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» 2010年01月20日 11時00分 公開

いまさら聞けない シャシー設計入門(6):アイスバーン上も楽々走行する4WDの仕組み (2/2)

[山本 照久,カーライフプロデューサー]
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4WDのデメリット

 さてここまで4WDのメリットを説明してきましたが、デメリットもあります。もしデメリットがなければ、ほとんどの車で採用されているのですが……。

 まず1つ目は、「4WDという機構を追加する=部品点数が増えてしまう」ことによるコスト増加です。

 参考までに同じ車種・同じグレード・装備における「FF:4WD」での販売価格を 国産車で比較してみます。例えばある自動車を購入するにあたり、ベースが2輪駆動である仕様から4WDにアップグレードするとしたら、平均額で20万円ほど必要になります。

 2つ目は、「部品点数が増える=車重の増加」による燃費の悪化と乗り心地の悪化です。

ALT 写真2 4WDに必要な追加部品の一例

 特に最近では燃費向上のために車重をいかに軽くできるかが非常に大きなポイントとなっていますので、4WDを装備することは完全に時代に逆行することになります。乗り心地の悪化に関しては、同じ車種で2輪駆動と4輪駆動を乗り比べないとあまり気にならないかもしれませんね。

 3つ目は、「動力伝達部の増加=抵抗増加+騒音増加」による燃費の悪化・パワーロス、騒音増加です。

 エンジンの動力をいかにロスなくタイヤに伝えられるかが燃費に直結しますので、動力伝達経路をシンプルにし、できるだけ抵抗(伝達ロス)を減らすことが重要です。その点4WDですと、エンジンの動力を四輪に分配するための伝達経路が必要となり、必然的に抵抗が増えてしまいます。ただしハイパワーマシンの場合は燃費をあまり重視していませんので、抵抗が増えてもあり余るエンジンパワーによって十分に補えますのであまり問題にはなりません。

 騒音に関しては、静粛性を求める方にとっては大きなマイナスポイントとなります。

 このように、4WDには自動車としての理想的な走行性能を得られる代わりに、失う代償も相応にあるということが分かりますね。

 もちろん開発者達が、黙ってこれらのデメリットを見過ごしているはずはありません。

 4WDのメリットを十分に生かしつつ、デメリットをできるだけ少なくするための工夫はいまでも繰り返し行われています。それらの工夫は構造・作動の違いにより数種類に分類できます。ここでは代表的な3つの4WDシステムを紹介いたします。*それぞれの名称は各メーカーによって異なります。

【フルタイム式】

 その名の通り、常に全輪に駆動力を分配する4WDシステムです。自動車は走行状況によって1つ1つのタイヤの回転速度が異なります。

 以前にもディファレンシャルの回(第5回)で説明したことがありますが、旋回時における左右輪には回転速度差が発生し、この回転差を吸収するためにディファレンシャルが備わっていると説明しました。

 前後輪においても同様に、さまざまな要素が絡み合って回転速度差が発生します。つまり前後輪の回転差を吸収するためにはやはりディファレンシャルが必要となりますので、「センターデフ」と呼ばれる部品を備えています。

 いうまでもなく全輪が駆動輪となりますので、

  • 前輪用ディファレンシャル
  • 後輪用ディファレンシャル
  • 前後輪回転吸収用センターデフ

という1台の自動車に3つのディファレンシャルを備えていることになります。

 すべての駆動輪が部品を介して連結していますので、仮にどこかのタイヤが空転してしまうと、エンジンの動力が空転しているタイヤにすべて集約してしまいます。これではせっかく4WDであっても、まったく役に立たないことになってしまいますので、一般的にはセンターデフに「直結機構(センターデフロック)」を備えさせています。この直結機構は運転席から専用レバーなどで操作可能となっていますので、必要なときだけ操作することで脱出が容易になります。

 ただしすべての4WDシステムでいえることですが、センターデフロック状態での前後の回転差は、タイヤと路面の間での強制的なスリップによって吸収されます。従って、4輪駆動での走行は滑りやすい路面であることが前提となります。4輪駆動のまま乾いた舗装路などを高速走行すると、タイヤが路面でスリップする際の摩擦力が大きいために、駆動系を破損する可能性がありますので注意が必要です。

【パートタイム式】

 パートタイム式とは、普段は2輪駆動で走行し、4WDとして走行したいときにのみ手動(レバーやスイッチ)で切り替えるセンターデフを備えていない4WDシステムのことです。このシステムでは通常路面走行時における不要な燃費の悪化などを防ぐために、普段は2輪駆動として走行することで自動車としての使い勝手を向上させています。

 ただし切り替えを手動で行わなければいけないことやセンターデフを備えていないことなど、デメリットを持ち合わせています。

【スタンバイ式】

 スタンバイ式はパートタイム式を進化させたシステムで、最近の4WDシステムにおける主流といえるでしょう。この方式は、普段は2輪駆動で走行し、悪路などで駆動輪が空転してしまうような状況になると、自動的に残りの2輪に駆動力を分配するシステムです。基本的に4輪駆動に特化したシステムではありませんので、センターデフは備わっていません。

 必要なときだけ4WDになるという点ではパートタイム式と何ら変わりはありませんが、手動で行う切り替え操作を面倒と感じたり、4輪駆動状態(直結状態)に気が付かないまま通常路面で連続高速走行をするなどで、車を壊すトラブルも少なくなかったことから、このスタンバイ式が考案されました。

 スタンバイ式といっても非常に多くの種類があり、各社独自のシステム&名称があり、その中で最も基本的な構造として認識されているのは、ビスカスカップリング方式です。

 ビスカスカップリング方式はディファレンシャルの回の「ビスカスLSD」の項で説明した構造に非常に似ていますが、ディファレンシャルとは違って大きな駆動力を伝達する必要がありますので、流体抵抗のみでは十分な駆動力を伝達することができません。

 そこでスタンバイ式のビスカスカップリング方式では、密閉容器の中に多板クラッチとシリコン樹脂を封入した物をエンジン搭載位置の反対側にあるデフの前に配置します。前後輪に回転差が生じると、空転によって発生する熱でシリコンが膨張することで多板クラッチが圧着され、エンジンからの動力が伝達されるという方法です。

 この方式ですと、どの程度の熱でクラッチの圧着を始めるかなどの基本設計さえ定まれば、余分な機構が不要となり、非常にシンプルな構造になります。さらに実際の使い勝手としてもレスポンスや効きが非常に良いことから、ユーザーからの評価は非常に高い方式です。ただしこの方式は特定のメーカーが所有している技術であるため、導入するにはパテント料を払う必要があります。各社は、収益確保のためにこの方式に頼らない独自の技術を開発していきました。

 すべてを紹介すると、きっととてつもない量になりますので、今回はこの辺りで割愛します。

 いまではABS用に装備されている車輪速センサを用い、駆動輪の空転を検知したら電子制御式クラッチを作動させることで動力伝達を行う方式などが登場しています。もちろん回転差に応じてクラッチの伝達トルクを変動させていますので、限りなく自然なつながり具合に調整されます。

 このように、4WDシステムにおいても昨今の環境問題のメスが入っています。必要でないときは使わず、必要な場合も伝達ロスをできるだけ少なくする、システム自体を軽量にして燃費悪化を防ぐなど、まだまだ発展途上のジャンルといえます。

 4WDは自動車の性能向上に大きく寄与しますので、可能な限り装備したいものです。ただし装備するかどうかを検討するにあたって最も懸念されるのはやはり「燃費とコスト」であることは間違いありません。できるだけ重量増にならず、さらには導入に必要なコストをできるだけ下げる新たな電子制御技術が少しでも早く実現することを筆者は期待しています。

 次回は「ブレーキ装置」について詳しく説明する予定ですのでお楽しみに!

Profile

山本 照久(やまもと てるひさ)

1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車輌検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。




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