コスト削減時代にグローバル市場で先手を打つ! 〜経営に効果のあるIT投資とは何かモノづくり最前線レポート(14)(1/2 ページ)

少ない予算で勝負するIT投資を実現するには? 短納期を要求される生産現場の課題解決策、「アメーバ経営」方式の連結経営の導入も紹介

» 2009年11月26日 00時00分 公開
[原田美穂,@IT MONOist]

2009年11月19日秋葉原UDXカンファレンスホールにおいて「Infor Solution Day 2009〜次の成長へ! ビジネス・イノベーションを実現するグローバルでのシステム統合」が開催された。本稿では当日のセッションの中から、当フォーラム 読者の関心の高いトピックを中心に紹介する(編集部)

限られた予算の中でも勝ち残るための先手を打たなくてはならない

 当フォーラム読者の皆さんなら身をもって感じられていることと思うが、世界的不況の影響は日本の製造業界にも大きな打撃を与えた。同時に、従来のセオリーに則った生産方法では対処しがたい課題を突きつけられたと感じた方も多いのではないだろうか。

 世界市場を視野に入れた戦略的な事業展開の必要性や、世界規模での業界再編といった話題は、決して超大手企業だけのものではなく、中堅・中小企業も巻き込む、ダイナミックなものになりつつある。加えて、企業会計の分野においても、国際財務報告基準に適合した会計制度の導入が数年後に迫っている。

 景気が低迷するなか、各企業の情報システム部門担当者は、限られた予算の中でこれらの課題に対処することが求められている。

日本的な大規模IT投資では勝てない時代

 セミナー最初に登壇した日本インフォア・グローバル・ソリューションズ 代表取締役社長 村上 智氏は、講演中、日本的IT投資の特殊性とリスクについて指摘した。

 日本ではグローバルでシングルインスタンスのシステムを提供しようとするITベンダーが多く、ユーザー企業側から見ると金額的にも期間的にも大規模なプロジェクトが非常に多く、世界と比較して、日本では、より長期間、より高額なITシステム投資をする傾向にあるという。

日本インフォア・グローバル・ソリューションズ 代表取締役社長 村上 智氏 日本インフォア・グローバル・ソリューションズ 代表取締役社長 村上 智氏

 「ところが、こうした日本独特の長期間にわたるプロジェクトでは、システム完成のタイミングが遅すぎ、完成するころにはビジネス環境が変化している場合が多く、プロジェクト開始時点と要件が大きく異なってしまうリスクがあります。せっかく完成したシステムでもすぐさま改修が必要であったり、要件の変更に対応する必要があったりと、非常に効率が悪く、問題が発生します」(村上氏)

 シングルインスタンスで提供されるERPの巨大な1つの「大福帳」では、拠点ごとの製番の差異や、製品ごとに異なるユニット単位や通貨、会計基準などをERPの統一した仕様にマッチさせるために、さらなる投資が必須となる。M&Aなどが頻繁に行われる昨今、こうした仕様ではとてもビジネスの速度にシステムが追いつかなくなることが懸念される。

 では、こうした課題を解決し、限られた予算の中でグローバル化に対応した仕組みを構築するには、どのような方法があるだろうか。

 村上氏は「当社の提案するInfor Open SOAのように、いまある仕組みを生かしながら統合して行く仕組みはこうした課題への1つの解決策になる」とし、既存のシステムどうしを柔軟に接続できるInfor製品の優位性を強調した。同製品の具体的な優位性については、別のセッションで詳細が解説されているので、本稿後半で確認いただきたい。

 同社の提供するInfor Open SOAの仕組みはIT投資コストを低く抑えたい中堅・中小規模の企業にも有効だという。

 「この数年、中堅の製造業向けのシステム戦略をサポートしてきた経験からみても、少ない予算で要件を実現するためにInforの提案するSOAベースのアーキテクチャは非常によくフィットすると考えられる」(村上氏)

 基調講演に登壇した株式会社アイ・ティー・アール 広川 智理氏は、「再成長に向けたITコスト最適化のあり方」と題した講演を行った。

 講演中、広川氏は、情報システムの投資が経営者に理解されない理由として、システム投資の効果が外部に見え難い状況が1つの原因であると指摘し、投資管理と効果測定・評価の徹底による成果の見える化を図る必要があることを強調した。

 その例として、保守運用コストのブラックボックス化を挙げ、情報システム部門のコストにおいて、保守運用費用が増大する傾向にあると指摘したうえで、妥当性評価が不足していることがコスト増加につながっているとした。こうした問題は、要件や評価の可視化を積極的に実施し、システムベンダーとの関係を主体性あるものにしていくことで解消できるものであるとした。

アーキテクチャ優位性と業界に特化した決め細かなチューニング

 日本インフォア・グローバル・ソリューションズ インダストリーソリューション・ビジネスコンサルティング本部 執行役員 本部長 笹 俊文氏は、Infor Open SOAアーキテクチャの特徴とグローバル経営システムの親和性の高さをより具体的に紹介した。

開会挨拶の中で、村上氏から新たに同社のプロフェッショナルサービス部門に参画した牧野 正之氏が紹介された 開会挨拶の中で、村上氏から新たに同社のプロフェッショナルサービス部門に参画した牧野 正之氏が紹介された

 同社のSOAベースのシステムは単なる情報の接続ではなく、複数元帳を管理するAdvancedGeneral Ledger(AGL)、データウェアハウス的に情報を集約するBusiness Information Services(BIS)、グローバル規模で在庫を一元管理するInventory Control service(ICS)などの機能を、独自のインテリジェントな分散型のサービスバスとして機能する「OnRamp」によってスムーズなデータ統合を実現する。

 この中でも注目すべきコンポーネントの1つであるAGLは、拠点ごとの元帳とグローバルで統合する元帳のように複数の元帳を、整合性を保ったまま保有できる「複数元帳」を可能にする仕組みだ。各拠点の迅速な判断や、会計処理を妨げることなく、グローバルでの連結会計にも同時に対応できる。IFRSへの対応も同様の仕組みを利用することで、大きなシステム変更を伴わずに対応できることや、OAGの仕様に準拠していることから、自社システム、他社パッケージとの接続の安全性が保障されている点も見逃せない。

 さまざまな情報を集約する際のカギとなるサービスバス機能であるOnRampは、トランザクションの整合性を保障する機能を持っており、同時にデータのバージョン情報も保持している。このため、エラーなどのクリティカルな問題に対しても、データの整合性を維持できる。また、複数ノードで相互にログを保有するため、万一、システムがダウンした場合でも、各ノードのログ情報をもとに安全なデータを提供し続けることができる。

 このようなアーキテクチャの優位性は、さらに業種ごとに異なるニーズに対応すべく、組み立て加工系、プロセス製造系、医薬・食品系と、業界に特化した決め細かなチューニングが施され、業種別のソリューションとして提供されている。

 当日は、業種ごとにより詳細なセッションが展開された。本フォーラムでは、組み立て加工系製造業に携わる皆さんが多いだろうことから、この分野を中心にセッションを紹介する。

組み立て加工系製造業ならではの課題と対策とは

 近年の組み立て加工製造業の抱える課題の1つに、受注生産時の個別仕様作成の煩雑さ、見込み受注生産によるムダの発生、製品のトレーサビリティの問題などが挙げられる。

 業種別セッション冒頭で、日本インフォア・グローバル・ソリューションズ 佐藤 幸樹氏が紹介したのは、組み立て加工系製造業ならではの悩みに対して、Infor製品がどのような取り組みを行っているかだ。

さみだれ式生産、ハイブリッド型生産、特注BOM管理、PSI予実の可視化

 佐藤氏によると、組み立て加工系製造業では、一般的なERP製品の機能だけでは対応しきれない課題が数多くあるという。

 例えば、内示のあと顧客の注文がなかなか確定しないケースでは、見込みでの生産に踏み切らざるを得ない場合もあるが、Infor ERP LNの場合、部品ごとに受注確度を設定でき、確度が指定した値以上になった場合に「さみだれ」式に生産を開始できる機能や、特注品のための「特注BOM」 管理機能が提供されている。

 これによって、生産工程のなかに潜むあいまいな要素を含めて、適切で均質な管理が実現できるようになる。こうした仕組みがシステムとして提供されているため、的確な短納期化と在庫削減を安全に両立できるようになっているという。

 また昨今話題になる、製・販・在の予実比較も随時一覧で確認できるため、実績を基にしたPDCAサイクルによる改善活動のための情報が随時入手できる仕組みになっている。

同期生産を意識した時・分単位での管理体制

 「自動車完成品メーカーでは時・分単位での生産管理体制をしいているため、Tier1以下の部品供給メーカーも同様の管理体制が必要」と、佐藤氏。

 ITシステムへの大きな投資が難しい中堅以下の製造業で、こうしたきめ細かな生産管理を実現するためにもInfor ERP LNの提供する組み立て加工系製造業向けのノウハウは非常に有効だという。

 Infor ERP LNでは、便や時刻別の出荷管理機能のほか、同期生産方式に対応した機能も提供されている。また、顧客ごとに異なるため管理が煩雑となりがちなEDI経由の受発注についても、Infor ERP LN単体で、プログラムレスでさまざまなパターンに対応するため、自社の生産情報と受発注状況の連携も、タイムラグなく非常にスムーズに連携できるという。

 同様に、ハイテク装置メーカー、精密機器製造メーカーなど、組立加工といえども製品ごとに異なる各企業の課題がどのようなものかが示され、それぞれのニーズに対応できる実績と実力を持つInfor製品の製造業への理解の深度が分かる内容となった。

 佐藤氏は最後に「一元的な管理が難しかった情報をすべて統合し、時間的ロスなく数値として可視化することで、企業全体の収益を増大させていく仕組みを提供しているのがInfor ERP LN」である、としてセッションを締めくくった。

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