経営と現場の情報は「超」シンプルにつなぐべしセールス&オペレーションズ・プランニングの方法論(1)(1/3 ページ)

現場の「情報」と経営の「数字」を結ぶシンプルな体制とは? 組織全体でPDCAサイクルを月次に回し、迅速に判断するために必要なプロセスとは?

» 2009年11月30日 00時00分 公開

ライバルとの勝負に勝つのは、不可抗力ともいえる市況の変化を迅速にキャッチしてダメージを最小限に抑えるスピードを得たものだけ。ならば迅速な判断に必要なプロセスとはどんなものだろうか。セールス&オペレーションズ・プランニングの方法論から、製造業のあたらしい管理手法をひもとく(編集部)

バリューチェーンの国際語としてのS&OPプロセス

 「世界のバリューチェーンから日本がはじかれる!? S&OPに対応すべきこれだけの理由」で、日本企業がセールス&オペレーションズ・プランニング(S&OP)に取り組む必要性(WHY)について紹介しました。

 新連載「セールス&オペレーションズ・プランニングの方法論」の第1回では、S&OP、特に「S&OPプロセス」(WHAT)について取り上げます。

サプライチェーンのプロセス参照モデル「SCOR」に登場

 サプライチェーン(もしくはデマンドチェーン)の重要性が指摘されてから10年以上がたちますが、「MONOist 生産管理」の読者であれば、サプライチェーン関連のビジネスプロセスの標準化を目指したモデルとして、米サプライチェーンカウンシル(SCC)が開発しているサプライチェーンのプロセス参照モデル「SCOR(スコア)」(注1)について耳にしたことのある読者も少なくないと思います。

 SCORでは、組織におけるサプライチェーン・プロセスを、「計画(Plan)、調達(Source)⇒製造(Make)⇒配送(Deliver)、そして返品(Return)」と定義しています。これは、サプライヤー⇒製造業⇒流通業⇒最終顧客というサプライチェーンのパートナー間で連鎖する形で表現できます。

 SCORでは、当初は大きく「調達⇒製造⇒配送」の3つに区分していましたが、後に、返品物流の重要性から、「返品」を追加し、さらに、サプライチェーンにおける計画機能の重要性の高まりから、「調達⇒製造⇒配送そして返品」の4つのプロセスの計画機能を外出しするなど継続的に改定が加えられてきています。

サプライチェーン計画のベストプラクティス=それがS&OPだ!

 SCORには、参照モデルとしての性格上、各ビジネスプロセスのベストプラクティスが紹介されています。「サプライチェーン計画」のベストプラクティスとしては、もちろん、皆さんも予想されるとおり「S&OP」が掲げられています。

 ただ残念なことに、SCOR上でのS&OPの解説は、APICS(米国生産在庫管理協会)のオンライン事典(注2)の解説が紹介されているだけです。これではS&OP関連の情報共有と実践が進んでいない日本にとっては、皆目見当もつかないのが実情といったところでしょう。

S&OPプロセスとは:S&OPの真骨頂は、そのシンプルさにあり!

 S&OPのグルには、提唱者であるリング氏に加え、ガーウッド氏やウォーレス氏らがいます。グルの1人であるガーウッド氏は、「S&OPは、エグゼクティブマネジメントにとって、概念的にはシンプルでありながら最もパワフルなツールの一つである」(注3)と語っています。

図1 この図が何を表すかは本稿末で紹介しています 図1 この図が何を表すかは本稿末で紹介しています

 それでは、S&OPがいかに「概念的にシンプル」であるかについて、皆さんと検証していくことにしましょう。


注1:SCORはSupply-Chain Operations Reference-modelの略称。米サプライチェーンカウンシル同日本支部)。現在「SCOR」第9.0版の日本語版が発行されています。
注2:APICSの“APICS Dictionary”によるS&OPの解説を要約すると次のようになります。「S&OPは、通常、マーケティング、製造、技術、財務、資材からの情報を使って作成される。需要と供給をバランスさせ、財務計画と業務計画を統合し、そしてハイレベルな戦略計画と日々の業務を連携させる一連の意思決定プロセスである」
注3:拙著『S&OP入門』の「推薦のことば」より引用。


「需給調整(PSI)」がビジネスの要である

 製造業や流通業といった業種では、製品/商品やサービスの需給調整がビジネスの要となります。これをうまく回すことができなければ、欠品が生じ、顧客に製品や商品を提供することが難しくなり、機会損失が増大したり、売れない製品や商品、仕掛かり品、部品や原材料などが増加し、在庫管理コストが増えるため、キャッシュフローの悪化につながるといった事態になりかねません。

 需給調整は、一般に「PSIProduction;生産、Sales;販売、Inventory;在庫)」などとも呼ばれています。

デマンド・ドリブンの発想

 このPSIに、お客さまを起点とするデマンド・ドリブン(需要駆動)の発想を加えると、プッシュ型のPSI(生産、販売、在庫)よりも、プル型のSPI(販売、生産、在庫)の方がシックリ来るといえるでしょう。これが、S&OPのSales(販売)とOperationsとなるわけです。ここで、オペレーションズは生産と在庫といった供給全般を意味しています。

火事場の調整ではなく中期のマネジメントを視野に

 需給調整といえば、現場にスーパーマンがいて、直近の1〜数カ月間を対象として、日々、やりくりに追われていることを想像するかもしれません。しかし、実際には大手・中小を問わず、状況はより複雑で難解なものになってきています。とても人の力だけでは太刀打ちできませんし、数カ月程度しか見られないようでは、問題のない調整は不可能といっていいでしょう。

 グローバル化に伴う市場や供給拠点などのバリューチェーンの分散、製品ライフサイクルの短縮に伴う新製品開発リードタイム短縮などを考えれば、計画対象期間として中期を考える必要性が出てきます。

 また、計画対象期間を中期に設定すれば、新製品のみでなく、需給に影響を与える、製造ラインや工場の新設、M&Aなどの戦略的施策までを考慮したマネジメントが必要になってきます(これをS&OPでは「新規アクティビティ・マネジメント」と呼んでいます)。

マネジメントの意思決定のために財務評価を加える

 市場状況が厳しいいま、企業活動においてはいままで以上に最大限の利益創出が求められているのです。

 例えば、内製か外注か、製造ラインや工場の新設や統廃合、M&Aなどの意思決定を最小限のリスクで適切に行うためには、正確な財務評価が必要です。

 また、中期経営計画や事業計画とも(机上の空論のような理想的見込みではなく)現実的な連動が必要です。同様に、この計画が実際にどのように実行されているかも正しく把握できなくてはなりません(これをS&OPでは「統合された調整活動」と呼んでいます)。

PDCAサイクルを月次に回す

 ビジネスを取り巻く環境変化が激しい時代にあっては、この需給調整プロセス(S&OPプロセス)を少なくとも月次に回すことが求められます。

ITを積極的に活用し「見える化」を推進

 サプライチェーンのプレーヤ間の情報共有、統計的需要予測、CRM(顧客関係管理)、需要に見合うリソースのシミュレーション、そして経営ダッシュボードなど、ITを積極的に活用する(これをS&OPでは「データ収集」と呼んでいます)。

 以上見てきた需給調整機能の展開は、取りも直さずS&OPプロセスが、以下のようなニーズに対応して進化してきた過程のものであることを示しています。

  • EU(欧州連合)をはじめとするビジネスのリージョナル化、そしてグローバル化の流れへの対応
  • 絶え間なく変化し続け、先が見えない中でのビジネス戦略の策定と実行に対するニーズへの対応
  • インターネットをはじめとするITの進展への対応

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 こうしてみると、S&OPプロセスは、ビジネス環境の変化に対応する形で進化を遂げてきた、合理的かつシンプルなサプライチェーン計画のベストプラクティスであることがお分かりいただけるでしょう。

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