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» 2009年09月04日 00時00分 UPDATE

モノづくり最前線レポート(12):創造的労働に従事できる仕組み作りと感性価値戦略 (1/2)

これからの日本のモノづくりは、いかに感性価値を高める仕組みを作れるかが重要だ。各社の取り組みからヒントを見つけたい

[原田美穂,@IT MONOist]

 2009年8月31日、富士通グループでPLMソリューションを展開する3社(富士通、デジタルプロセス、富士通長野システムエンジニアリング)が主催する富士通PLM実践フォーラム2009(東京)が開催された。本稿では当日の模様をお伝えする。(編集部)

 富士通PLM実践フォーラム2009の基調講演は「グローバル化時代のPLM〜製品戦略からのPLM戦略〜」と題して、青山学院大学 総合研究所 客員研究員でアプライド ブリッジ代表も勤める野尻 寛氏が登壇、「プラットフォーム戦略」や、市場動向への迅速な対応など、グローバル化によってモノづくり戦略に求められつつある製品戦略とは何かについて語った。

これからのモノづくりは「マーケットイン」ではなく「プロダクトアウト」

 経済産業省が毎年発表している「ものづくり白書」をベースに、今後のモノづくりのあり方について提言した。

 読者の皆さんも目にしていることと思うが、「ものづくり白書」では、毎年テーマがある。2007年は「グローバル化」が、2008年は「SCM、オープンイノベーション」がキーワードとして取り上げられている。2009年度版では、製品だけでなく決め細かなサービスやサポートも一緒に提供する「ものづくりとサービスの融合」、楽しさや安心感、使いやすさなどの要因によって製品への共感や愛着を持たせる「感性価値」が今後の日本のモノづくりにとって重要なファクターとなることが示されている。

 その理由として、野尻氏は白書の内容を基に「BRICs諸国の市場などでは米国発の不況の影響があるものの、依然として成長基調にあり、中間所得者層が拡大しつつある」としたうえで、「今後これらの国々は、消費大国としてだけでなく、市場での競合となっていくだろう」と語った。

 「日本と比較して労働単価が安いこれらの国々と競争して優位に立つために必要な差別化のカギとなるのが感性価値の部分だろう」(野尻氏)

青山学院大学 総合研究所 客員研究員 アプライド ブリッジ代表 野尻 寛氏 青山学院大学 総合研究所 客員研究員 アプライド ブリッジ代表 野尻 寛氏p

 具体的には、感性価値とは、「楽しさ」「安心感」「安心感」「ファッション性」など、利用者の感性に訴えるものを指す。

 感性価値を高めるために必要となるのが、持続可能な経営、常に製品のライフサイクル戦略を考えた経営による競争優位を維持し続ける経営であるという。そのために必要なのがPLMのようなマネジメントの考え方だ。「マーケティングと開発設計は、製品戦略フェイズの早い段階でコミュニケーションを取るべきであり、そのために必要な仕組みを整備する必要がある」とした。

 マイケル・ポーターの競争戦略論と、ジェフリー・ムーアの「ライフサイクル・イノベーション」論を引き合いに出し、「機能体系図を戦略的に活用して、固変分解を行ったうえで変動部の固定化活動を行い、機能体系図からの展開マップを考察、展開マップをベースとしたバランススコアカード評価を実施して行くべきだろう」と語った。

 野尻氏によると、PLMなどの開発インフラを整備したうえで、集約された情報を基に、自社技術の中で、標準化すべき部分、オープン化すべき部分、自社独自の技術として世代を超えて保持し続けるべきコアの部分をきちんと切り分けていくことが、これからの製品開発戦略には必須となるという。

 本フォーラムでも折に触れ言及しているとおり、PLMは単なるツールではなく、製品・企業の将来を左右する重要な戦略モデルである。

 また、不況の今こそ日本がリードするためのチャンスである、としたうえで、「マーケットインではなく、プロダクトアウトとイノベーション戦略を重視し、機種・世代を超えて価値のあるコアコンピタンスを確立していくことこそが、市場で持続的にリーダーシップを取っていく際に必要になるだろう」と締めくくった。

 以降、各企業におけるPDM、PLMを活用したモノづくり環境改善の事例が紹介されたのだが、それぞれの事例で共通するのが「現場の設計担当者に考える時間を与えられる仕組み作り」を目指している点だ。

 感性価値を高めるために必要な要素はPLMインフラの整備だけでなく、製品の土台となる部品や品質、全体像を決定する設計者たちが創造的な活動に取り組める環境づくりも重視しなくてはならない。以降のセミナーセッションでは、現場設計者にいかに考える時間を作るかが、各社の製品戦略の1つのテーマとなっていることが伺えた。

日産の次世代製品開発を支えるのはNXとTeamcenter

 日産自動車は現在「日産GT」プランを掲げ、2012年までにゼロエミッション車市場でのリーダシップ獲得、品質におけるリーダシップ獲得を目標とした活動を続けている。

 2008年からの世界的不況の影響は同社も少なからず受けているが、つい先日発表された8月の自動車出荷台数ではプラスに転じるなど、活動の成果が現れてきている。また、ゼロエミッション車市場に向けたアプローチとしては、2010年後半に発売を予定している量産型電気自動車「リーフ」をすでに公開している。

 こうした取り組みの一環として、同社においても、より高い品質を目指し、設計環境の見直しが図られている。具体的には「設計者の操作効率を20%向上させ、設計者に考える時間をつくる」「日産が取り組んでいるV-3P(Value Up Innovation of Product Process Program)活動の支援」という2つの目標を達成するためのインフラ作りだ。

 日産自動車 エンジニアリングシステム部主任 藤田 浩司氏によると、同社の開発環境について、「従来I-Deasが使われてきた。I-Deasがシーメンスに統合されたこともあり、新たにNXの導入に踏み切った」という。拠点をまたぐ開発はもちろん、さまざまなサプライヤと連携した自動車開発全体のフローを、設計ツールNXやTeamcenterシステムを駆使した事例が紹介された。

 例えば ドアの『かじり』検証の場面では「旧来の環境では3時間半以上掛かっていたものが新環境下では1時間程で完了するように」なるなど、作業効率向上に効果がみられているという。

 同社では2009年度内にパイロット車種で、フルNX設計による開発を実現し、開発サイクルやサプライヤ連携の検証を行ない、2011年度をめどに新規車種をすべてNX環境で開発することにしている。

日産自動車 エンジニアリングシステム部主任 藤田 浩司氏 日産自動車 エンジニアリングシステム部主任 藤田 浩司氏
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