金型がなくても、個人でも、製品の量産はできる?「技術の森」モリモリレビュー(7)(1/2 ページ)

思い付いた自分のアイデアを商品化したい。でも金型の費用って、高い。では、人件費の安い中国の工場にお願いすればいい?

» 2010年04月28日 00時00分 公開
[小林由美,@IT MONOist]

 今回、『技術の森』の中から紹介するのは、「自分のアイデアを個人で商品化できないか」と考えているという投稿。投稿者は、この投稿で判断する限りは、モノづくりの専門家、設計者ではない。それでも、「大量生産=金型を作る」までは発想できた。しかし投稿者が自分なりにいろいろ調べてみたところ、個人ではコスト面で厳しいと感じたようだ。

 「中国なら人件費が安いらしい」「金型が要らない成形技術があるらしい」など、雑誌やWebなどからと思われる情報より、どうにか希望の光を見いだそうとしている。

金型費用が安くならない理由を知りたい

アイデアを個人で商品化したいと思っていましたが、金型費用が高くて難しいとわかりました。中国企業なら人件費も安いので国内より10分の一くらいの価格で作れたりはしないのでしょうか?

工作機械が高いと安くできないのでしょうか。

将来は、金型の不要な成型技術(レーザーと光造形樹脂など)ができると思いますか?色々調べましたが、まだ、機械が高くて個人が買えるようなものではないようでした。

もしも、印刷の分野のように、CGで作ったデーターを送って、全自動で機械が安く大量生産してくれるようなサービス(自分で組み立てて、製造販売する場合)も出てくる可能性があるのでしょうか。難しいものは無理かもしれませんが、醤油さしのような簡単な形状なら、どうでしょう。

よろしくお願いします。

 熱心だが、モノづくりに関して、いやそれ以前に……、ビジネスに関する知識も乏しい投稿者に、ちょっとあきれながら(!?)も、なるべく優しく答えようとする回答者たち。

 今回は、あえてタイトルの質問「金型は安くならない理由」について、あえて真正面で考えつつ、本来の質問である「自分のアイデアをビジネスにするためには何をしたらいいか」についても考えていく。

 まさに、この問いに答えるため(!?)のキャリアを持つ方、細川 敏宏氏をお招きし、お話をお伺いしてみた。同氏は、板金プレス金型メーカーの経営経験を生かし、中小企業基盤整備機構で中小製造業支援を行っていたこともあり、現在はe-金型研究所 所長、モノづくり創業支援事業 enmonoの顧問を務める。

 恒例のenmono 宇都宮 茂氏による『技術の森』内のコラムも、ぜひご覧いただきたい。

*本記事内の技術の森の投稿内容の転載につきましては、運営元であるエヌシーネットワークの許可を得ています。



金型は将来、もっと安くなるの?

「金型を生業にしてるものとして一言、高い!高い!と文句ばかり言わないで高くても採算のとれるもの考えろ!こちとら試作屋じゃあないんだから、いいもの沢山つくるのに苦労してるんだ!

ってんじゃ話にならんて」(回答3さん)

 「安いか高いかは、結局、モノを何個作るかが問題ですよね。例えば自動車の部品のように100万個も作れば、部品単価は非常に安くなります。また金型に1億かけたとしても、その額を余裕で回収できます」(細川氏)。

 また「安くならない」という話以前に、日本の金型も、最近は海外と比較してそんなに高くないと、細川氏はいう。

 「投稿者がいうように、人件費は国によって変わりますが、設備費は世界中、ほぼ変わりません。また材料費も、日本国外だと、不良品が多いせいで、かえって高く付いてしまう場合もあります」(細川氏)。

 例えば、人件費が安いマレーシアのとある工場だと、機械の償却などすべて含めた1時間当たりのチャージが3000円だという。さて、これは安いか、高いか?

 日本の工場では、1時間当たりのチャージが3000円というのは、ごく普通の額で、そこまでかからない場合すらあるという。大規模な装置を持っているところでもせいぜい5000〜8000円程度。つまり、日本とマレーシアの一般的な賃率はあまり変わらない。

 中国の企業は、一般的に(国際会計標準を採用する大手企業以外は)、減価償却という考え方がないという。減価償却費を型費用の見積もりに入れない故に、一見、日本の見積もりよりも額が安くみえてしまう。

 「例えば、ある機械を買ったとして、それは10年たてば、機械としての価値がなくなるとします。10年後に機械を買い換えるため、少しずつお金を積み立てていくこと。簡単に説明すれば、それが減価償却の考え方で、日本ではそれが普通です。一方、中国の一般的な企業では、機械のために多額を投資したら、以後の顧客数社のリターンから機械の費用が回収できればいいか、と非常にざっくりとした感じで考えています」(細川氏)。

 中国の工場と相見積もりを取られる日本の工場は、減価償却費を見積もりに入れたいが、躊躇(ちゅうちょ)してしまう。回答者の1人も、こんなことをいっているが、まさにそれだ。

「ウチでは金型(プレス金型)費用に機械の費用をあまり加えないようにしています。(本当は加えたいですけれど・・。)」(回答6さん)

 それから、EMS(電子機器の受託設計・生産サービス)には、最新鋭の検査装置や金型は完全に広告だと割り切る企業もある。設備をショールームの代わりにし、そこへ企業のエグゼクティブなどを招き、自分たちの技術力をアピールする。「そういう企業は、型費用が赤字でも構わないと割り切っているのです」(細川氏)。そのような企業たちとの競争は、日本国内の中小メーカーにとっては、正直、頭が痛いことだろう。

 回答6氏はこんなことも述べている。

「ほかの先生方も言われていますが、きっちり管理をしていかないととんでもないものを中国は作ります。そして航空代もかかります。

その覚悟がおありならば止めはしませんが、大変だと思いますよ」(回答6さん)

 日本の工場では、1人の担当者が3ラインを見ることもあるが、アジア圏の企業では1つのラインに何人も張り付く場合が多い。これは、安い人件費や、工場の作業者が長い期間定着しないことの対策が理由だという。これでは、本当に安くなるとはいえない。

 ひどいケースでは、工場に監視カメラを仕掛けても、その死角で作業を怠ける、手順書に書かれていること以外は、トラブルになると分かってもやらない、など日本の工場では考えられない価値観で作業が、ごく普通に行われる場合もあり得る。

「中国に頼む場合の製品管理上の問題点と、3割程度しか安くならないということもわかりました」(投稿者さん)

 お国柄による仕事の価値観の違いからくる問題を巧みにコントロールしなければいけないわけだが、そのコントロールもまた、コストとなる。

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