ビジネスモデルとしてのPLM運用戦略構築のためのライフサイクル管理論(4) (1/3 ページ)

自社の製品開発戦略をしっかり把握しているでしょうか? 製品開発・生産技術の効率化を追求していたとしても、しっかりとした戦略とマネジメント意識がなければ意味がありません。本連載では、マネジメント技術としてのライフサイクル管理を考えていきます。

» 2009年11月19日 00時00分 公開
[久次昌彦/プログレス・パートナーズ,@IT MONOist]

業務モデルが分からないからイメージが付かない

 PLMシステムの多くの製品がCADベンダーから提供されていることもあって、PLMといえば多くの場合、PLM「システム」の側面で語られてきました。

 しかし、PLMシステムを検討されている企業から「BOMの機能やCADと連携できるのは分かったけど、自分たちの業務としてどのように使っていいのかイメージできない」とよく聞きます。

 PLMシステムは単なるソフトウェアでしかありません。ソフトウェアにはそれを使う「業務の前提」がありますが、PLMシステムの場合、システムが活用される「業務モデル」の説明があまり語られていないと思います。これが「どのように使っていいのかイメージできない」理由の1つになっています。

 そこで今回はPLMシステムが支援するビジネスモデル(業務モデル)について解説していきたいと思います。

ビジネスモデルから考えるPLMシステムの活用方法

 PLM(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント)とは、企業内に分散している製品情報を一元管理して、製品開発手法としてのコンカレントエンジニアリングを実現するものです。

部分最適されている情報を全体最適化する仕組み

 PLMを実現するために用いるソフトウェアがPLMシステムになります。PLMシステムのようなデータベースがないと製品開発情報が製品ライフサイクルの各ステージで分散されてしまい、情報の伝達にタイムラグが発生したり、情報の不整合が起こるといった問題が生じます。

 プロダクトのライフサイクルで部分最適に管理されている製品開発情報を、PLMシステムを用いて統合管理して、製品開発業務の全体最適を実現する仕組みがPLM(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント)です。

 これとよく似たフレーズを皆さんもどこかで聞いたことがありませんか?

お金の「大福帳データベース」=ERP、製品情報の「大福帳データベース」=PLM

 そうです、PLMシステムはERPシステムがいっている大福帳型データベースとコンセプトは同じなのです。

 皆さんがよく利用しているERPシステムの場合は、Enterprise Resourceといわれる事業活動を通して、発生するお金の流れの統合管理を実現しました。

 これに対しPLMシステムは製品情報を一元管理することで、製品開発の期間短縮、品質向上、コスト削減を実現します。

図1 ERPとPLMの管理対象とする情報の違い 図1 ERPとPLMの管理対象とする情報の違い

 これら別々の部門で行われている業務をPLMシステムを使って、あたかもレゴブロックを構築するように1つの形にまとめ上げていきます。

 製品開発業務にかかわる各部門はそれぞれ専門機能別に分かれています。そのため部品表や図面などの製品情報も、取り扱う部門により欲しい情報が異なってきます。しかし、正となる製品情報は企業の中では唯一無二で管理されていないといけません。

 そこで各部門で行う情報のインプットとアウトプットを個別の業務要件に合わせて作成し、各部門が欲しい情報を大福帳型データベースから取り出すための流れをビジネスモデルとして定義していきます。レゴブロックを構成する各ピースはさまざまな形をしていますが、完成すると家やお城、電車や飛行機といったものの形になります。

 PLMも同様です。PLMシステムを活用する各部門は個別の業務機能に特化しているため、バラバラです。このバラバラの部分最適業務を維持しつつ、PLMシステムを用いて横串を通し、製品開発情報が整合性を持った形で必要な人に必要な情報を提供するための業務シナリオとして構築する必要があります。

あなたの会社の製品はどのステージに位置付けるべき?

 プロダクト・ライフサイクル・マネジメントのビジネスモデルを考慮する場合、最初に当該企業の製品がライフサイクルのステージのどの部分に位置付けられ、社としての製品力強化のポイントをどこに置くべきかを決めていく必要があります。

 ここからは、ライフサイクルの各ステージについて見ていきましょう。

3つのステージごとに戦略は異なる

 製品のライフサイクルのステージには、新製品投入初期のマーケティングステージ(ステージ1)、製品が市場に定着し始める調達戦略ステージ(ステージ2)および市場が飽和を始めるサービス戦略ステージ(ステージ3)の3つのステージがあります。

図2 製品のライフサイクルの3つのステージ 図2 製品のライフサイクルの3つのステージ

 この3つのステージではそれぞれプロダクト・ライフサイクル・マネジメントの取るべき戦略は変わってきます。

ステージ1:機能優位性でライバルとの差別化を強化

 このステージでは競合に比べ機能優位性を持たなければいけません。技術にフォーカスする形での業務の垂直統合を推進することで、他社と差別化する機能を市場にいち早く提供することを可能にします。

主役は設計とマーケティング部門の垂直統合プロジェクト

 このステージでは設計部門とマーケティング部門が主導権を持って業務を推進する形のビジネスモデルを構築します。

 このステージで一番大事なのは上市タイミングの機会損失を最小に抑えるとともに、競合に先立ちブランドを構築することです。

 よって設計部門とマーケティングによる垂直統合型でプロジェクトを推進し、製品としての機能の実現とブランドの確立を実現するための情報活用を実現するビジネスモデルを構築する必要があります。

ステージ2:品質向上と標準化・流用化率強化

 このステージでは品質向上と製品の原価低減を実現する必要があります。技術の垂直統合だけでなく、後工程を巻き込んだ業務の水平分業を推進し生産性を上げることで、ものづくりのノウハウを製品に反映して、品質向上と原価減価低減を達成します。

主役はすべての生産工程の水平分業プロジェクト

 また、このステージでは設計部門に対し、ものづくりの視点でのフィードバックを行い、設計の標準化や流用化率を向上を推進します。

 これを実施するには、品質保証部や購買、工場などと連携してコスト削減と品質向上を推進していくための情報を関係部署間で共有する仕組みが求められてきます。

 そのためにはステージ1の垂直統合型の業務から、各部門に仕事を分散させる水平分業型の業務シナリオを織り交ぜた形でのビジネスモデルを構築します。

ステージ3:さらなる原価低減と生産性の向上

 ステージ3:このステージではさらなる原価の改善と生産性の向上を実現する必要があります。後工程との密接な協業による水平分業業務の高度化を実現し、顧客満足度の向上を達成します。

 製品によっては基本原理はあまり変わらずに、オプションやサービスを収益の源泉としている製品も多くあります。

 これらの製品の場合はステージ1のような製品開発中心のプロジェクトではなく、社内外を問わずにモノづくりを分業し、「設計しない設計」を実現し、コストと時間を削減し、品質を向上させるビジネスモデルを描いて業務に定着させる必要があります。

自社が実現すべきビジネスモデルを掌握する

 ここで注意したいのは、業態やジャンルによってビジネスモデルが異なるという点です。

 例えば、家電業界と自動車業界では製品開発の時間軸も求められる品質基準も異なってきます。また、同じ自動車業界でも自動車を組み立てる会社と部品を生産する会社でそれぞれビジネスモデルが異なります。

 企業によっては新商品で事業を伸ばす会社と、社内で取り扱っている70%以上の製品が流用設計されている製品を扱っている企業ではおのずとプロダクト・ライフサイクルのステージが異なるため、実現すべきビジネスモデルも異なってきます。

ステージの把握→ビジネスモデル構築の順に考える

 プロダクト・ライフサイクル・マネジメントを実現するに当たっては、まずマネジメントすべきプロダクトのライフサイクルにおけるステージを明確にした後、PLM実現のビジネスモデルを構築する必要があります。

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