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» 2009年08月12日 11時01分 UPDATE

ガンプラ こだわりのモノづくり(3):ガンプラは2次元図面がない (2/3)

[小林 由美,@IT MONOist]

 形状デザインを重視するガンプラ設計では、3次元CADでモデル作成は製品を進化させる上で絶対に必要なことだった。

 しかし、設計プロセス全体を3次元化することによって、より形状は複雑になり、データ量・情報量が膨大なものとなり、2次元図面では表現しきれなくなってしまった。また、寸法も表示しきれなくなってしまった。アウトプットとしての2次元データや図面に意味が無くなり、設計プロセスから2次元作業の一切を排除してしまった。

 通常の設計図面では、組み立て図があり、その部品番号に対応した部品図や部品表が常にセットだが、いまの同事業部ではこのスタイルではない。

 ガンプラにはそもそも工場での組み立て工程がないのだから、工場用の組み立て指示書類も当然必要ない。部品構成については、先ほど説明した手描きの案図を参照すればいい。修正についても、そこに描き込まれることになっている。ナレッジを共有する製作現場では、必要最小限のアウトプットで明確に意図を伝えることが重要だ。

 ましてや案図段階で2次元CADを使う利点はない。案図は設計以外の部門でも確認する必要があるものだが、ポンチ絵や3次元モデルで立体的に形状を見渡した方が分かりやすい。現在の3次元CADの操作は、だいぶ簡単になったものの、スケッチをする感覚とまではいかない。そうなると、やはり設計初期段階での案図作成についてはポンチ絵の方が、作成がだんぜん楽だ。最小限の材料で設計意図を共有化し、3次元モデルで詳細を練りこんで作りこむほうが作業ストレスも少ないという。

ガンプラの寸法評価

 2次元図面が不要な大きな理由には、そもそもガンプラの寸法評価基準が、一般的な製造業から見たら特殊だということもある。

 一般的な製造業の設計では、外形寸法をなるべく整数にし、小数点以下の端数の使用は必要最低限に留める。曲線もR寸法で管理する。その理由は単純で、その方が測定基準を定めやすいし、寸法測定も、その結果の管理もしやすいからだ。

 ただし同社のガンプラの場合、そうではない。形状デザインを重視することによって、曲線はほとんどスプラインになり、結果、外形寸法値もほとんど端数となる。通常の製図法で製図したのでは、特に現在のような凝った意匠のガンプラでは、非常に複雑な図面になり、表現し切れなくなってしまう。

 しかしそれでは、いったいどうやって寸法評価をしたらいいのだろうか?

 そもそもガンプラは、数値で寸法評価を行わない。基準は数値ではなく、「格好良さ」と「組み立てや動作の感触」だ。しかし、これは誰もが客観的に判断できる要素ではない。

 シェーディングを掛けた画像や3次元モデルなどバーチャルな要素や数値のみだと、視覚的な情報しかつかめず、スナップフィットや関節の動く感触など、人の繊細な触覚に訴える部分の評価は困難だ。やはり現実に物を作り、実際に触りながらの評価がベストということになる。

 以前も試作を製作していた。そこではワックス造形や切削加工などで試作品を作っていた。しかしこれでは時間もコストもたくさんかかってしまう。

 いまの同事業部では、光硬化樹脂を使用する3次元プリンタを2台所有している。そちらで設計物を“プリントアウト”する。必要に応じて、着色は後から行う。

3次元プリンタとは:造型機の一種。樹脂や石膏を少しずつ噴射していき、縦方向に積層させていくことで造形していく。同事業部が使っているのは、光硬化樹脂を使用するタイプ。光硬化樹脂は、文字通り、光を照射することで固まる樹脂。

 「紙図面をプリントアウトする感覚で、毎日のように、ひっきりなしで出力しています。材料費は決して安くはないのですが、設計者が、たくさん試作して心ゆくまで検証できるメリットの方が大きいですね」(大榎氏)。

alt 写真3 3次元プリンタと試作品 (C)創通・サンライズ・毎日放送

 設計の段階で実際に近い物による検証ができるため、金型製造工程での修正も圧倒的に減ったという。金型製作の期間を大幅に縮めることができたとのことだ。

 また、このように実際の物が手元にあると、これまでと比べ改善要望がたくさん出てくるようになったと大榎氏はいう。

 構造自体の動きなどの評価では、評価要素によって試作を作り分ける。造形の際は樹脂の硬度は実際の成形樹脂に近いものを選定する。たまに切削による試作品を作って動きの検証を行う場合はある。

 「しかし、あくまでこれは試作評価に過ぎませんし、構造自体の評価は出来ても、スナップフィットや間接などの固さ・ゆるさなど最終的な評価は、実際の成形品でなければ検証できません」(大榎氏)。

 スナップフィットや間接機構の感触は、第2回で説明したように、テストトライで1カ所ずつ詰めていくしかない。すなわちこれも、図面上で数値化できない情報だ。ただしその調整作業を必要最小限に抑えるため、最終調整を行うことを前提としたクリアランスの設定などの寸法が規格化されている。

 「格好良さ」「スナップフィットや関節の“絶妙な”感触」は、人間の繊細で感覚的な評価基準であり、数値化することは不可能だ。

詳細設計の詰め方

 ガンプラにはさまざまな種類が存在する。そのうちのHG(ハイグレード)はアニメーション設定から伝わる表面的なデザインを忠実に具現化していく。MG(マスターグレード)やPG(パーフェクトグレード)では、外見の要素を忠実に具現化するだけではなく、その内部の構造を想定し、機構やギミックを開発と設計が考えて練りこんで行く。もちろん、それにはアニメーション設定で明確に決められているわけではない情報もだいぶ含まれる。

 ガンダムのアニメーションの世界には時代変遷がある。その中で、技術の進化、流行り廃りも起こっている。そのうえ、単純に時間軸で繋げることができない次元が異なる世界、いわゆるパラレルワールドになっているシリーズもある。特にMGやPGで内部機構を作りこんでいく際は、そういった複雑な設定に忠実であることが鉄則だ。

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