分かる! 太陽電池の仕組みと種類進化するモバイル技術の基礎講座(2/3 ページ)

» 2009年10月21日 12時00分 公開
[上口翔子MONOist]

発電効率/変換効率について

 太陽電池の性能を表す際に、「発電効率」「変換効率」というように、似たような意味合いの表記がされている。この2つは広義では同じだが、一般的に変換効率といった場合には太陽電池そのものが発生したエネルギー効率を意味し、発電効率といった場合には、コネクタやパワーコンディショナーなどの外部装置も含めたシステム全体としての効率を指している。

 また、変換効率にも“セル変換効率”と“モジュール(複数のセルを接合したもの)変換効率”があり、それらを同率で比較することはできない。セルだけを見ても、8cm角なのか15cm角なのかによって異なるので、変換効率と記載されている際には、どの面積に対する効率なのかをしっかり把握することが重要となる。


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例えばセル変換効率が20%だとしても、モジュールにすると18%だったり。さらにパワーコンディショナーでも数%のロスがあるから、太陽電池を買う側からすると、発電効率を意識した方が良いかもね。


各太陽電池の変換効率


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変換効率の話に関連して、理論変換効率についても少し紹介しよう。太陽電池の変換効率には理論上の限界値があって、その限界値は先ほど紹介した種類ごと違うんだ。


 シリコン系太陽電池はその性質上、変換効率の理論限界値が29%だといわれている。それに対し化合物系太陽電池は吸収できる光波長範囲が広いことから、理論限界値が一説では(集光した場合)70%まで出るとされ、工夫次第では50%の変換効率を超える太陽電池が実現するともいわれている。ただし製造が非常に複雑で値段も高いことから、現在は宇宙用途がメインとなっている。


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化合物系は製造コストが下がればシリコン系のシェアを越すかもしれないね。


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そんなに単純じゃないけどね。



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む。だって、変換効率が高い方が良いに決まってるじゃん!


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まぁそうなんだけど。太陽電池は発電効率の向上と同時に低コスト化も求められる。だから製造メーカー各社はその両方を満たすような技術開発を進めているだね。


シリコン太陽電池〜結晶系と薄膜系の違い〜


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ここからは、現在市場でメインとなっているシリコン太陽電池について、結晶系と薄膜系の違いを解説していく。


基本的な違い(製造工程)

 シリコンは、「ケイ素」という地球上で酸素の次に多い元素を原材料に用いている。ケイ素はもともと土や砂などに含まれている自然物で、毒性がなく、地球にやさしい。シリコンはケイ素を、酸化して(SIO2)ケイ石とし、そこから酸素を抜く(還元する)ことで、金属球シリコンを作成する。

photo 結晶系シリコンの製造工程(シャープのホームページより転載)

 結晶系(単結晶/多結晶)シリコンの場合はその後、さらに金属球シリコンに含まれている鉄分やアルミニウムなどの金属不純物を取り除くことで、高純度ポリシリコンとする。単結晶の場合はそこから引き上げという工程があり、溶融炉、坩堝(るつぼ)の中にポリシリコンを入れ、高温度でシリコンを溶かし、それを回転させながらゆっくりと引き上げることで、直径20〜30cm、長さ2mほどの円柱(インゴット:純度99.99999%のシリコン単結晶)とする。

 そしてインゴットを厚さ200μほどにスライスしたものがセルの元となる。単結晶の場合は、このように純度の高い(99.99999%)シリコンを作るために溶融炉から引き上げるという作業を行っているため、製造コスト(値段)が薄膜系と比較して高くなる。

 一方、単結晶太陽電池は製造に手間とエネルギーが掛かるため、もう少し簡素化して作っているのが多結晶となる。ポリシリコンを四角い鋳型の中に入れ、高温で溶かした後、そのまま冷やす。すると大きな塊ができるので、その塊をカットして15cm角高さ20〜30cmのブロックとし、さらにそれをスライスして、後は単結晶と同様の工程でセル、モジュールとしている。これが結晶系(単結晶/多結晶)シリコンの製造工程となる。

photo 薄膜系シリコンの製造工程(シャープのホームページより転載)

 対して、薄膜系の工程はまったく異なる。金属球シリコンをガス化(SiH4:モノシランガス、水素とケイ素の化合物)し、それをほかの数種類のガスとともにプラズマCVD装置(真空装置)の中に入れ、電気でプラズマ状態を起こすことで、ガラス基板上に2μほど(アモルファスの場合は0.3μ)の膜を作成する(製膜、広い意味では蒸着)。

 このように結晶系と比較して変換効率は落ちるものの、非常に短い工程(約5分の1)で製造できるという特徴がある(また近年では微結晶という高効率化を図る技術などもある)。

photo 表 結晶系/薄膜系の特性/工法比較

温度(地域)特性


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太陽電池にはそれぞれ温度特性というのがあって、例えばシリコン系であれば寒いほど発電するし、暑い場所では効率が落ちてしまうんだ。


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へぇ。じゃあ変換効率が15%といっていても、温暖地域では12%くらいまで落ちているかもしれないんだね。


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そうだね、あと一般的に薄膜系の方が結晶系よりも高温特性があるといわれていて、例えば表面温度が75℃の場所で結晶の方は20%効率が下がるのに対し、薄膜は10%で済むんだ。だから暑い地域の夏場なんかでは、薄膜系の方が発電量が多くなる(発電能力の温度変化で結晶系が1℃当たり0.5下がるのに対して、薄膜は0.24と約半分で済むというところに由来する)。


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だからよく寒冷地域では結晶系を、日本も含め温暖地域(緯度の低い赤道に近い地域)では、薄膜が良いですよ、というような説明がなされるんだね。


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ただ、もともとの発電効率が薄膜系は結晶系約半分だから、同じだけの発電量を得ようとすると面積が倍近く必要で、つまり面積にあまり依存しない発電の用途(砂漠など)であったら薄膜が良く、日本の屋根のように面積が限られているような場所では、結晶系の方が向いている。というような使い分けがされているね。


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