Windchillはソフトもマテリアルも含めた統合プラットフォームを目指す――PTCモノづくり最前線レポート(17)(2/2 ページ)

» 2010年02月09日 00時00分 公開
[原田美穂,@IT MONOist]
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 製品開発の中核といえる3次元設計ツールやドキュメント管理などのソリューションを提供するPTCジャパン。彼らにとって顧客となる日本の製造業を取り巻く環境は、市場構造の変化、海外企業との連携が活発化するなど大きく変わりつつある。今回の記者発表会に先立って、PTCジャパン社長に就任した桑原氏のお話を伺う機会を得た。ここからは、その際の内容を紹介する。


日本の現場を知っていることを最大限に生かしたい

――昨年末に就任されてから約3カ月がたちました。まずは今年のビジョンを伺います。日本の製造業の状況はこの数年で大きく変化してきました。顧客サイドのニーズの変化やその対応を含めて、今後どのようにPTCジャパンの舵(かじ)を切るのでしょうか?

 私はPTCジャパンにとって初のジャパン・ビジネスユニットを創設しました。この事実を非常に重くとらえています。というのも、前職までの経験で日本的コミュニケーションの重要さを身にしみて感じているからです。よく日本の製造業は特殊と語られます。私自身もそのように感じますし、それゆえの難しさも感じています。

PTCジャパン社長 桑原 宏昭氏 PTCジャパン社長 桑原 宏昭氏

 携帯電話しかり、リーン生産方式しかり、日本は常に最先端で高度な仕組みを考案しているという印象です。それゆえに、グローバル基準に合わせて行く作業は、ある意味でダウングレードするようなものですから、不安に思われることもよく分かります。

 しかし、グローバルを考えるとやはり各国の取引先の事情を考慮せざるを得ません。こうした時にPro/ENGINEERのような製品は海外でも一般的な設計ツールとして利用されていますから、比較的対応が容易だといえるでしょう。グローバル設計、コラボレーション設計といった場面でも問題なく情報を流通できるはずです。

 PTCはパラメトリック設計の分野で先進的な成果を残してきました。就任以降お会いしたお客さまからはやはり、先進的なソリューション、モノづくり環境を劇的に改革させる先進的なソリューションを常に求められていると感じています。SaaS/クラウドという意味では、SharePoint Serverベースのソリューションをいち早く提供しました。こうした印象があるためか、お客さまに会うと、常に先進的なソリューションを提案してほしい、という要求をいただきます。PTCなら提案するはずだ、という前提ですね。

パートナー戦略も積極的に

――2009年末にはNECとのアライアンスが発表されました。

 いままでPTCジャパンは、顧客とダイレクトにつながり、直接サポートする体制をとってきました。直接お客さまと対話しながらシステムを構築するため、自社で構築のメソトロジーを保有できる利点はありますが、少ないスタッフで全国をくまなくカバーするにはどうしてもパートナーさまが必要です。先に発表したNECとのアライアンスもその1つといえます。

 ただし、そこで1つ注意したいのは、パートナーさまに頼りすぎないことだと考えています。いままで培ってきた関係をより強固にしつつ、パートナーさまとも連携しながら導入先のお客さまとの距離を近づけて行くことが絶対に必要だと考えています。

 日本的企業文化を理解している私がリーダーシップを取ることの強みとして、導入したら終わり、ではなく一緒に考え、構築していくスタイルを追求していきたいと思います。

日本のモノづくり環境はこの5年で大きく変わるはずだ

――昨今の市場動向を考慮し、グローバル展開を検討し始めている企業は増えているようです。

 現在、多くの企業では海外生産を行っています。大手に限らず、いわゆる中堅・中小企業であっても必要があれば海外で生産を行っています。そこで必要になるのは組み付け指示など、設計工程が終わった後の工程の「外出し」です。この意味で、現在のモノづくりの外部化は限定的なものだといえるでしょう。

 私は、企業のモノづくりはこれからさらに前段階を含めて活発な外部化が進んでいくと考えています。次に外部化(あるいは外部連携)が進むのは設計フェイズでしょう。すでに、先進的なプロジェクトでは複数拠点での設計コラボレーションは実現しています。今後はさらに多くの企業が取り組むことになると思います。

――必要な設計スキルを持つ人材が社外にいれば積極的にコラボレートしなくてはならないでしょうし、また、コスト面の課題から安価な人件費を求める場合もあるでしょう。国内外のスタッフとコラボレートしながら設計を進めていく際の一番の障壁はコミュニケーションです。設計のコラボレーションを実現する際の道具としてSNSやインスタントメッセージ、Webアプリケーションなどの利用を想定していらっしゃいますが、設計開発担当の方の中にはそうした道具そのものをあまり活用していない、あるいは活用してはならない環境の方も多いのではないでしょうか?

 いくら我々が便利な道具であると喧伝しても実際に使ってその便利さ、スピード感を体感していただかないと、魅力は伝わらないかもしれません。ただし、それは皆さんがまだその便利さに気付いていないからかもしれません。一度こうしたコミュニケーションツールを使った開発を知ったなら、もうアナログな媒体を使ったやりとりには戻れないでしょう。そのためにも、今年は私自身を含め、日本のモノづくり産業にかかわる皆さんとの直接的な対話の場を積極的に持っていきたいと考えています。

 また、プライベートクラウドという考えも徐々に理解を得られていくでしょう。クラウドにSaaS的サービスも含むとするならば、WindchillはすでにMicrosoft SharePoint ServerをベースとしたSaaS的な仕組みも提供しています。

 この10年、いや5年で日本のモノづくり環境は大きく変わっていくと思っています。電子メールが登場した際のことを思い出してみてください。「こんなもので連絡できるか」と思われた方も少なからずいらっしゃったようですが、今では当たり前の便利な道具になっています。当社が提供するコミュニケーションツールは、電子メール以上の便利さを提供しています。まず、どのくらい便利になるのかを知っていただきたいと思っています。SNSのような仕組みはすでに提供していますが、これからは音声を含むリアルタイムでのコミュニケーションが確実に普及していくと考えています。ITツールの支援を背景に、グローバル市場で勝負しようと考える企業を積極的に支援するためにも、私自身がお客様のところに赴き、PTCが提供するソリューションへの理解を深めていただきたいと思っています。

――ありがとうございました。

◇ ◇ ◇

 Heppelmann氏が語ったように、PTCは「エンタープライズPLM」としての地位を確かなものにするために、ソフトウェア開発やマテリアル管理などを含めた統合環境を目指している。

 Windchillプラットフォームの強みを日本のマーケットでもより強固にするために、桑原氏を中心にパートナープログラムの拡充や、システム構築経験豊富な同社スタッフによるサポートを強化していくようだ。

 市場ニーズや技術向上により、エレキ・メカ・ソフトが複雑に絡み合った製品が増えつつあるいま、整合性の取れたデータモデル連携が生きる開発の現場も多くなってきている。同社が標ぼうする「エンタープライズ」レベルで安定して利用できる開発インフラへの需要は増えていくことだろう。今後の同社のビジョンとソリューションに注目したい。

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