不況脱出のカギは“ユニーク&オリジナル企業”提言:TOCの発想で世界同時不況を乗り超える(1/3 ページ)

ほぼ1年にわたってTOC記事を執筆してきた村上悟氏が、2008年秋から始まった米国発世界同時不況の原因を分析し、日本製造業はどうやってこの苦境を乗り越えたらよいか提言する。

» 2009年03月23日 00時00分 公開
[村上 悟/ゴール・システム・コンサルティング,@IT MONOist]

この不況の正体は何なのか

 今回の不況は昨年(2008年)3月、ニューヨーク株式市場でサブプライムローンの焦げ付きを懸念し、大幅な下げを記録したところから始まりました。市場を震撼(しんかん)させるニュースが世界を駆けめぐったのは、それから6カ月後の9月15日。アメリカで証券大手リーマン・ブラザーズの米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)申請に端を発した株価の暴落は日本にも波及し、日経平均株価も605円という下げ幅を記録したのでした。

 北米に大きな市場を持つトヨタ自動車が大幅な損失を発表したのは12月22日。その後もホンダ、ソニーといった日本を代表する企業が軒並み大幅な赤字の見通しを発表し、「売り上げが蒸発する」と形容された猛烈な津波によって、今日に至るも回復の兆しは一向に見えてきません。

 少し状況を分析してみましょう。金融ショックで冷え込んだ消費マインドによる売り上げ低下が赤字転落の直接的な原因であるというのが今回の通説です。しかし、2009年2月17日付のasahi.comによると、東京証券取引所第1部上場企業1228社(金融除く)の2009年3月期決算見通しは、

  • 売上高:前年同期比6.5%減
  • 経常利益:60.8%減
  • 純利益:86.2%減

と報じられています。この数字をどう見ればよいのでしょうか。売上高は6.5%減ですから、経常利益の60%減少は理解できます。しかし、それ以上に純利益の落ち込みが激しいのはなぜでしょうか。

 ここにもう1つのデータがあります(表1)。電機各社の損益見込みです。軒並み最終損益は巨額の赤字となっていますが、パナソニック、日立製作所、富士通は本業の業績を示す営業損益は通期で黒字を予想しています。

企業名 営業損益 当期純損益
パナソニック 600(5195) ▼3800程度(2819)
日立製作所 400(3455) ▼7000(▼581)
ソニー ▼2600(4753) ▼1500(3694)
東芝 ▼2800(2380) ▼2800(1274)
富士通 500(2049) ▼500(481)
NEC ▼300(1568) ▼2900(227)
表1 電機大手の2009年3月期連結決算の業績予想*

* 単位は億円。▼は赤字。かっこ内は前期実績。2009年3月16日現在。


 その一方で営業外損益では有価証券評価損や、事業の撤退・リストラなど多額の損失を計上しています。本来なら事業に使用した期間に応じて償却するべきこれらの資産を、工場閉鎖などのリストラにより一括処理した費用を計上したことによるものです。営業黒字にもかかわらず最終損益が巨額赤字になる背景にはこんな理由があるのです。

 パイオニアはプラズマテレビ事業を売却し完全に撤退しますし、ソニーは多くの製造拠点を閉鎖します。勝ち組といわれたパナソニックですら、製造拠点の統廃合と来期以降の投資計画の大幅な縮小に追い込まれています。まさに多過ぎるプレーヤーが過当競争を繰り広げた結果、利益を生み出せなくなった事業をリストラせざるを得なくなったのです。

 しかし2002年のITバブルが崩壊したときにも、これらの企業の多くは巨額の特別損失を出し、リストラを行っています。問題の本質は今回の不況ではなく、遊休資産や不良在庫を内部にため込み、慢性的に事業のスクラップ・アンド・ビルドを繰り返す体質に陥ってしまっていることなのです。これでは事業からもたらされる利益(ROI)は、長期にわたって低水準から抜け出せません。それ故に利益を求め競争市場へ進出し、さらなる競争の激化を自ら招き、低収益と不採算事業の撤退を繰り返すというマイナススパイラルに陥っているのです。これに加えて四半期決算の開示義務付けなど、市場主義経済がさらに短期利益追求のプレッシャーを強めているのです。

企業が生き延びても人が持たない

 この状況は、企業で働く人にどのような影響をもたらすでしょうか。すでに派遣社員切りが大きな社会問題となっています。さらに不況が長期化すれば、派遣社員のみならず正社員の大リストラに波及するのは必至です。たとえリストラを免れたとしても、成果主義型の評価制度と相まって企業は社員にますます短期的な成果を求め、現場がさらに疲弊することが危惧(きぐ)されます。

 一方で日本は100万人以上の患者を抱えるともいわれる「うつ病」大国でもあります(2005年の厚生労働省調べで92万4000人)。うつ病は本人の資質のみならず、患者を取り巻く環境が大きく作用する病気です。ですからうつ病を減らすためにはうつ病を作り出している環境を変えなければならないのですが、現状の動きは、ますますうつ病を作り出す方向にシフトしています。こうなると、企業は景気回復まで体力を温存しようとしても、そこで働く「人」が耐え切れず内部から崩壊するということになりかねないのです。

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