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» 2009年09月11日 00時00分 UPDATE

3次元データ活用入門(3):10倍の給料をもらえるモノづくり環境を目指せ (1/3)

景気回復局面でV字回復を成し遂げられた企業と、そうでない企業の間では何が違うのか。3次元データがその謎を解くカギの1つを握っている。モノづくり企業が「知のめぐりのよい企業」として組織力、企業力をつけるための仕組みづくりを考える。

[鳥谷浩志/ラティステクノロジー,@IT MONOist]

 前回は、製造業の勝ち残りの方策として、高付加価値製品の重要性を説明しました。これを実現するうえで大切なことが、複雑化する高付加価値製品の設計品質を早い段階で作り込むことです。そのための三種の神器として、軽量3次元データを利用した手軽なDMUソリューションとして以下の3つを紹介しました。

  • 設計の品質を高めるデザインレビュー
  • メカトロニクス製品のソフトウェア設計を支援する機構シミュレーション
  • 製造効率を高めるための工程設計

 今回は、製造現場を活性化する方策として、軽量3次元データを利用したテクニカルドキュメントの重要性を紹介しましょう。

現場の人材に襲い掛かるフラットな市場での戦い

 世界に冠たる日本の製造業とよくいわれます。この強い製造業を支えてきたのが、製造の現場でした。この現場にもグローバル化とそれに伴う変化が容赦なく襲っています。

 例えば、熟練労働者に代わって現場には若手の経験の乏しい社員が増えたり、景気の変動で派遣労働者は次々と入れ替わり、製造ノウハウが伝承できなかったり、コストや発売地域を考慮してグローバルな適地生産が進む、などといったことは規模の大小はあれ、皆さんがいままさに直面されていることではないでしょうか。

 こういった現象が製造業各社の悩みになっています。これまでは、設計は3次元化されていても、現場では図面や帳票をベースとした仕事の仕方が中心でした。IT環境が整った現在、これを利用することでもっと大きな効果を出せる仕事の手法もあるはずです。

 経済がグローバル化するということは、同じアウトプットを出す労働者の賃金は、長期的には、世界中で同じ賃金に収束するということを意味します。中国やインドと同じアウトプットしか出せなければ、工場労働者の賃金は下がる一方でしょう。では、どうすればいいのでしょうか?

10倍の生産性を上げて10倍の給料をもらえる環境にする「三種の神器」

 幸い日本には、現場に優秀な人がいます。この人たちの能力を最大限に活用することは大きな競争優位を生み出すでしょう。これまでもQCサークルのように現場独自の品質改善運動への取り組みはありました。ITの力でこれを、もっと大きな力に変えていくのです。

 前回も述べたように、軽量3次元データには豊かな「モノづくり情報」が含まれています。この情報を現場に流通させることで、現場を活性化し、現場の力を最大限に引き出すのです。日本の将来を考えた時、途上国の工場より10倍の生産性を上げることで、10倍の給料をもらえる環境を構築していく必要があるのです。

 これを実現するITとして、軽量3次元データを利用したテクニカルドキュメントの活用を考えていきましょう。具体的には以下の3種があります。

  1. 国内外の製造拠点に的確に製造手法を伝達するための作業指示
  2. 3次元データを基軸に情報連動させることで情報の質を高める3次元部品表
  3. 3次元データを利用したテクニカルイラスト作成

 今回は、現場を活性化するためのこれら「三種の神器」に関して、事例を交えながら説明しましょう。

神器1:国内外の製造拠点に的確に製造手法を伝達するための作業指示

 まず、作業指示です。現場で製品の組み付けをする際にも、金型を製作する際にも、作業指示書が広く使われています。ただし、現在の作業指示書には問題点もあります。これは、

  • 現場は多様な資料を参照しながら作業しなくてはならない
  • 熟練の指導者の数も限定される
  • 海外への情報伝達は言葉の壁もあり大変

といった問題があります。3次元データを活用し、3次元アニメーションで情報を伝達することで、これらの問題を解決していくことができます。

 1つの例として、XVLを利用した3次元帳票を作成するツールについて説明しましょう。

 これは図2にあるようにマイクロソフトのExcelに3次元データに張り込み、そこで情報連携する「Lattice3D Reporter」というソフトウェアです。XVLには製品の構成情報や組み立て工程の情報を持たせることが可能です。CADやXVL編集ソフトでこの情報を設定しておけば、これらの情報をExcelのセルの中に埋め込むことができます(注1)。

3次元帳票作成ツール Lattice3D Reporter 3次元帳票作成ツール Lattice3D Reporter

 Excelは製造現場の帳票作成では極めてよく利用されるツールです。そこに3次元データを埋め込み、さらに、必要な情報をセルに簡単に読み込むこともできます。最も重要なことは、これらの情報が連携して見えることです。例えば、部品のリストをセルに読み込み、ある部品の名称をクリックすると、それに対応する3次元形状の色が変化するわけです。こういった情報の連携により、紙よりもはるかに分かりやすく、かつ正確に情報伝達できるのです(注2)。

 前回説明した工程設計の段階で、作業効率の高い工程が設計されていれば、それに対応した作業指示書は、非常に効果的なものになります。XVLを使った事例でいうと、工程設計の結果をWebやExcel形式で配信できるようになります。3次元情報を含んだ情報配信により、多様な情報を一元的にかつ分かりやすく見せ、言語の壁を超えて作業手順を明確に伝えることができます。しかも工程設計がきちんとしてあるので、製造のしやすさや作業性を検証された、高いレベルの作業指示書の配信ができるというのが、作業指示ソリューションの大きなメリットになります。

 拙著『3Dデジタル現場力』の中で、ブラザー工業東京エレクトロンATでの3次元による作業指示の効用について説明しました。

 ブラザー工業では、日本で工程検討したものを作業指示書として海外に配信することで、高い品質のモノづくりに成功しています。一方の東京エレクトロンATでは、現場の作業者が、作業手順書、品質指示書、組み立てチェックシート、パーツリストなどの多様な文書を参照しながら作業をしていることに着目、これらのすべての情報を一元的に管理・閲覧可能にすることで、資料を一元的に表示できるようにしました。作業者は集約された資料だけを閲覧し、また、3次元で形状確認ができるので、作業効率が向上します。重要なことは、このシステムを構築するうえで、現場を巻き込みながら、システムの改善をしてきたことです。この改善の繰り返しによる成功が設計部門と製造現場との連携を生み、「モノづくり情報」の流通を促し、これが品質と効率の向上を実現したのです。


注1:同様のExcelへの3次元データのオフィスソフトとの連携機能については、各CADベンダも強化に動きつつあります。
注2:これは、文字ではなかなか紹介しづらいので、ビデオやデモコンテンツも参照してみてください。
注3:『3Dデジタル現場力


軽量3次元データXVLはいかに進化したのか? その1

 第3世代となったXVLの進化の過程を追うことで、軽量3次元データに何が必要とされているかを検証してみましょう。

 第1世代のP(Precise)-XVLが誕生した2000年ごろには、Web時代の到来が叫ばれていたものの、まだ一般のネット回線は電話回線を主体としたもので、細い回線でいかに大量の3次元データを送るか大きな課題でした。

 ラティス・テクノロジーでは、いかにデータを軽量化するかに力点を置いて、XVLを開発しました。その結果、曲面データを効果的に活用することで、軽量性と精密性を両立させたP-XVLを生み出すことに成功したのです。


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