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» 2010年01月20日 11時00分 UPDATE

いまさら聞けない シャシー設計入門(6):アイスバーン上も楽々走行する4WDの仕組み (1/2)

積雪時の走行でも安定して走れる4輪駆動車(4WD)には、構造や作動の異なるさまざま方式がある。

[山本 照久,カーライフプロデューサー]

 今回は自動車の駆動方式の中で、特に寒冷地や悪路走破などで昔からなくてはならない存在である「4WD(Four-Wheel Drive )」の機構について解説します。4WDはその名のとおり「4輪駆動車」という意味であり、一般的な乗用車に装備されている四輪すべてにエンジンの動力を駆動力として分配しています。

*筆者注: 1* 四輪以上装備している自動車で全輪駆動の場合はAWD(All Wheel Drive)といいます。
2* 参考までに、2輪駆動を2WDと表現することがあります。

 非常に基本的なことですが、どうして4WDが寒冷地(凍結路面)や悪路を得意としているのかを説明します。

 仮に200馬力のエンジンを搭載した自動車があるとしましょう。この自動車が2輪駆動(FF)であった場合、前輪だけにエンジンの駆動力が入力されることになりますので、前輪の左右それぞれに100馬力ずつ分配されることになります。

 さてここで、凍結路面など非常に滑りやすい路面を走行する場面に遭遇したとします。

 「ラフなアクセル操作をしたり速度を出し過ぎたりすると、スリップ・スピンをするから危険だ!」

ということは、理論的に説明できなくても何となくイメージできると思います。

 そもそもスリップに代表される、自動車のコントロールを失う危険な状態というのは、

 『タイヤのグリップ力(路面をつかむ力)を超えた駆動力や遠心力、慣性力などの外力』

がタイヤに加わったときに発生します。

 ここで重要になるのは、タイヤのグリップ力という部分で、これは路面温度(気温)・状態、タイヤ自体の性能によって大きく変化します。

 難しい表現では非常に分かりにくい部分ですが、簡単な例であらためて説明します。

 例えば雪道を運転するとき、乾燥したアスファルトで運転するときよりも明らかに滑りやすい状態であることが分かりますね。この状況をさらに「グリップ力<外力」であることを理論的に説明するために、少しむりやりですが数値

を入れてみましょう。

*筆者注:
ここから先はあくまでイメージの世界です。実際の現象とは少し異なっていますので、ご了承ください。

  • 乾燥アスファルト路面における1輪のグリップ限界力:150
  • 雪道における1輪のグリップ限界力:50
  • アクセル全開時における駆動力:エンジン出力で200馬力

*それぞれ直進状態でのグリップ力とします

 乾燥アスファルト路面のときが「グリップ限界力:150」ということは、2輪駆動車(FF)の場合は前輪の左右それぞれに100馬力ずつ分散されることになり、

  150グリップ−100馬力=50グリップ

 つまりアクセル全開でも50グリップという余裕を残した状態で、まったく問題なく走行できることになりますね。

 ただし直進状態でのグリップ力ですので、この状態でカーブなどを曲がろうと思うと50グリップを超えない横Gが条件だと分かります(超えた時点でスリップ・スピンです)。

 では問題の雪道を考えてみましょう。

 雪道ではグリップ力が50となっていますので、アクセル全開では

  50−100=−50グリップ

となりますのでタイヤが空転して発進すらできません。つまりこの状況で走行しようと思うと、アクセルを半分以下にして、グリップ力50を超えないエンジン出力に抑える必要があります。

 さてこの説明だけだと、雪道でスタック(脱出不能)になるようなことってないような気がしませんか? 要はグリップ力を超えないようにアクセル操作を慎重に行えば、空転して進めなくなるようなことはないはずだからです。

 しかし実際には自動車本体の重量(車重)という大きな荷物を動かさなければいけないという問題があります。仮に山道を上っているときに、車を前に進めるために必要な馬力を120馬力だと仮定しましょう。このときに2輪駆動車だと、1輪に加わる駆動力は最低でも60馬力必要だと分かります。

 ですが積雪時における路面のグリップ力が50だとすると、

  • 前に進むための出力は120馬力以上必要(2輪駆動の場合は1輪当たり60馬力必要)
  • 路面グリップは1輪当たり50(2輪駆動の場合は出力100馬力以下)

というどちらの条件も成立しない最悪の状況に陥るケースが発生します。

 非常に極端な例でしたが、実際に雪道を走行しているときに想像以上に路面グリップが低くなっているアイスバーンなどに停車してしまうと、先述したような状況になって前に進めない(スタック)ことになってしまう場合があるのです。最悪の状況では、停車しているだけで車が後退してしまうケースもありえます。

 さてここで活躍するのが4WDです。

 4WDは4輪駆動ですので、エンジンの出力を四輪に分配することになります。つまり先ほどから例として挙げている200馬力の自動車の場合は、出力の200馬力を1輪当たり50馬力ずつに分配することになると分かりますね。

 この200馬力の4WD車であれば、2輪駆動車だとスタックしてしまったら……

  • 前に進むためには、出力は120馬力以上必要
  • 路面グリップは1輪当たり50

という条件でも問題なく走破できることが分かりますね。

 このように、4WDは四輪自動車において最も理想的な駆動方式といっても過言ではない、非常に安定した走行性能を実現することが可能です。

 悪路走破性だけではなく、ハイパワーマシンでも4WDを採用することがあります。これは1輪当たりに分配される馬力を抑え、余すところなくハイパワーを走行性能として活用することを目的としています(日産GTRやランボルギーニなど)。

 冬季になるとスタッドレスタイヤを装着する方も多くいらっしゃると思いますが、これは雪道などにおけるタイヤの限界グリップ力を向上させることを目的としています。

ALT 写真1 スタッドレスタイヤ

 4WDは限界グリップ力を高めることはできませんが、各駆動輪に分配される駆動力を低く抑えることで限界グリップ力を超えないようにします。スタッドレスタイヤを装着することは、限界グリップ力を高めることが可能になりますので、2輪駆動・4輪駆動を問わず非常に有効な手段だと分かりますね。

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