の開発も活発に行われています。

 仮にバッテリがいまよりも飛躍的に「小型軽量化、低コスト化」できたとすると、

  • 室内のスペースをさらにに広く取れる
  • 車重が軽くなる事で燃費が向上する
  • 低価格での販売が可能

などなど、ハイブリッドカーの普及が一気に加速することになります。

 ハイブリッド車への使用を重点においたリチウムイオン電池の研究開発を加速するため、ホンダとユアサが合併会社を設立するという基本合意を締結したという広報発表があったのは記憶に新しいですね。

 ハイブリッドカーだけでなく、その先にある電気自動車などへの採用なども視野に入れれば、新しいバッテリの開発は大きな期待が寄せられています。


 ハイブリッドシステムがユーザーに普及している理由として挙げられるのは「乗りやすさ」があるといえます。エンジンの出力特性は「低回転に弱く高回転に強い」、モーターの出力特性は「低回転に強く高回転に弱い」という反対の性格を持っており、これらを組み合わせることで出力的に非常に有利になると同時に燃費も良くなる理想的な動力発生装置となるのです。

 いいことずくめのようなハイブリッドシステムですが、実は、現在市販されているハイブリッド車では従来のガソリンエンジンと比べて2〜3割程度しか二酸化炭素を削減できません。数値だけを見ればかなりの削減率だといえます。しかし、2007年のG8サミットで掲げられた「2050年には二酸化炭素排出量(現状比で)半減する」という目標を達成させる勢いには到底及ばないといわれます。

 つまりハイブリッドシステムとは、あくまで、その次世代を担う自動車が普及するまでの橋渡し的な存在でしかないといえるのです。


       1|2 次のページへ

Copyright© 2014 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

エンジニア電子ブックレット