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» 2009年10月09日 00時00分 UPDATE

過剰在庫と欠品を撲滅! TOC/S-DBR(1):「売れないものを作らない」を仕組み化するシンプリファイドDBR (2/2)

[村上 悟/ゴール・システム・コンサルティング,@IT MONOist]
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日本製造業の課題はいったい何か

 この調査データをご覧になっていかがでしょうか、どこを見ても「世界一」のかけらも見えません。データがおかしいんじゃないか、そう思われた方もいらっしゃると思います。

 しかし、われわれが使っているデータはブルームバーグ(注3)という世界中の証券アナリストたちが使っている信頼度ナンバーワンのデータベースです。

日本の製造業の通信簿はオール1

 グローバル競争が激化する中、日本製造業は低成長、低収益、低資産効率というトリプルパンチに見舞われています。このデータを見る限り、日本の製造業の通信簿は「オール1」といっても過言ではないのです。

 このような状況にもかかわらず、いまだに「日本の製造業は世界一」という幻想を抱き、今回の不況はウォールストリート(アメリカ)の拝金主義がもたらした不幸な一過性の災厄ととらえることは厳に戒めなければなりません。

 しかし、各企業の現実的な取り組みは、生き残りのための「短期的なコスト削減」、「追加リストラ」の域を出ていないように見えます。

キャッシュを生み出す力を弱くている根本要因

 では、どういう方向に改善を進めていけばいいのでしょうか。

 この調査からも読み取れるように、日本製造業はライバル諸国に対して、在庫が多く、低利益に甘んじています。そのためキャッシュを生み出す力が弱く資金的な制約を抱えています。資金的な制約は新しい技術や製品を生み出す制約に直結し、さらに競争力の低下を引き起こします。

 本来日本の製造業がまず取り組むべきなのは、「不確実な外部環境、需要変動や商品ライフサイクルの短期化の動きに、経営資源を同期させ、キャッシュフロー創出を最大化する経営体制の構築」なのです。

 製造面でいえば、需要の変動に速やかに対応し、同時にサプライチェーン内の在庫を欠品することなく極限まで圧縮する、これを両立できるサプライチェーンの仕組み、すなわち受注から納品までの時間を極限まで圧縮することが求められているのです。


注3:ブルームバーグが提供する金融プロフェッショナル向けサービス。


TOC-DBRの効果と課題

 このような課題に対してTOCがどのように対応できるか検討してみましょう。TOC-DBR(ドラム・バッファー・ロープ)は工場内の在庫削減、リードタイム短縮、生産性向上には確かに有効に機能してきました。

 ボトルネックに着目した生産改善の仕組みは、素早く、確実に企業内のリードタイム、在庫を削減し、隠れた生産能力を引き出します。

 これまで、筆者の会社が手掛けたTOC-DBR導入事例では、最短6カ月でリードタイムを半減させ、隠れた生産能力を20%程度引き出すなど著しい成果を挙げています(表2)。

社名 リードタイム削減
(最大)
リードタイム削減
(平均)
在庫削減率 生産能力
日立ツール
(切削工具)
70%以上 50%以上 50%以上 20%増 
セイコーエプソン
(半導体)
80%以上 58%以上 40%以上 20%増 
日立化成グループ
(カーボン製品)
60%以上 40%以上 25%以上 15%増 
日本特殊陶業
(セラミック製品)
80%以上 50%以上 50%以上 20%増 
A社
(セラミック・パッケージ)
45%以上 35%以上 25%以上 20%増 
表1 鉄鋼・化学・エレクトロニクス・自動車セクターの営業利益状況(注4)
2009年6月5日時点で円換算時価総額5000億円以上の企業(社数)

 DBRの導入により、企業は自社内の「製造リードタイム短縮」「在庫圧縮」によってサプライチェーンに眠っているキャッシュを掘り起こすことができます。また、サブプライムショック以前の経済環境であれば、向上した生産能力は素早く新しい売り上げに変換され企業収益に直結したのです。

 いうなれば、制約条件が工場内にあればTOC-DBRの威力は100%発揮され、著しい成果を挙げることができたのです。

 一方でこれまでのDBRでは、次のような問題が指摘されています。

市場制約への対応 物理制約(工場内に物理的なボトルネック工程)が存在する場合はボトルネック工程を起点としたスケジュールが組めるが、市場制約の場合スケジュール起点がなくなる

可変ボトルネックへの対応 プロダクトミックスや需要の変化によってボトルネック工程が変化すると生産システムの再構築が必要になる

ボトルネックと出荷期日の不整合 ボトルネック工程と出荷という2つのスケジュールがコンフリクトを起こして、納期遵守率を100%に引き上げることが困難である


 要するに、制約条件が社内外を動き回り、変化が速い今日のような経営環境に素早く対応するには、従来のDBRでもまだ十分ではないということなのです。

 もちろん、これはTOC-DBRだけの課題ではありません。

 例えばジャストインタイム生産は、中品種中量の見込み生産以外には対応できません。トヨタ生産方式は後工程引き取り方式だから、受注生産だろうと思う方もいると思いますが、そうではありません。

 図らずも今回のサブプライムショックで露呈したのは、生産の平準化を実現するために、どれだけ「見込み生産」をしていたかだったわけですから、それを考えればすぐに分かるはずです。


注4:新聞・雑誌などで公表されている事例のみ抜粋。


解決の方向性は?

 さて、ここまで読んで、今日の製造業をめぐる課題と実現すべき方向性にお気付きの読者もいらっしゃるでしょう。

 いま求められているのは、経営の側面、企業環境の側面両方から「需要の変動にスムーズに対応し、欠品することなく在庫を極限まで圧縮できるサプライチェーンの仕組み」なのです。

 そしてこの体制は企業単独ではなくサプライチェーン上のプレーヤがウィン-ウィンの関係を実現し、最終の市場・顧客の満足を高める取り組みによって最大の効果を発揮します。

 すなわち、部品サプライヤー、セットメーカー、代理店、流通、小売といったこれまで利害が相反すると思われていた企業をつなぎ込み、顧客満足を高め、競争優位を構築することが求められるのです。

よりシンプルな考え方を実現するS-DBR

 TOCの新しい方法論、S-DBR(シンプリファイドDBR)は、従来のDBRよりも極めてシンプルな考え方に基づいています。S-DBRで管理するのは納期と投入日程の2つしかありません。

 企業間にまたがるサプライチェーンをコントロールするためには、複雑な仕組みでは機能しません。「売れないものは『造らない』仕組み」を極めてシンプルに作りたいのです。

 サプライチェーン内の「欠品」と「過剰在庫」を同時に削減し、工場の混乱を鎮めるシンプルな方法論が求められるのです。

◇ ◇ ◇

 次回からは、いよいよ環境変化に対応できる新しい仕組み「S-DBR」という考え方を具体的に見ていきましょう。


筆者紹介

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ゴール・システム・コンサルティング株式会社 代表取締役社長
村上 悟(むらかみ さとる)

国際TOC認証機構 正式認定コンサルタント。
大手製造業にて経理、原価計算を担当、社団法人日本能率協会を経て株式会社日本能率協会マネジメントセンター分離独立に伴い移籍。1997年、TOC(Theory of Constraints)研究会を組織し、TOC研究とコンサルティングを開始する。2002年8月にゴール・システム・コンサルティング株式会社を設立し、代表取締役に就任。現在、法政大学講師、日本TOC推進協議会理事長。
ゴール・システム・コンサルティング株式会社は日本最大のTOC専業コンサルティング会社。導入企業に確実に利益をもたらすコンサルティング力はゴールドラット博士より多くの絶賛を受けている。
近著に『儲かる会社のモノづくり マーケティング 売るしくみ』(中経出版)、『問題解決を「見える化」する本』(中経出版)がある。



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