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» 2009年06月23日 00時00分 UPDATE

トヨタのカーデザインとデジタル生産(前編):トヨタの意匠 少し昔の事情といまの課題 (1/3)

従来の自動車開発は、デザイナ偏重。人の感覚のアナログ値基準では「ムダ、ムリ、ムラ」がどうしても発生する。

[武藤一夫/静岡理工科大学 理工学部 機械工学科,@IT MONOist]

デザインプロセスの大変革のとき

 現在、米国リーマンブラザーズの破たんによって起こった100年に一度といわれる金融ショックで、2008年には2.2兆円もの営業利益を誇ったトヨタ自動車は、2009年には4610億円の赤字になった。赤字は71年ぶりのことで、トヨタグループ全体としての分業を徹底し、国際競争に対応すべく、デザイン部におけるコスト低減、開発期間の短縮はより一層厳しい状況になっている。

 このように、世界の経済や環境の大きな変化によって、デザインプロセスの大変革が余儀なくされている。そのため、世界戦略として組織改革や原価削減の断行をするうえでもデジタル情報技術のフル活用が必須となるのである。

 開発期間を縮めるためにだけではなく、世界市場をにらんだQCDはもちろんのことで、さらにグローバル化、高付加価値化、スピード化の要求はデザイン部門にも波及し、ますます厳しくなってきている。

 つまりトヨタグループでは、従来のモックアップなどの人手を要する労働集約型作業である“人間のアナログ情報主体の環境”から、全世界のチームによる分散パラレル型作業が可能な“デジタル情報環境”にシフトすることが不可欠かつ急務となっている。人手・モノによるアナログ情報に頼っていては、カスタマーの心を捕らえる世界席巻はのぞめないのである。

 自動車メーカー各社は、新規企画の車のデザインコンテンツを決めるのに、デザイン部門内での数多いスタッフ同士の意志疎通が取りにくい、開発期間が長い、デザイナ偏重など、深刻で大きな問題を抱えてきた。

 現在、トヨタ自動車では鋭意情報化を推進することでデザイン業務の一層の効率化を図るべく、試行錯誤の最中である。デジタル情報を使えば、いつでもどこへでも瞬時に送れるようになり、その情報確認や検証は出張せずとも的確に行えるようになる。

コンカレントエンジニアリングとは

 図1は新車開発の全工程を短縮するための「コンカレントエンジニアリング(Concurrent Engineering:CE)」(または「サイマルティニュアス(Simultaneous Engineering:SE)」)の概要である。

yk_toyo01a_1.gif 図1 新車開発の全工程を短縮するためのコンカレントエンジニアリング

 コンカレントエンジニアリングとは、 製品の開発工程に際して、その企画、設計、製造、販売、サービスなどの各工程を同時に、しかも並列に進行する形態をいう。特に、異業部門における同一時刻でのパラレル(並列)作業が推進でき、作業の統合化および効率化を図ることが可能となる。このコンカレントエンジニアリングは「コラボレーション(Collaboration)」と同義で扱われる。

 図1の横軸はデザイン、試作、製品設計、金型設計、生産加工といったモノづくりのプロセスを示す。縦軸の上部は各プロセスにおける自動車の外観関係(ボディ、ボデー)、下部は自動車の内部関係(エンジンやシャシー、足回りなど)を示す。「3次元ソリッドCAD/CAE/CAM/CAT/Networkシステム」をプラットフォームとした「PLM(Product Lifecycle Management)」データベースによる基幹システムである。

 また以下のように構成され、かつそれらが連携している。

  1. DMU(Digital Mock Up、デジタルモックアップ)
  2. CAS(Computer Aided car Styling)
  3. V-comm(Visual&Virtual communicationの略、図1赤線) :コンピュータ設計・製造支援システム
  4. CASE(Computer Aided Simultaneous Engineering、図1青線) : 部品設計と金型設計の同時並行進行

 このように、デザインのスタートからフィニッシュまで一貫したデジタル情報を駆使し、CAE(Computer Aided Engineering)化を実践する。

 またデザイン部門内だけでの話し合いではなく、PLMデータベースを経由して後工程の設計部門や海外のデザイン部門とのグローバルで密接なコミュニケーションも行う。

 現在すでに、クレイモデル製作による“現実モデル時代”から、クレイモデルレスのバーチャル(仮想現実)の“デジタル情報時代”に移行している。

 今日の自動車開発では、企画後18カ月の開発期間が必要だとされる。これを12カ月、6カ月と短縮するために、上述のような施策がトヨタ自動車では積極的に行われている。

本稿における解説の流れ

 「CAD(キャド)」とは、「Computer Aided Design」の略で、コンピュータ支援による設計技術のことだ。元来、CADという言葉はマサチューセッツ工科大学(MIT)のS.コーンズ(S.Coons)が1963年に著した論文で使ったのが最初とされる。CADと一口にいっても、デザイン(意匠)関連、製品設計、金型設計、設計解析関係と意味が広い。

 本稿で述べる3次元ソリッドCAD/CAE/CAM/CAT/Networkシステムは、従来の「CAD/CAM」ではなく、自動車の製作時のプロセスとその特徴を新たに合理的にしたものである。

 また以下のような工程の流れになる。

1.デザイン(意匠)工程のCAD(前編・後編)

 この工程は現在、グローバル戦略の観点から大幅な見直しが図られている。

  1. スタイリング工程(CAS):アイデア、イメージスケッチ工程のことで、アイデア、イメージを手書き及びCADでスケッチにする(前編)
  2. CAD工程:スタイルCADに入力し、ワイヤフレームモデル、フェアリングを作成する。また、カラーCADで、色彩を決めていく (後編)
  3. CAM工程:モックアップ工程のことで、モックアップにてクレイモデルを造形する(後編)

2.設計工程のCAD

 大別すると、製品設計と金型設計。自動車製作の場合は、ボディ設計とプレス設計 (後編)

3.解析工程のCAE

 パネルのそりやひずみなどをあらかじめシミュレーションする(後編)

4.製作工程のCAM

 金型を加工/組み付けをする(後編)

5.自動計測工程のCAT(Computer Aided Testing)

 3次元測定機などによる測定で、金型の精度チェックと試作したパネルの評価や検査を行う(後編)

 後編では、上記2〜5のそれぞれ工程についての説明ではなく、主に、デザインデータと設計・生産との連携・運用にまつわる説明となる。

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