“IP+無線”の最強コンビで拡大するWi-Fiテクノロジー最前線(1)(2/2 ページ)

» 2010年05月20日 12時00分 公開
[石田 己津人,@IT MONOist]
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BluetoothキラーとなるかWi-Fi Direct

 一方、Wi-Fiの適用領域を広げそうなのが「Wi-Fi Direct」である。

 これはWi-Fi機器をアクセスポイントを介したスター型接続ではなく、ピア・ツー・ピア(P2P)型により1対1、1対nで相互接続するための新仕様で、現行仕様にある「アドホックモード」の機能性やユーザビリティを高めたものだ。Wi-Fiチップセットのソフトウェア更新で対応可能であり、米BroadcomなどはAndroid向けにスタックの提供を始めた。通信速度はベースとなる802.11に準じ(最大250Mbps)、通信範囲は最大200メートル。Wi-Fi Directに対応した機器は、非対応のWi-Fi機器とのP2P接続も可能だ。2010年内にも対応製品が登場するという。

 Wi-Fi Directは、USBなどによる有線接続はもとより、同じ短距離無線通信のBluetoothさえも置き換える潜在力を秘める。フェルナー氏は「Bluetoothのプロファイルと違い、Wi-Fi Directは取り扱いやすいIPベース。確かな相互接続性、WPA2セキュリティなどWi-Fiが持つ優位点も継承される。今後は無線化にBluetoothを使うキーボード、マウス、ヘッドセットなどHID(Human Interface Device)も、Wi-Fi Direct対応となる可能性がある」と指摘する。

 Bluetoothでは最新版「3.0」が登場しているが、Wi-Fi技術を取り込んで高速通信モード「HS」を使用した場合でも最大通信速度は24Mbpsと、Wi-Fiと比べて見劣りする。また、Bluetoothの優位点である省電力性も3.0+HSでは送信時の消費電流が数百mAに達し、Wi-Fiと同じレベルになる。つまり、画像や音声の大容量データ転送ならば、Wi-Fi DirectはBluetoothより優位だろう。

 では、Wi-Fi DirectはBluetoothが強いHIDにまで浸透していくのか。例えば、Bluetooth対応キーボードは入力時10mA、待機時0.1mAといったレベル。Wi-Fi Directでもこれに並ぶ省電力性が得られなければ、機器ベンダは採用しないだろう。ただ、すでにセンサネットワーク向けに長期間の電池駆動を可能にする省電力型Wi-Fiチップセットが登場していることを考えれば、半導体ベンダからHID向けのソリューションが提供される可能性もある。いずれにしもてWi-Fi Directにより、いままで以上に家庭内のPC&周辺機器、デジタルAV機器、モバイル機器はWi-Fiで結ばれていくのは確実だろう。

スマートグリッド分野にも名乗りを上げる

 Wi-Fi DirectによりPAN(Personal Area Network)の領域に踏み出す一方、家庭内のあらゆる機器をネットワーク化するHAN(Home Area Network)での覇権を狙い、Wi-Fiは「スマートグリッド」にも適応し始めた。

 スマートグリッドにおいて、家電製品をネットワーク化して制御・監視するための短距離無線通信としては「ZigBee」が有力だが、その業界団体ZigBee AllianceとWi-Fi Allianceは提携を果たし、ZigBeeのスマートグリッドアプリケーション向けプロファイル「ZigBee Smart Energy 2.0」をWi-Fi上でも利用可能にした。フェルナー氏は「ゲートウェイを介してZigBeeのセンサネットワークとWi-FiのIPネットワークを融合。例えば、Wi-Fi機器の消費電力情報をスマートメーターに受け渡したり、逆にスマートメーターの情報をWi-Fi対応のPCやテレビで表示できるようになる」と話す。

photo 画像3 「Wi-Fi採用を政府に働き掛けている」と語るフェルナー氏

 前述したとおり、すでにセンサネットワークにも適応できる省電力型Wi-Fiチップセットが登場している。Wi-Fi陣営としては「技術的にはWi-FiだけでもスマートグリッドHANは構築可能」(フェルナー氏)という考えだが、米エネルギー省が策定したスマートグリッド標準フレームワークにおいて、HAN機器通信および情報モデルの標準としてZigBee/HomePlug、ZigBee Smart Energyが採用されており(HomePlugは米国の電力線通信規格)、連携が“得策”と考えたのだろう。ただし、標準フレームワークは今後も改訂されていく見通しなので、「Wi-Fi採用を政府に働き掛けている」(同氏)という。

 さらにWi-Fi Allianceは、地域の各家庭からの情報を束ねるNAN(Neighborhood Area Network)、最終的にユーティリティ企業に情報を集約するWAN(Wide Area Network)でもWi-Fiを適用できるとみる。NANでは、メッシュ型、自己修復型ネットワークに対応した「IEEE 802.11s」が活用できるという。例えば、近隣のスマートメーター同士が相互にデータを受け渡し、WANとじかに接続する一部メーターを介してすべてのメーターがWANと接続する。これならば最小限のWAN接続点さえ用意すればよい。

 スマートグリッドについては、国や地域、ユーティリティ企業で戦略が違うため、どのような方式が主流になるか、現状では不透明なところがある。それでも世界的な普及度合い(2009年でWi-Fiチップセットの累計出荷台数は20億台を突破)、技術的な成熟度、一貫した相互接続性などのアドバンテージを考えれば、Wi-Fiがかなりの役割を果たす可能性は大きい。それを802.11nによる通信の高速化、Wi-Fi DirectによるP2P対応が後押ししそうだ。

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