燃費向上に貢献するCVTは、嫌われ者いまさら聞けない シャシー設計入門(4)(2/3 ページ)

» 2009年09月25日 11時00分 公開

ハイレシオ時とプーリー

 高速走行時(ハイレシオ時)には自動車に十分な慣性力があり、エンジン回転をどんどん車速へと変換していく状態ですので、変速比は小さくする必要があります。

 つまり駆動側であるドライブプーリーの一番外側と受動側であるドリブンプーリーの一番内側にドライブベルトが圧着することで小さな変速比を作り出します。

 先ほどもご覧になったと思いますが、下の写真における両プーリーとドライブベルトはエンジン停止〜発進時(ローレシオ)の状態です。

ALT 図2 ハイレシオ時の状態ローレシオ時の状態

 ドライブプーリー側は可能な限り内側にドライブベルトが入り込み、ドリブンプーリー側は可能な限り外側に出ていますね。もちろん高速走行時ではこの正反対になります。

ALT 写真2 発進時の状態

 さてここまでは一番変速比が大きなときと一番小さなときとで説明しましたが、CVTにおける一番の醍醐味は変速方法です。ドライブプーリーは油圧を掛けることで溝幅が狭くなり、ドライブベルトが外側へと押し出される構造になっています。逆にドリブンプーリーは油圧が掛かっていなくても内部にスプリングが入っており、常に溝幅が狭くなる方向へと力が加わっています。ただし油圧を下げすぎるとドライブベルトが滑ってしまいますので、滑らない油圧が最低限掛かっていることになります。

 先ほどの写真ではドライブプーリーには油圧がほとんど掛かっておらず、溝幅が広くなっているのが見て取れます。

 これは

  「ドライブプーリーの油圧<ドリブンプーリーの油圧+スプリング力」

となっているためにドリブンプーリーの溝幅を広げられないためです。

 実際の変速時(加速時)では、ドライブプーリーの油圧が「ドリブンプーリーの油圧+スプリング力」の合力よりも高くなるように調圧されます。ドライブベルトの長さは変わりません*2 ので、ドライブプーリー側の溝幅が狭くなろうとする力(ドライブベルトを外側に押し出そうとする力)がドライブベルトを介してドリブンプーリーの溝幅を広げていきます(ドライブベルトを内側に食い込ませる)。*2 加速時などにおける若干の伸縮も考えられますが、混乱を避けるためにここでは伸縮しないと考えます。

 溝幅が狭くなるということはドライブベルトが外に押し出されて径が大きくなり、溝幅が広くなるということはドライブベルトが内側に入り込むことになり、変速比が小さくなっていきます。この状態は段付きのギアでの変速時の「ファースト」「セカンド」といった“設定された変速比”がなく、無段階で変速比が変化していきますので「無段変速」と呼ばれます。

 アクセル開度や車速など、自動車の走行状態を認識するための多くの情報をセンサーから集め、エンジンコントロールユニット(ECU)がその情報を基に最適な油圧を判断します。さらにECUが信号を発して油圧の値を両プーリーに伝えて調圧させます。

燃費向上と無段変速

 さて長々と無段変速の作動について説明してきましたが、何となくお分かりいただけましたでしょうか? 重要なのは「プーリーの径を油圧で変化させることで変速比を生み出す」という部分です。無段変速では当然ともいえることですが、これが昨今の燃費向上技術において非常に大きな役割を担っているのです。

 エンジンには燃料消費量とパワー(前に進もうとする力)とのバランスが最適となる回転数が存在します。一般的にはエンジンの最高回転数の40パーセント程度が最適であることが多いようです。要はその回転域で少しでも長く走行できれば、燃費向上に寄与できるわけです。

 一般的な有段式トランスミッションであれば、その最適な回転域と速度とが両立する状態に到達するまでに、複数回の変速をしながら、最適でない回転数での走行をしばらく続ける必要があります。例えば最終的に「4速3000rpmで60km/h」という最適な状態になったとしても、道路状況によってはすぐにこの領域での走行ができなくなってしまいます。つまり有段式トランスミッションでは最適な状態での走行は限られた条件がそろったときにしか実現できないのです。しかしCVTの場合は違います。

 最適な回転数が3000rpmだとすれば、この回転数を維持したままで変速比を無段階で自在に変化させ、加減速を行うことが可能となるのです。有段式トランスミッションでは変速比は決められており、エンジン回転数を変化させることで加減速を行うのが通常ですので回転数を維持したままというCVTの制御方法に違和感を覚えるかもしれません。

 CVTでは、変速比を電子制御化された油圧コントロールによって変速比を自在に変化させるため、

  「最適な回転数を長時間維持した状態での走行が可能となる=燃費向上に寄与する」

というのがCVTの最大の特徴で、メリットであるといえます。

 そのほかのメリットとしては、CVTは構造が有段式に比べて複雑ではなく、構成部品点数が少なくて済むため、価格競争が激しい昨今では非常に重要である「コストダウン」に有利となります。ほか、変速ショックがない(当然ですが……)、有段式に比べて軽量であるといったメリットもあります。

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