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» 2010年06月04日 11時16分 UPDATE

経済研究所 研究員は見た! ニッポンのキカイ事情(4):キカイの世界の営業力 (1/3)

経済研究所の研究員が、さまざまな切り口で加工技術や現場事情を分かりやすくレポートするシリーズ。よりよい設計をしていくために、加工事情について知識の幅を広げていこう。(編集部)

[山本 聡/機械振興協会 経済研究所,@IT MONOist]

1.たまには営業のことも考えてみたい

 本連載では主に機械設計者の方々を対象として、加工現場事情をレポートしてきましたが、技術だけではなく、その企業の「経営」や「組織」、そして「営業」といった部分にも焦点を当ててきたつもりです。それは「優れた経営や優れた組織、優れた営業があるからこそ、技術が価値を持つ」と考えているからです。そうした中でも、筆者は「営業」に特に強い関心を抱いています。なぜなら、モノづくり企業にとって営業とは「売れるモノをいかに作るか」ということです。これは機械設計者の皆さまも、興味があることではないでしょうか。

 今回は過去3回のような個別の企業の訪問記ではなく、「営業」という観点から、モノづくり中小企業全体に対する筆者の私見を述べさせていただきたいな、と思っています。読者の皆さまにはお付き合いのほどお願いいたします。 さて、モノづくり中小企業の大部分は「基盤技術産業」に属しています。基盤技術産業に該当する業種は幅広く、本連載で取り上げてきた精密治具研削加工、鋳造、金型といった業種から、部品の製作・生産まで全て当てはまります。そのため、「裾野産業」、または「サポーティング・インダストリー」といった言葉でも言い換えることができます。基盤技術産業は自動車産業や電気機械産業に高度な部品や加工サービスを提供する産業として位置付けられ、日本経済の国際競争力の源泉の1つとして認識されてきました。

 ところがご承知のとおり、中小企業、もっといえば「町工場」と呼ばれるような企業は鋳造や精密加工といった特定の工程に特化していることもあり、多くの企業が特定受注先に売り上げを強く依存しているのが実情です。(図1)

alt 図1 基盤技術産業の自動車産業への売り上げ依存度・概観(2007年度):アルミニウム鋳物、ダイカストなど自動車産業への売り上げ依存が非常に高いことが分かります(素形材センター『素形材産業年鑑』より作成)

 その一方、筆者は実態調査を継続する中で、いくつかの企業が次世代産業・海外市場を含めた広範な受注先と取引している姿を目の当たりにしてきました。本連載で取り上げた「イシイ精機」「及源鋳造」「ヤマナカゴーキン」といった企業がそうした企業です。なぜ、こうした企業はさまざまな受注先と取引ができるのでしょうか? これが筆者のここ数年来の問題意識、そして本レポートのテーマです。

2.金型企業に営業はあるのか?

 筆者は金型企業にお話を伺いにいくと、よく、

「金型屋に営業なんてない」

「良い技術があれば、顧客は買いにくる」

といったお話をいただきます。これは鋳造や表面処理といった企業でも同様です。しかし、本当にそうなのでしょうか? 本来、企業経営にとって「営業=モノ・サービスを売ること」は最も重要な機能のはずです。どんなに良い技術があっても、それが売れなければ企業が存続していくことはできません。

 一般的に営業というと、営業マンが、

「額に汗をかきながら、顧客を一軒一軒、訪問する」

「カタログを片手に顧客に自社の自動車の価格や燃費、走行性能を説明する」

といったTVドラマや漫画などで描かれるステレオタイプの姿がイメージされます。これはセットメーカーの、特にエンドユーザーを対象にした営業であり、部品や加工技術といった中間財を提供する中小モノづくり企業の営業とは本質的に異なるものです。

 基盤技術はその名のとおり、加工技術の総称です。よって、その「営業」とは「ほかの加工技術に対して、自社の加工技術の優位性」を顧客に「提案」することです。例えば、金型プレス企業A社は「切削加工で製作するモノをより安価なプレス加工で提供する」ことで新たな受注を獲得しています(図2)。前回のハイブリッド車の精密鍛造用金型の事例からもうかがえるように、日本国内で製造される部品は非常に複雑化していて、大手セットメーカーでも「自分たちが必要とする加工技術がどこにあるのか分からない」といった事態に直面しています。こうしたことからも、「提案営業」の必要性は非常に高まっているといえるでしょう。

alt 図2 従来は切削で加工していたものをプレス加工で作る

 実際、筆者が実施したアンケートでは「営業活動における顧客への技術提案」を「重要である」と考えている企業が非常に多いことが分かります(図3)。ところが、企業がそうした技術提案をできるような「営業人材」を積極的に育成しているかというと、そうでもない、むしろいまだに「良い技術があれば、顧客は買いにくる」といった考え方が主流であることもうかがえます(図4)。

alt 図3 営業活動における顧客への技術提案は重要か? 鋳造、金型、表面処理企業へのアンケート結果1:注)2009年10月-12月に国内鋳造、金型、表面処理企業2010社に送付(回収327社)(機械振興協会 経済研究所編〔2010〕、p.69)

 それでは企業はどのように提案営業をしていけばよいのか、もっといえば提案営業ができる人材をどのように育成していけばよいのでしょうか。

alt 図4 モノづくり人材・営業人材を一人前にするのに要する年数 鋳造、金型、表面処理企業へのアンケート結果2 注:2009年10月-12月に国内鋳造、金型、表面処理企業2010社に送付(回収327社)(機械振興協会 経済研究所編〔2010〕、p.69)

3. 営業人材に必要な3つの能力

 「提案営業」ができる人材にはどのような資質が求められるのでしょうか。筆者の直近の調査からは「自社の強みの把握」「顧客とのコミュニケーション能力」「社内の部門間の調整能力」が必要とされる能力だといえます。順に見ていきましょう。

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