RFIDはアパレル業界の救いの手となるか?RFID実証実験レポート(1/2 ページ)

経済産業省委託事業「IT投資効率性向上のための共通基盤開発プロジェクト」の繊維分野における電子タグ実証実験の概要とデモの模様を紹介する。

» 2009年03月30日 00時00分 公開
[八木沢篤,@IT MONOist]

 2009年3月18日、アイエニウェア・ソリューションズ(以下、アイエニウェア)は、住金物産と共同で、平成20年度の経済産業省委託事業「IT投資効率性向上のための共通基盤開発プロジェクト」の繊維分野における電子タグ(RFID:Radio Frequency IDentification)実証実験に伴う、物流センターにおけるRFIDシステムの説明会および物流センターでのデモンストレーションを行った。

 同プロジェクトは、電子タグに関するコード体系や導入への標準化を促すことで、アパレル業界における標準電子タグ(UHF帯タグ)の普及とRFIDシステム導入の加速化を目的としており、住金物産が経済産業省から受託したもの。事務局に日本アパレル産業協会 RFID推進小委員会を設け、システムパートナーとしてアイエニウェアと東芝テック、アパレルパートナーとしてフランドルが参画している。

アパレル業界を取り巻く環境 ―RFID実証実験の概要―

 説明会の冒頭、住金物産 繊維カンパニー SCM・事業開発部 部長 山内 秀樹氏は、現在のアパレル業界を取り巻く環境について、「輸入製品の増大」「新流通ショップの増大」「消費者嗜好(しこう)の多様化と購買意欲の低迷」の3つを挙げ、次のように説明した。

山内 秀樹氏 画像1 住金物産 繊維カンパニー SCM・事業開発部 部長 山内 秀樹氏

 「現在、日本国内の繊維製品の輸入浸透率(最終消費に占める輸入製品の比率)が2007年で94%を超え、タンスの中の繊維製品のほとんどが日本以外のメイド・イン・○○になっている。そのため、これまで国内の流通だけで簡略化されていたサプライチェーンが複雑化し、生産や物流過程のステータスの可視化が困難になっている。また、最近増加傾向にある大規模モール型の店舗(1店舗当たりの坪数が大きい店舗)などでは、毎日大量の商品が入荷するため、本来販売に注力すべきスタッフの労力が仕入れ枚数の確認(検品)などのバックヤード業務に多く費やされており、機会損失につながっている。さらに近年、消費者嗜好が多様化し、需要予測が困難になっている。また、景気低迷による購買意欲の低下の影響でプロパー(正規価格)ではなかなか商品が売れず、値引きの商品しか売れなくなってきている」(山内氏)。

日本のアパレル市場と輸入品概況 2008年 画像2 日本のアパレル市場と輸入品概況 2008年(日本繊維輸入組合)
※出典:山内氏プレゼンテーション資料(の抜粋)

 こうした状況を受け、今回(2008年11月から2009年2月にかけて)、「配送計画の高度化」「店舗運営の高度化」「企画MD(マーチャンダイジング)の精度向上」の3点に重点を置き、実証実験を行ってきた。山内氏は今回の実証実験について「アパレル業界での実用性やRFIDの導入メリット、ROI(Return On Investment)を検証し、新たな管理モデルの確立を目指した」と説明。実際にフランドルのブランド「CLEAR IMPRESSION」の店舗から、ターミナル型店舗のモデルとしてルミネエスト新宿店、郊外型店舗のモデルとして東京ベイららぽーと店の2店舗で検証が行われた。

2008年度 実証実験全体イメージ図 画像3 2008年度 実証実験全体イメージ図
※出典:山内氏プレゼンテーション資料

 今回の実証実験のシステム構成イメージは画像4のとおりだ。稼働中のアパレル本社基幹サーバ、物流センター倉庫管理システム、店舗側システム、値札発行システム、および各種RFIDデバイスとのデータ連携部分に、システムパートナーであるアイエニウェアのミドルウェア「RFID Anywhere」が用いられている。

システム構成イメージ図−既存システムとの連携 画像4 システム構成イメージ図−既存システムとの連携
※出典:山内氏プレゼンテーション資料

なぜミドルウェアが必要なのか? ―RFID Anywhere―

 続いて、今回の実証実験にミドルウェアを用いた経緯について、アイエニウェア エンジニアリング統括部 境 直人氏の説明を交えながら紹介する。

 従来のRFIDアプリケーションでは、アプリケーション側と使用するデバイス側との情報のやりとりを行う場合、そのデバイスが要求する方法(デバイスドライバやデバイスメーカーが提供する制御コマンドなど)を利用する必要があり、アプリケーションはそのデバイスの仕様に合わせて開発を行わなければならなかった。「例えば、A社とB社の2つのデバイスを使用している場合、デバイスごとに命令仕様を分けて開発する必要がある。新たにC社のデバイスを試験運用するといった場合、C社デバイスの命令仕様を新たにアプリケーションに追加しなければならない」と境氏は語る。

境 直人氏 画像5 アイエニウェア エンジニアリング統括部 境 直人氏

 また、システム間の統合を考えた場合も同様で、システム間でやりとりできるデータ形式や授受方法に互換性がない場合は、システム自身を拡張して対応しなければならない。「これが基幹システムだった場合、改修に掛かるコスト・時間は非常に大きなものとなる」(境氏)。

 一方、ミドルウェアを使用したRFIDシステムの開発の場合、アプリケーションならびに各デバイスはすべてミドルウェアを介してやりとりが行われる。当然、アプリケーションはミドルウェアに合わせて開発する必要があるが、あくまでミドルウェアの命令仕様に沿った開発だけを行えばよく、従来のようにデバイスごとの開発は必要なくなる。つまり、使用するデバイスが増えたとしてもアプリケーション側の改修は不要となり、ミドルウェア側ですべて吸収可能となる。また、システム間の結合でもミドルウェアを間にかませることで、データ形式や授受方法をミドルウェアが変換し、仲を取り持ってくれる。「ミドルウェアがそれぞれのシステムの翻訳者的な役割を果たす」と境氏はいう。

 RFID Anywhereは、ここで説明したような仲立ち的な基本形態での利用だけでなく、ミドルウェア内でユーザーが作成したロジック「ビジネスモジュール」を動作させることが可能だという。例えば、RFIDリーダで読み取ったデータをそのままアプリケーションに渡すだけではなく、そのデータを変換したり、データベースを操作したりするようなユーザー独自のロジックを動作させることができるとのこと。

 また、RFID Anywhereと接続している機器やビジネスモジュールの稼働状況、接続/切断、ロジックの稼働/停止はWebブラウザ上の管理コンソールで遠隔管理ができるという。そのほか、新規に作成したビジネスモジュールの導入やバージョンアップの遠隔対応が可能。また、SNMP対応の管理ソフトウェアへの接続もできるとのこと。

 境氏は、今回の実証実験のシステムコンセプトについて「フランドルの全68店舗中の2店舗のみでの実証実験であったため、通常運用している既存システムへの影響を与えずに、並行運用を実現する必要があった。さらに、倉庫管理システムや店舗側システム、値札発行システムとのデータ連携が必須条件であった」と語った。

今回の実証実験のシステムコンセプト 画像6 今回の実証実験のシステムコンセプト
※出典:境氏プレゼンテーション資料

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