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» 2009年07月24日 11時00分 公開

いまさら聞けない シャシー設計入門(3):運転を楽にするAT変速ってどうなってるの? (1/2)

「面倒なことを楽にしたい!」という人間らしい欲求をかなえる機構がAT。だけどその機構はとても複雑だ。

[山本 照久,カーライフプロデューサー]

 今回は、マニュアルトランスミッション(以下MT)に代わって主流になったと思いきや、CVTなどの新技術の登場によって日本に限っては徐々にその地位が奪われつつある「オートマチックトランスミッション(以下AT)」について解説します。

  「ATって何?」

という基本的な質問をされる方はほとんどいらっしゃらないとは思いますが、取りあえずATの考え方について少し触れておきましょう。

 ATを考えるにはその基礎となるMTを無視することはできません。MTに関してはいまさら聞けない シャシー設計入門(1)「トランスミッションのシフトってどうなっているの?」にて詳しく説明しています。まだご覧になっていない方は参考にしてください。

ALT 図1 ATのカットモデル

人間誰しも、楽な方がいい?

 MTはエンジン回転数や速度、またエンジン負荷の大小によって運転手自らが最適な変速比を選択し、車を運転する必要があります。

 こういった臨機応変な操作などは運転手の腕次第ともいえる領域であり、運転が下手な人がMTを運転すると挙動の乱れが顕著に現れてしまいます。いまでこそMTには「シンクロメッシュ機構」が搭載されていますので、クラッチを踏み込んでシフトを動かせば誰でも簡単に変速ができますが、昔はそれがなく、変速自体が非常に難しい操作だったのです。逆にいえば、運転が好きな人にとっては腕の見せ所ともいえる部分でもありますので、いまでも好んでMTに乗っている方が多数いらっしゃいます。

 MTの欠点はいうまでもなく、その操作の難しさにあります。運転操作には両手両足が必要となり、さらにエンジン負荷を自ら感じ取って最適な変速を繰り返し行う必要があります。世の中、車好きな人ばかりであれば問題ないと思いますが、実際は大半の人がMTの操作を面倒に感じていることは周知の事実です。それもそのはず、自動車を“道具”として利用する人がほとんどですから、運転操作が楽であるに越したことはないのです。

 そういった「面倒なことを楽にしたい!」という人間が持つ基本的な欲求を発端として開発が進んでいった機構が、今回解説するATというわけです。

 少し話がそれますが、世の中で生まれ続けるほとんどの新技術は、

  「楽・早い・便利・快適……」

などに代表される、人間の「楽をしたい」という欲求を満たす物だと考えられます。

  「当たり前じゃないか!!」

とお叱りを受けるかもしれませんが、いろいろと新技術などを思案しているとついつい忘れがちです。

 中には「楽しい・きれい・気持ち良い……」などのような付加価値に値する新技術などもありますが、基本的に「楽をしたい」という欲求に勝る物はないでしょう。

 さらに昨今では「エコ」(エコロジー、環境)という大きなキーワードを条件に含まなければ、製品が世の中で認められない時代になり、各ジャンルの開発者達は日々、頭を悩ませていることでしょう。

MTの課題を解決するために

 さて話を戻しますが、ATもこれらの大前提に基づいた技術です。MTしか存在していなかった時代の困りごととして、以下のようなことがありました。

  1. クラッチ操作が難しく、車を運転するという技術習得のハードルが高い
  2. 両手両足が必要であり、怪我をしたり何らかの障害を持っていると運転ができない

 これらを解決するためにATは開発され、結果としては、

  1. 難しいクラッチ操作が不要なので運転操作が簡単
  2. 必要最低限として右手右足だけで運転が可能(両手操作が基本です)
  3. 運転技術に左右されず、変速ショックが少ないので乗り心地が快適

などなど、まさに人間が求める欲望を見事に反映させた技術となりました。

 それでは普段なに気なく運転しているATについて、少し掘り下げて考えていきましょう。まずは「オートマチック」という部分に注目してみます。

 ATは道路状況の変化(平坦路〜登板路)や速度の変化が発生しても最適なギアに自動的に切り替えてくれます。だからこそ「オートマチック」なのですが、一体どのようにして、状況変化に応じて「ギアを切り替えよう!」と判断しているのでしょうか?

 これには「アクセルペダルの踏み込み量」が大きく関係してきます。

 まずATの変速制御を行うにあたり重要となるのは「刻々と変化する道路状況に対して運転手がどのようなアクセル操作を行っているのか」という実態の分析です。

 車を運転している場面を思い出していただきたいのですが、平坦路を60km/hで走行していると仮定しましょう。そのまま巡航しているときはアクセルペダルに足を軽く置いている状態だと思います。そこで上り坂に差し掛かり、同じアクセル開度ではどんどん速度が落ちていきました。

 もちろんこうなってしまうと、無意識のうちに、いままでの速度を維持しようと思いますのでアクセル開度を増やす操作、すなわち「アクセルを深く踏み込む」操作を行いますね。つまりここから分かるように、アクセル開度というのは「負荷の大きさ」に比例しているのです。

 当たり前ではありますが、このような観点で、実際の道路状況に対する運転操作を分析し、自動車が置かれている状況との関係をデータ化することがATには必要不可欠となります。

 さらに踏み込んだ分析をしてみますと、急激にアクセルペダルを踏み込む操作があります。これはどのような状況なのか考えてみますと、「急加速したいとき」と考えられますね。急加速したい状況であれば、MT車の場合に置き換えればシフトダウンを行うことで得られるトルクアップが最適な操作といえます。

 アクセルペダルを急激に踏み込んだ場合、ATはアクセルペダルを一定以上急激に踏み込む操作を行った運転手の「急加速したい」というイメージと合致させるため、強制的にシフトダウンを行って急加速を行います。これが皆さんご存じの「キックダウン」ですね。

 逆にアクセルペダルをほとんど踏み込んでいない状況を考えてみましょう。この場合は現在の速度を維持したい巡航状態と考えられますので、できるだけエンジン回転が低く滑らかに巡航できる高いギアへどんどんシフトアップを行います。シフトアップを行うことで同じ速度でも変速比が下がり、エンジン回転数が低くなります。

 4速AT車であれば4速までシフトアップを行えますが、30km/hで4速という不自然なことにならないように「速度とアクセル開度によるシフトの関係」がデータ化されています。

ALT 図2 速度とアクセル開度によるシフトの関係

 図2では60km/hでアクセル開度が2/8の時(黄色印)は4速ですね。この状態でアクセル開度を6/8(ピンク印)まで踏み込むと、2速へシフトダウンして加速状態になります。7/8以上踏み込むと、強制的にキックダウン域として用意されているレンジへとシフトダウンするということですね。

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